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目覚め
窓にかかったカーテンの隙間から、微かな陽の光が漏れていた。
真宙の手から逃れ、きららのベッドを覗くと目覚めたきららは両手を上げて自分の手を見ていた。
掛け布団を脚ではだけ、動くきらら・・・・・親の痴態を知らず、無邪気な顔で手遊びに夢中の息子。
真宙を揺り起こし、可愛らしい息子に視線を向ける。
愛しい息子に二人の顔が綻ぶ。
交代でシャワーを浴び、ミルクの準備をする。
おもつを変えて、真宙がきららを膝に抱き哺乳瓶を口元へ持っていく。
待ち望んだ乳首を大きく口を開けて咥えると、喉を鳴らして吸い始める。
ゴクゴクと咽せるのもお構いなしで、ひたすらミルクを流し込む。
桔平はそんな二人に目を細め朝食の準備を始めた。
ミルクを飲み終えて満足そうなきららをゆりかごに寝かせ、真宙は朝食を食べ始めた。
真宙が仕事に出た後、洗濯を済ませ母屋で過ごす。
真宙の母と一緒にランチを食べ、きららを預けて買い物に行く。
一人では不安なことも、義母が居てくれれば安心できた。
真宙の母は自分と同じオメガで桔平の気持ちも憂いも分かってくれた。
「桔平ちゃん、真宙が帰るまで時間があるから、あなたも少し休んでいいわよ。きららは私が見てるから」
「はい、ちょっと昼寝しますね」
桔平にとって今では本当の母の様な優しさを感じる。
真宙の優しさはあの父と母だからだろう。
きららも同じ様な優しい子になって欲しいと願わずにおれない。
ゆっくりと身体を休め、きららを見ると義母が優しい目で見つめていた。
「おかあさん、夕食の準備をしてきますきららにミルクお願いします」
「行ってらっしゃい、ミルクの量はいつも通りね」
「はい、行ってきます」
部屋に戻り、今夜の食事の支度を始める。
あらかたの準備を済ませて母屋に戻ると、ミルクを飲み終えたきららはベッドで穏やかな顔で眠っていた。
「お母さん、ありがとう」
「桔平ちゃん、これ持って行って!昨日の残りだけど、沢山作っちゃって」
「これ俺大好き、真宙も好きですよね」
「そう、真宙もお父さんも好きなのよ」
母屋の外には広い芝生の庭が広がっている。
あの庭できららが歩く日ももう少し、痛むお腹を押さえながら、夢で見た風景を思い出す。
真宙と歩くきらら、抱き上げたきららと一緒に自分を見た真宙が微笑む。
自分に向かって走り出したきららが「ママ」と呼ぶ。
両手で広げてきららを抱きしめた。
夢に見た幸せな家族の風景・・・・・愛する家族に囲まれ、愛される喜びと愛する喜びの両方を手に入れた。
桔平にとって真宙ときららは大切な宝物だ、自分の命に変えても守りたい存在。
これから先何があっても手放すことなく側で見守って行こうと決めた。
オメガに産まれ、寂しく不幸な子供時代を過ごした。
それでも諦めることはなかった、淡々と日常を過ごし、その日常に突然現れた真宙に救われた。
あの日の真宙にもう一度お礼を言いたい。
自分の運命を変えてくれた真宙、運命の相手はアルファSの真宙だった。
これから先も永遠に続く幸せを願いながら、きららを抱いた桔平は自分達の暮らす別棟に灯りを付けた。
完
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