65人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後の帰り道、手に鞄を持ちながら深い溜め息をついた。どうしてかさっきの出来事が頭にチラつく、それは自分には予想外の展開だった。
「どうしたの胤夢君? そんな溜め息なんかしちゃってさ。それよりお昼の時、僕を置いて一人で行くなんて酷いよ。あの後、ぶつかった人と一緒にプリントを拾うの大変だったんだからね?」
「ん……? ああ、ごめん。聞いてなかった……」
「やだ、どうしちゃったの胤夢君。今日は何だか様子が変だよ? 熱でもある?」
そう言って成田は口に飴の棒を咥えると、心配そうにオデコを触る。
「ん~? 熱は無いみたいだね?」
「うるさい、ほっといてくれ――」
一言話すと触ってきた手を払い除けた。そして、立ち止まると橋の手摺に両肘をついて、川の流れる景色を上からボンヤリと眺めた。
「やっぱり変……! クールでカッコいい胤夢君が、あんな顔するなんて…――!」
後ろで成田が独り言を呟きながら、俺の様子をジッと見ていた。そんな相手の視線に見向きもせずに橋の上で考える。
――あの男どう言うつもりだ。まさか本気でキスして来るなんて……!
それともただの馬鹿なのか、そのまま真に受ける奴がいるかよ。どう見てもアイツはストレートだろ。
「ふざけるな…――!」
急にムカついてくると親指をギリッと噛んだ。ただの死にたがりの奴が、俺にふざけた事しやがって。
俺にキスなんかしてきて……。
俺に……。
其処で急にあの時の事を思い出した。自分からあの男にキスした時は、ただの気まぐれだった。それに、相手を確かめるだけでしたつもりなのに。さっきあの男にキスされた時、身体が熱くなった自分がいた。
あんなの誰かにキスされても一度もなったのに。何でアイツに俺は…――!
何故か急に悔しくなった。
ただのキスだぞ、それだけで俺があんな奴に感じたって言うのかよ……!?
「名前が知りたいからキスしたとかふざけるな、誰がお前に言うものか!」
其処で思わず怒りを口に出した。キスしてきた後、俺に動じる事もなく。あの涼しげな目で平然と言われたのが余計に腹が立った。
『少しは俺に動じろよ!』
頭の中が怒りでパンクすると大きな声で口走る。
「ちょ、ちょっと胤夢君、落ち着いて……!?」
成田は驚くと恐る恐る話し掛けてきた。其処で隣に相手が居た事をすっかり忘れていたのに気が付く。
最初のコメントを投稿しよう!