出会い

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「えっと、あの…… 代金頂かないと…… 」 「金なんて払わねぇよ!何分待ったと思ってんだよっ!ピザ、もうすっかり冷めてんじゃねぇかよっ!」 電話でオーダーを受けた際に住所を聞き間違えたのか、この人が言い間違えたのか分からないけれど、確かにお届けをする時間から三十分近くオーバーしてしまっていた。 ✴︎✴︎✴︎ 何度か店に電話を入れて確認をしたけれど、その際に聞いた電話番号も違っていて連絡が取れなくて「もう店に戻っていい」と店長から連絡を貰ってまた直ぐに電話が来る。 「同じマンションの二十二階の部屋だから持って行って」 お客から店に電話が来たのか、正しい住所が聞けた様で僕にそう言う。 「え… でも、ピザ、冷めちゃってますし…… 怒られ、るんじゃ、ないですか? 」 「まぁ、いいから上手くやってよ」 プツッと電話は切れて、(なんだよ… )と思いながらも急がないと、慌ててエレベーターへと向かった。 建物のぐるりと一周が住居になっていて、今いるのは十二階、エレベーターは五基で二基は十五階までしか行かないみたいで、途中でエレベーターの乗り換え、どうしようお客さん怒っちゃうよ、時間は過ぎていくばかり。 早く、早く、早く…… 思わずその場で足踏みをしてしまう。 「遅れてすみません、『デイリーピザ』です」 「すみませんじゃねぇよっ!どんだけ待たせてんだよっ!」 酷く態度の悪い、僕と同じ位の歳の男性が勢いよく玄関ドアを開けて怒鳴る。 「す… すみません…… あの… 最初に伺った住所が違った……… 」 「ああん!? てめぇ、俺が言い間違えたとか因縁つけんのかっ!? 」 「あ……いえ、そんなつもりでは……… 」 「まぁ、いいよ、早く寄越せよピザ」 「あ、っと、三千三百円になります…… 」 「はぁ? 金取んの? 」 「えっと、あの…… 代金頂かないと…… 」 「金なんて払わねぇよ!何分待ったと思ってんだよっ!ピザ、もうすっかり冷めてんじゃねぇかよっ!」 もし店の方で住所の聞き間違いであれば、お客さんの言ってる事も分かる気はしたけれど、お金を貰わないと僕が怒られる。 「あ、の…… では、今、店に電話をするので… ちょ、ちょっと待って、頂けますか…… 」 店に電話をして、代金を貰えない事を伝えようと思った。 じゃないと、店に帰ってから面倒な事になる。 「ふざけんなっ!てめぇんとこの不手際だろうがっ!なんで待たされなきゃいけねぇんだよ!」 十二階と二十二階、聞き間違いは大いに考えられるけど、電話番号はまるっきり違っていたようだ。 貴方が正しく伝えてくれていれば…… 怒鳴られながら唇をキュッと噛んで、お釣りを用意したバッグの中を覗いた。 仕方ない、自腹を切ろう… 店に帰ってから怒られたり、嫌味を言われるのも嫌だった。 「いくら?」 え? 「ピザ代、いくら? 」 「え…っと…… 」 スラリと背が高く、カジュアルスーツに身を包んだ、随分と格好の良い男性がいきなりそんな事を訊いてきた。 男の僕が見ても素敵で、惚れ惚れした。 芸能人かな? このマンションに住んでいるんだろう、そうだとしてもおかしくない。 呆気に取られて何も答えられずにいると、また訊いてきた。 「いくら? 」 「あ、三千三百円です」 この人は何も関係無いのに思わず答えてしまう。 「じゃ、これ」 胸ポケットから財布を取り出し、一万円札を僕に渡すと、怒鳴っていた感じの悪いお客さんに向かって 「あんまりカッコ良くないよ、てか、カッコ悪いよ、そういうの」 そう言って、そのままスッとエレベーターの方へと去って行く。 感じの悪い客と二人、あんぐりと口を開けて彼の背中を見送った。 「ま、まぁ…… 今日のところは、この冷めたピザでいいよ」 僕の手からピザを奪い取ると、すぐにドアを閉めたから、廊下で一人佇んだ。 今の人、誰だろう…… 。 そうだっ!お金っ!お金返さないとっ! 渡された一万円札を握りしめて、僕もエレベーターへと急いで走った。
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