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「ああ、そうだ。死にそうな顔でクラスメイトに肩を担がれて廊下を歩いてたっけな……。どうせあの後、保健室に行ったんだろ。お前と初めて会ったあの時も俺の前でそんな顔してたしな」
「誰が死にそうな顔だよ!」
「本当の事だろ。保健室で死にそうな顔をしてた癖に少しは元気になったみたいだな。出なきゃ、此処まで追いかける体力なんて無いもんなぁ?」
そう言いながら茶化してきた。コイツは俺と出会った時から何も変わっていなかった。無神経で、人の事を平気で怒らす事ばかり言って来る。綺麗な顔とは真逆に性格が最悪だ――。
「まさか自殺志願者がストーカー野郎に変身するとはこれは傑作だぜ、おい、何とか言ってみろよ?」
人をまたストーカー呼ばわりして来たので、俺もカッとなって相手の左腕を掴んで言い返した。
「うるさい、さっきから人をストーカーって決めつけるな! それに前に言っただろ、今度お前に会ったら絶対に捕まえるって!」
「放せよ……!」
「俺の名前は死に損ないでもストーカーでもない! 相葉貴也だ、お前の名前を教えろ!」
そう言って射抜くような目で、相手の顔を見て真剣に話した。あの日、死のうと思った時に突然と目の前に現れた少年。俺はそんな彼の名前を知らない――。
「そうか! なら、そんなに俺の名前が知りたければキスで言わせてみろよ!」
「っ…――!」
「どうせお前には出来ないだろ、残念だったな!」
アイツの一言に腹が立った。何処までも無神経で、人を揶揄うのを面白がった。その時、頭の中でプツリと何かが切れる。相手の胸元を両手で掴むとグイッと上に引き寄せた。そして、顔を近付けると俺の方からキスをした。
「ンッ…!?」
その場の勢いで少年にキスしてしまった。自分でもその瞬間は理由がわからなかった。ただ目の前にいる相手に無性に腹が立ったのは間違いなかった。
重なった唇を離すと、アイツは目の前で驚いた顔をした。そして、顔を真っ赤に染めた。肌が色白だったから直ぐに分かった。初めて見るアイツの別の表情を見た途端に胸がドキッとした。それは不思議な感覚だった。驚いて動揺すると、胸元に掴んだ手をパッと放す。
「なっ、何するんだよ…――!?」
突然の事に信じられない顔で聞いてきた。相手から目を反らすと一言言い返した。
「キスしたら俺に『名前』を教えるって言っただろ、これで満足か?」
『なっ……!』
アイツは動揺した声を出すと下を俯向いて黙った。そして、再び顔を上げると俺に向かって言い放つ。
「下手くそ! そんなんで俺が満足するか、出直して来いガキ――!」
思わぬ一言に驚くと目を丸くした。少年は俺に名前を名乗らずに、屋上から走って出て行った。
「どっちがガキだよ、変な奴……」
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