第7話―愛の迷路―

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――秋の季節を肌で感じながら、俺は花壇の所であの少女が来るのを静かに待った。読みかけの本を開いてパラパラと指先でページを捲る。そして、ぼんやりと考えていた。  今までこうして、誰かを待つ事が無かった自分にとっては珍しく新鮮に感じた。いつもは一人の時間が多い。誰かを待ったりする事もない。誰かと話したりする事もない。完全に人との繋がりや、関係を断ち切った中で生きていた。なのに今はこうして、他人が来るのを本を読みながら待ってる。変な感じだ……。  花壇の上に腰を掛けながら一人で待っていた。真上にある木から、赤く染まった紅葉(もみじ)の葉がヒラリと落ちてきた。開いた本の上に乗ると、それを手に取ってジッと見つめる。  深紅色に染まった葉を見ていると、遠い昔を不意に思い出した。秋空に染まった綺麗な紅葉(こうよう)の景色が目に蘇る。それは酷く懐かしい気分だった。そう、あの時はきっと幸せだった……。 「うっ…――!」  手に持っていた紅葉(もみじ)を見ていたら、突然あの発作が始まった。急に胸が息苦しくなってきて、鼓動が早くなると目の前が暗くなった。  「はぁはぁ……! くっ……!」 息苦しくてしょうがなくなると、片手で胸元を掴んで耐えた。そうしているうちに益々と症状は悪くなってくる。急に目眩と頭痛がして、もう片方の手で自分の頭を押さえた。そして、何処からか人の囁く声が周りで渦巻くようにざわめいて聞こえた。  何でも無い風が人の話し声に聞こえる。それは自分の周りを取り囲むように、段々とハッキリと聞こえてきた。その不気味な声に心を取り乱した。 「やめろ……! やめろよ、やめろ…――!」  見えない相手に向かって腕を激しく動かすと、宙を手で払うように必死に叫んだ。全身から発汗と冷や汗が同時に襲ってきた。其処で俺は突然のパニック症状に陥る。 『ううっ!』  急に息が出来なくなった。まるで誰かに首元を強く締められている感覚を感じると、自分の首を両手で押さえて必死に呼吸をした。  迫り来るような『死』と『恐怖』が、段々と近付いて来るのがわかる。得体の知れない何かに襲われると視界がグルグルと回った。そして、膝下からガクンと地面に崩れ落ちた。側に落ちていた鞄から薬が入った白いケースを急いで取り出す。 重度のパニック症状に耐えながら、慌てて薬が入ったケースを開けて中から取り出そうとした時、俺は気が付いた。自分の両手が赤く、深紅色の血にベッタリと染まっていることを――。 『うわぁあああああああっつ!!』 自分の両手を見て絶叫した。そして、幻覚を引き金に全ての悪夢が突如フラッシュバックして、一気に頭の中で鮮明に蘇る。それは例えようが無い絶望だった。其処で完全に意識を失うとそのまま地面に倒れた。  その後、誰かが急いで駆け寄って声を掛けてきた。俺は気が遠くなりそうな意識の中で、相手の顔を虚ろな瞳でぼんやりと見る。そして、気を失うように目を閉じた。
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