劫火

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【第二段階 感情がコントロールできなくなる】 「俺の炎消すんじゃねえよブタ! 邪魔なんだよ!」 「邪魔はアンタでしょ!? 作戦会議聞いてないのそっちでしょうが! あそこは私の担当場所だったんだから!」 「うるせえな、痴話喧嘩は戦場でやってこいよ集中できねえだろ!」 「ノーコン野郎が吠えてんじゃねえぞ! 明後日の場所に雷落とす事しか出来ねえクソが!」 「ああ!? 今すぐテメエの脳みそに落としてやろうかマッチ以下!」 「静かにしてよ! 力を高めるのは集中力だって言われてるでしょ! 二度と治さないからね!」 「アンタに頼るなら絆創膏張ってる方がマシよ! この間三人殺した死神が!」 「好きで死なせたわけじゃない! あんたに何がわかるの、殺すばかりで救う事なんてしてないくせに! 人として終わってるやつに言われたくないわ!」  もっと、もっと薬を。薬がないと、力が上がらない。 「どこ、黄色の薬! どこよぉ!? 早くしないと、時間がないのに!」 「薬を探して倉庫に入ったアマリリスは捕えました」 「そう。そんなところを探しても薬は無いのにね。かわいそうに」 「人のものを盗んではいけませんという、基本的なことさえ守っていればこんなことにはならないのですからね」 「あの子が悪いわね」 「そうですね、彼女が悪いです」  罪には罰を。彼女に適した罰とは、ひとつしかない。 「悪い事をするとみんなもこうなりますからね? きちんと成果を上げて適度な量の薬を飲んでください」  変わり果てた姿の雷を使っていた少女。お望み通り薬を飲ませた、一度に大量に。大量摂取をするとどうなるか、目の前に転がっているソレが物語っている。  それを眺める彼らの中に悲しむ者はいない。予想していたし、もはやどうでもいいことだからだ。共に戦っていた時もあったような、気がしなくもない。もしかしたら気のせいかもしれない。 【第三段階 健忘】 自分の名前が思い出せない。仲間の名前も思い出せない。死んでいった仲間たちの顔も名前も、いや、そんなものが存在したことさえ覚えていない。 故郷は? 家族は? 国の名前は? 何のために戦っているの? 敵は誰なの? 私たちは、誰なの? この薬、なんだっけ。ああ、でも。飲まないといけないの。何でだか覚えてないけど。大切なものだから。これがないと生きていけないの。 【末期 暴走】  支給が止まったら後は奪うしかない。仲間だったはずの者達、しかしそんな事覚えていない。自分の能力の薬ではなくても奪う、奪う、奪う。奪うためには戦う、殺し合う。  (ころしあ)いは、いつ終わるのだろう。 「目の前のものをすべてなくせば終わりますよ」 ――でもね。毒って呼ばれるものだって、薬の一つじゃない? だって、人が本来持っているホメオスタシスを無視して。自然の流れをブチ破って、あり得ない恩恵を受けるのが「薬」なんでしょう? 人間だけが。 だったら、その薬で開花させた力はまちがいなく恩恵でしょう? 何を嘆くの? あなたたち、最初は大喜びで人を殺していたでしょう。 「クスリ。そうだ、これをやめればいいんだ。そうしたら、もう戦わなくてすむんだよね? 何もしなくていいんだよね? か、帰れる? そうよ、絶対私には帰る家がある。思い出してみせる」  焼け野原を彷徨う少女。今歩いているそこがかつて自分が暮らしていた場所だと知らずに。焼き払ったのは、自分自身だということも忘れてしまった。
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