第8話―愛と戯れ―(前編)

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91da1bed-4c34-4c26-943b-b7298a2b251e  放課後の帰り道、手に鞄を持ちながら深い溜め息をついた。どうしてかさっきの出来事が頭にチラつく、それは自分には予想外の展開だった。 「どうしたの胤夢君? そんな溜め息なんかしちゃってさ。それよりお昼の時、僕を置いて一人で行くなんて酷いよ。あの後、ぶつかった人と一緒にプリントを拾うの大変だったんだからね?」 「ん……? ああ、ごめん。聞いてなかった……」   「やだ、どうしちゃったの胤夢君。今日は何だか様子が変だよ? 熱でもある?」  そう言って成田は口に飴の棒を咥えると、心配そうにオデコを触る。 「ん~? 熱は無いみたいだね?」 「うるさい、ほっといてくれ――」 一言話すと触ってきた手を払い除けた。そして、立ち止まると橋の手摺に両肘をついて、川の流れる景色を上からボンヤリと眺めた。 「やっぱり変……! クールでカッコいい胤夢君が、あんな顔するなんて…――!」 後ろで成田が独り言を呟きながら、俺の様子をジッと見ていた。そんな相手の視線に見向きもせずに橋の上で考える。 ――あの男どう言うつもりだ。まさかでキスして来るなんて……! それともただの馬鹿なのか、そのまま真に受ける奴がいるかよ。どう見てもアイツはストレートだろ。 「ふざけるな…――!」 急にムカついてくると親指をギリッと噛んだ。ただの死にたがりの奴が、俺にふざけた事しやがって。  俺にキスなんかしてきて……。  俺に……。  其処で急にあの時の事を思い出した。自分からあの男にキスした時は、ただの気まぐれだった。それに、相手をだけでしたつもりなのに。さっきあの男にキスされた時、身体が熱くなった自分がいた。 あんなの誰かにキスされても一度もなったのに。何でアイツに俺は…――!  何故か急に悔しくなった。  ただのキスだぞ、それだけで俺があんな奴にたって言うのかよ……!? 「名前が知りたいからキスしたとかふざけるな、誰がお前に言うものか!」  其処で思わず怒りを口に出した。キスしてきた後、俺に動じる事もなく。あの涼しげな目で平然と言われたのが余計に腹が立った。 『少しは俺に動じろよ!』  頭の中が怒りでパンクすると大きな声で口走る。 「ちょ、ちょっと胤夢君、落ち着いて……!?」  成田は驚くと恐る恐る話し掛けてきた。其処で隣に相手が居た事をすっかり忘れていたのに気が付く。
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