委員会に出た2人

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 俺たちは並んで校門へと歩を進める。  会話はない。  というか、もう、このまま会話なしで良い。  校門を出たら天乃とは逆方向なので、そこでお別れだ。  このまま、沈黙で、良し。  俺はちらりと隣を見る。  背筋を伸ばしても俺の肩ぐらいしかない天乃のショートボブが、小刻みに揺れている。  特になにも言ってはこない。  ということは、先程の問答に関しては、もう済んだということだろう。  俺はふっと息をつく。  同時に校門を出た。 「俺はあっちだから」  早々に右手側を指差し、「じゃあ」と歩を進めようとしたその時――。 「ちょっと待て、地村」  呼び止められた。 「……はい? なんでしょう?」  俺はゆっくりと振り返る。  天乃は首を傾げながら、 「さっき、なにか言い掛けていたと思うが、まさか言わずに別れるつもりか」 「えっ……」  聞こえていたのか。 「聞こえていないとでも思ったか?」  天乃は眼鏡の奥から俺に鋭い視線を飛ばす。 「言ってくれるかと思い、待っていただけだ」  いや、それはそうだよな。  この天乃が見逃してくれるわけなんて――。  俺はがっくしと頭を垂れる。 「なにを言おうとしていたのか、ちゃんと教えてほしいな」 「はあっ……」  俺は溜息をつく。  なにをどう言えば良いのか、実は正直わからない。  あの時、なぜ見詰めてしまったのか。  そんなもの、あの時の俺に訊いてくれ。  言葉と感情が幾重にも混ざる、まさに混沌とした脳みそをこねくり回す。  そんな俺の耳に、「ふふっ」と天乃の笑い声が聞こえた。  俺はゆっくりと顔を上げる。 「まあ、いいさ」  天乃は唇の端を上げ、 「今、言えないのだったら、無理に聞くこともない」 「へっ?」  間抜けな声が出してしまった。  そんな俺に天乃は、「けど――」と右手の人差し指を立てて、前に突き出す。 「もしも言える時がきたら――」  そして満面の笑みを俺に向ける。 「ちゃんと私に言ってくれよ」  俺はそんな天乃の言葉と所作に、戸惑いを覚えながらも「あっ、ああ」と頷いた。  ん?  頷く必要、果たしてあったのか?  心地よい春の風が、天乃の髪を揺らした。  天乃はふっと息をつき、 「面白いな、地村」  そう言って踵を返す。 「おっ、おい、面白いってどういうことだよ」  俺は天乃の背中に問い掛ける。  天乃はショートボブをふわりとさせ、こちらを振り返り、 「言葉通りさ。そう言う以外に、今は私も上手く伝えられない。すまん」  そこで一度言葉を切り、眼鏡の奥の目を細める。 「ただ、私は楽しいんだ」  そう言うとまた前に向き直る。 「また明日」  天乃が片手を上げた。 「あっ、ああ。また明日」  俺も言う。  目に映る天乃の背中が心なしか揺れて見えた。  
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