劫火

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――昔から言うでしょ? 馬鹿につける薬はないって。  馬鹿は誰だ。大人か、子供か、あいつか、あの子か、自分か。 ――お前が産まれた理由はどうであれ。自分が何をして生きるかは、自分で決めていいんだ。父や母の復讐の道具ではなく、何もせず穏やかに暮らすことだってできる。 「じいちゃん。馬鹿につける薬って要は塗り薬だろ? だったら、飲み薬なら治るかもしれないよ」  愚かな、頭が。 「馬鹿共から産まれた子供は馬鹿なんだよ。自由な生き方ってやつはよくわからないんだ」  感情が高ぶるとどうしても炎が出てしまう。物心ついたときから、ずっとずっとずっとつきまとう感情。言葉では表せない、どす黒い何か。こんなものを内に抱えて自由に、穏やかに? 人として暮らせるとでも?  火だるまになって逃げ回る大人を見ながら、くくっと笑って薬を超高温で焼き尽くす。先ほどまでは燃えなかった赤い薬も、炭となる。 「どなたか。馬鹿を治せるお医者様はいらっしゃいますか。馬鹿につける薬はないそうなので、おこちゃまでも飲める……いや、絶対に飲みたがらない最高に苦い薬をお願いします」  どうか、飲みたくない薬を。
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