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何故か彼女の唇を見ると急に何だか、恥ずかしくなった。夢なのにその感触がリアルに感じたなんて、バカらしくてそんな事を本人に聞ける筈がない。
「――お願いがあるんだ。そこにある俺の鞄、取ってくれる?」
「あ、はい……!」
テーブルに置かれた黒い鞄を取りに行くと、彼女はそれを持って渡してきた。
「どうぞ」
「ありがとう……」
ベッドの上で鞄を開けると、中から青い封筒に入った手紙を取り出した。そして、それを彼女に見せる。
「手紙だけど、あの時は読まずに突き返してゴメン。君を傷付けるつもりは無かったんだ……」
「相葉さん…――」
その一言に彼女は驚いた顔で俺を見た。
「実はあの後、君の書いた手紙を読んだんだ。俺への素直な気持ちは嬉しかった。帰る時、君がいつも同じバス停に居た事も乗ってた事も知らなかった。俺さ、周りとか余り見ないんだ。いつも本ばっか読んでいるから、そう言うの気付かないっていうか……」
彼女の前でぎこちなく話した。普段から他人と話す機会が無かったから、自分でも不自然な顔で作り笑いして話しるのが分かった。その証拠に、俺は話してる時に彼女と目を合わせなかった。目を合した途端に、不安な気持ちになるなんて言えない。きっと変な奴だって思われる。
「でも、ゴメン。やっぱり無理なんだ……」
最後に一言『無理』だと伝えると彼女は一瞬、悲しそうな目をした。そして、溢れ出そうになる涙を隠すように窓の方を見て背中を向けた。
「私も知ってます。相葉さんはバス停でも、バスの中でもずっと下を向いて本を読んでましたよね。誰とも目を合わさないようにしているのを何となく、感じてましたから……」
その一言に胸がドキッとすると、思わず掛け布団を手でギュッと握り締める。
「違う、俺は……!」
「私も実は人の目とか見るの苦手なんです。それに上がり性で直ぐに緊張しちゃうんです。テニスをやってるのは、人に見られて上がっちゃう癖を治す為に何となく始めたんですけど。私の勝手な思い込みだったらごめんなさい。でも、何となく。貴方からそんな気がしたんです……」
彼女は俺に包み隠さずに自分の悩みを打ち明けた。そして、後ろを振り向くと傍に近付いて真っ直ぐな目で話した。
「――貴也さん、私の手紙を読んでくれてありがとうございます。それだけでも十分です。貴方の気持ち、分かりましたから……」
そう言って俺の手の上に彼女の温かい手が重なった。一瞬、驚くと息を呑んだ。手が触れ合うとそのまま黙って俺の手から持っている手紙を受け取った。
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