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お待たせ桔平
きららを寝かせた真宙がベッドに入ってきた。
背中を向けた桔平を後ろから抱きしめ、耳元で囁いた。
「桔平、もう寝た?」
回した手で思わせぶりに下半身を弄り、耳に熱い息を吹きかける。
「いや、まだ起きてるけど・・・・・なに?」
あえて冷たい言葉で答えてしまう。
「怒ってる?」
「なんで?」
「ずっときららの世話してたから、桔平がやきもち妬いてるのかなって」
「息子にやきもち妬くわけないだろ」
「だったら、こっち向けよ」
「眠い」
「桔平・・・・・キスしよ」
「どうしたんだ?別に俺怒ってないから、気にしないで寝ろよ。」
「桔平・・・・・」
真宙が言えば言うほど、胸がモヤモヤして意地でも素直になれない。
どうしてこんな気持ちなのか、なぜ腹が立つのか・・・・・
今日一日、真宙がきららにかかりっきりだったから真宙の言うようにきららに嫉妬しているのか・・・・・自分でもよく分からない。
ただ、寂しかったことだけは確かだった。
「桔平・・・・・ごめん、俺桔平に嫉妬してた」
真宙が真剣な声音で話し始めた。
「嫉妬?真宙が俺に?どうして?」
言葉の真意がわからない・・・・・
「だってさ、桔平は自分のお腹の中できららを10ヶ月も育ててきたのに、俺は何もしてない。
あんなに苦しんできららを産んだのに、俺は桔平が苦しんでるのをただ見てるしか無かった・・・・・何も出来なかった。
同じ親なのに・・・・・桔平が命懸けで産んだのに・・・・・俺はなにもしなかった・・・・・そんな自分が情けなくて、父親なんて言えないんじゃないかって・・・・・桔平が羨ましかったんだ」
初めて聞く真宙の言葉、真宙は真宙なりに父親としての自覚と責任をどうやったら果たせるのか考えていた。自分が思うよりずっと真剣な思いが伝わってきた。
「真宙がそんな風に思ってたなんて知らなかった。
でも、すごく嬉しい。
おれさ、真宙が父親としての実感が沸くのか疑問だったんだ。
だってそうだろ?俺は自分のお腹の中で育てたから、自分の子供だって思えるけど、真宙はそうじやない。
産まれた子をハイって渡されて、それで父親としての実感がわくのかって思ってた。
でも、真宙を見てると俺よりずっときららの事大事に思ってるし、必死でお父さんしてる。
俺よりずっといい親だと思った。
俺、真宙の子供を産んで良かった。
ありがとう、俺に子供を授けてくれて」
「桔平、俺の方こそありがとう。あんな可愛いきららを産んでくれて。
大事に育てていこうな。
俺、桔平にプレゼント買ったんだちょっと待ってて」
真宙はそう言うとベッドから出て、クローゼットのスーツのポケットから、小さな白い箱を取り出した。
ベッドに正座すると、桔平を起こし白い箱を差し出した。
「桔平、これ息子を産んでくれたお礼とこれからも仲良くしようって、俺からの気持ち。受け取ってくれ」
「真宙・・・・・なに?」
白い箱を受け取って、蓋を開けると中から黒いケースが出てきた。
その蓋を開けると、シルバーに輝く2個の指輪だった。
真宙がその一つを指で摘んで、桔平の左手の薬指に付けた。
指にピッタリのシルバーの指輪だった。
「真宙・・・・・」
「結婚指輪もまだ渡してないし、遅くなったけど俺にも付けてくれるか?」
真宙が左手を差し出した。
左手の薬指に指輪をつけた、ペアの結婚指輪。
「桔平、これからもよろしく」
「ありがとう、俺達やっと結婚できたな」
「桔平そんなこと言わないでくれよ、指輪の事はずっと気にしてたんだ。遅くなってなってごめん」
「いいよ、全然気にしてない。俺は真宙と一緒になれてきららまで授かって、真宙には感謝してる。俺幸せだよ」
「桔平、俺も桔平と一緒になれて幸せだよ」
桔平の胸に蟠っていたものが、スッと消えた・・・・・それが何だったのか、自分でもよく分からない、ただ真宙の正直な気持ちと温かな言葉が伝わって、幸せな気持ちで満たされていた。
桔平は真宙の唇に優しい口づけをした。
真宙はゆっくりと桔平の身体をベッドに倒した。
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