劫火

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 ずっと頭が痛かった。痛みを和らげるため薬を飲み続けた。心が落ち着いた。でもいつの間にか一人になっていた。手元に残ったのは赤い薬。これって何だっけ、何で飲み始めたんだっけ。大切なものだったはずなんだけど。でも、どうなんだろう。この薬が大切なんじゃなくて、大切なものがあったからこれを飲み始めた気がするのは、気のせいかな。 体が熱い、焼けるように。まるで燃えているように。 「すべてを終わらせたいなら、それを飲むといいよ」  目の前に真っ白な服を着た少年がいた。顔に、手に、足に、火傷の跡がある。 「それを飲めば、もう苦しまない。忘れてしまったことへの悲しみも消える」  悲しみ? 悲しいの、私は。ずっと感情なんてなかった、と思う。笑ってないし怒ってないし、そうだ、泣いてない。ただずっと頭が痛かったの、モヤがかかったみたいにまどろんで。ずっとずっと、不愉快だった。 「第四段階の末期症状だ。それを飲めば君は終わる。飲まなくても十八歳になったら死ぬけどね。薬で無理やり作り替えられた大脳皮質は元には戻らない。薬を飲んでも飲まなくても助からないんだ、僕らは」  少年の手が燃える。ああ、彼はそうか。私と同じなのか。私はいつから燃えていたんだっけ。 「僕はあと一年で十八歳だ、もうすぐ終わる」  彼の手を取る。すると炎が消えた。その様子を彼は驚いてみていた。それはそうだ、私達……パイロキネシストが、他人の炎を操る事なんてなかった。  もともとそれができたのかはわからない、誰もやろうとしなかったから。もしかしたら。同じ能力者は、他人の能力も使うことができたのかもしれない。協力し合えばもっと助かったのかもしれないけど、自分の能力に溺れて一人で戦ってきてしまった。そうしてすべてを失った、大人の言うことを聞いていただけだったから。 「あなたの一年、私にちょうだい」 「……」  彼の手が、私の手を握り返す。 「大丈夫、私はあと二年あるから。ぎりぎりだけどきっと間に合う」  ぎりぎり間にあう。その言葉に彼は私が何をしようとしているのかわかったみたいだ。 「人として、最後を穏やかに終わらせることもできるのに」 「できないよ。できるわけない、あなただってわかってるくせに」  私は本当に久しぶりに笑った。きっと酷い顔だ。持っていた薬を踏み潰す。 「それに、昔から言うでしょ?」
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