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第8話―愛と戯れ―(前編)
――俺には、幼い頃から人を惹き付ける何かを持っていた。得体の知れないソレは、ドロドロとした甘い香りがする蜜のように濃厚で、俺に触れた相手は皆、頭がおかしくなっていった。
俺の事を心配した先生も、俺の事を好きだと言った相手も、自分から勝手に壊れて行った。俺は別にその人に壊れて欲しくないのに、どうしてか最後は脆くも壊れてしまう。
俺は何もせず。救う事もしないで、相手が壊れて行く姿をただ見ていた。まるで何かに突き動かれるように、勝手に壊れて破滅した。
そう……。
自分の『存在』が周りをおかしくさせている事に、子供ながらに気がついた時はショックだった。俺を好きだっと言ったあの子は、窓から飛び降りて死んだ。
俺の事を心配した優しい男の先生は、厭らしく体を触って撫でてきた。そして、子供の俺に淫らな思いを向けてきた。そう、あの瞳は欲情の目だった。泣いて嫌がったら止めてくれたけど、俺の心にそれは爪痕のような深い傷を残した。そして、ついには俺の身近で大切な人も壊れた。
大好きだった父さんは、ある日を境に人が変わってしまった。自分の父が壊れてしまった事がショックだった。そして、俺を『息子』だと忘れた父は、欲望のままに身体を何度も求めて来る。
抜け出せないループにハマって、何が本当の現実かも解らなくなって来る。全てが嘘の造り物の世界なら、こんなに悩む事も無いのに。俺はただ、誰かに本当の自分を見て欲しいだけだ…――。
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