劫火

6/8
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 楽園と呼ばれた、人類の行きついた住処。争いはない、すべて平等で、特別な事をしない毎日。管理者は無作為に選ばれる。誰がなっても同じだからだ。誰もが中央値、すべてが同じ。誰が何に選ばれても同じ。個性などない。それらを受け入れられた、それらが当たり前となった者だけが住む場所。 「つまり全員が等しく馬鹿だってことだろ?」  炎上する楽園、すべてが炎に包まれる。自然も、食糧保管エリアも、町も、人も。水道管を炎が逆流しすべての蛇口から炎が飛び出す。水道が繋がっていない場所などないので、楽園すべてが焼き尽くされていく。 「なんだあれは。第四段階の炎の強さ、いやそれ以上だ。一人で楽園を燃やすなど」 「待っていれば発火するのでは」 「もうしている」  唯一生きている通信モニターに映るのは、全身炎に包まれながらこちらに歩いて来る少年。炭化どころか火傷もしていない、髪の毛も燃えていない。全身、ありえないほどの耐火性がある。  バゴォン、という音と衝撃が響く。司令塔の扉が真正面から砕かれた。 「ハロー、脳みそ三歳児の大人たち。こうなることを本当に予測できなかったのか?」  全身が燃えている少年、十歳ほどだろうか。その姿はまるで炎の神のようだ。 「何で個人の変異だけに注目するのかねえ。効率悪すぎるだろ、一体何百人死なせたんだ」 「まさか、生き残りが子供を作っていたというのか。ありえない、薬を飲んだものは遺伝子変異で絶対に繁殖機能がなくなっているはずだ。そういう計算結果だった!」 「あり得ないって言われてもな。じゃあ俺は何なんだよ? 目の前の事実より空想を信じるとか大した頭だ。計算の途中で足し算でも間違えたんじゃないの」  楽しそうにケラケラと笑いながら、次々と大人たちを発火させていく。響き渡る悲鳴、転がりまわる大人たち。 「弱火にしておくぜ、苦しんでほしいからな。この程度父さんや母さん、父さんたちに殺された人たちの苦しみに比べりゃ足湯みたいなもんだろ?」  燃える、燃える、すべての大人が。苦しみを感じる程度の弱い炎でじわじわと。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!