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漂う意識の狭間で不思議な夢を見た……。
誰も居ない真っ白な部屋の中で、俺はベッドの上に寝かされていた。窓に垂れ下がっている白いカーテンが風に吹かれて静かに揺れている。
眠ったままでいると傍に誰かが居た。そして、俺の手を優しく握った。自分の耳元で話し掛けているのが何となく分かる。その手の温もりがまるで優しい母親みたいだった。
その手から伝わる優しさを感じると、自然に握り返した。顔がハッキリと見えない中で、何故かその相手に安心する。
俺の耳元で何かを囁くと、顔を近付けてそっと唇にキスをした。その柔らかい感触に不意に目が覚める。あれは夢で見た幻だったのか、気が付いたらベッドの上で寝ていた。そして、直ぐ傍に彼女が椅子に座って寄り添っていた。
「――あ、気がつきましたか? 目が覚めて良かったです。今、保健の先生を呼んで来ますね!」
「俺は何で……」
「無理に起き上がらない方がいいですよ、身体に障ります。良かった無事に目が覚めて……」
ベッドの上で頭がボンヤリとしたまま、自分が何故ここに居るのかが分からなかった。そして、この子が何故ここに居るのかさえも全く分からなかった。
「……えっと、相葉さん。花壇で倒れた時の事を覚えていますか?」
「花壇……? 倒れた……?」
「はい。私と花壇の所で待ち合わせしました。来た時は驚きました。だって目の前で倒れてたから…――」
その一言に薄っすらと記憶が戻る。
「ああ、そうだ俺……!」
思い出そうとした瞬間、頭にズキッとする痛みが走った。
『ッ…――!?』
咄嗟に頭を手で押さえると、彼女が慌てて駆け寄ってきた。
「駄目ですよ、そのままジッとしてて下さい。きっと倒れた時に頭を打ったかも知れないですし……」
彼女は心配そうな顔で気遣った言葉を言った。俺は不意に質問をする。
「……いつから其処に?」
「はい、さっきからです。保健室の先生が今、職員室に用事があるみたいで離れてます。だから先生から、相葉さんを看ておいて欲しいと言われました」
「そう……」
「さっきは大変だったんですよ。相葉さんが花壇の所で倒れてるのを見た人達が騒いでて、その後に体育の先生に抱えられたまま、保健室へ運ばれたんです」
彼女はその時の状況を詳しく話した。
「あ、でも……」
「何?」
「いえ、大した事じゃないです――」
俺は彼女の顔を見て話した。
「君さ、俺の手を……」
「手……?」
「いや、何でも無い。きっとただの夢だ……」
其処で言い掛けた言葉を呑むと視線を反らす。
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