薬物と更生

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「先生。薬を……薬をください。お願い……します」  僕は眼前の女性に声を絞り出して伝えた。彼女は医者らしい。あどけない容姿からはとてもそう思えないが。僕は薬に飢えていた。  僕がこれだけ薬を焦がれているのに、彼女は怒りの表情を浮かべている。怒りながらも彼女は僕に優しい。 「まったく、仕方ないわね。お薬を出します。腕に麻薬を注射するので右腕のシャツを捲って出してください」 「ありがとう。先生。僕はこれで最後にする」  とても注射器には思えないプラスチックの容器を彼女が取り出す。麻薬の注射は普通の注射器で行うのではないようだ。そして僕の右腕にプラスチックの突起が当たる。一見するとただの水のような液体がぽたりと皮膚に流れ落ちた。  プラスチックの針のような突起が刺さる時、僕は瞳に狂気と恍惚の色を浮かべた。大人の遊びは身体に染み渡る悦楽だ。  そこに僕と彼女の母親が飛んできた。僕達を更生させに来ても遅いのに。もう行為は終わった後だから。母親は眉間に深い皺を寄せて鬼よりも怖い形相をしていた。 「小学生にもなって何やってるの、二人とも。麻薬患者と闇医者ごっこなんてやめなさい! お芝居にかける演技と知識はすごいわ。でも、やるならせめて普通のお医者さんごっこにしなさい!」
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