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プロポーズ
僕の両手を包み込み、二人の体の真ん中で合わせる。
一千翔さんの両手と僕の両手、全部がひとつになる。
「け、結婚、って僕、たち…… は、その…… 」
できないですよね、って言おうとしたけど、一千翔さんの笑顔が優しくて、あまりにも嬉しそうで、水を差すようなことなんてとても言えなかった。
「結婚なんてできないって思ってるだろう? 」
戸惑いながら、小さく頷いた。
「パートナーシップ宣誓、しよう」
聞いたことがある、同性同士で人生のパートナーになるっていう…… 。
え?
それを一千翔さんと僕で?
じわりと涙が込み上がり、一千翔さんの顔がかすんでよく見えない。
「ぼ、僕、なんか…… と? 」
だって信じられないもの。
「世梛じゃなきゃ駄目だ」
僕はその場で手の甲を目に押し当て、ぐりぐりと動かしてこぼれる涙を拭った。まるで小さな子どもみたいで恥ずかしかったけど、夢を見ているみたいで信じられない。
一千翔さんは立ち上がると、そっと僕を抱き寄せて頭や背中を優しく撫でる。
「世梛以外には考えられない、何があっても、ずっと一緒だ」
「う、うう…… ううう…… は、い…… 」
漏れてる泣き声だって子どもみたいで、「は、い」と、なんとか返事ができる。
もっとちゃんと「はい」って言いたかったのに、本当に情けない。
「ほら、見て」
抱き締めていた手を緩めると、指輪の注文書を僕に見せる。
「指輪のサイズを測るの、大変だったんだからな。世梛が寝てる時に、そっと紐を左手の薬指に巻いてさ」
とか言いながら、楽しそうな一千翔さん。
「それと、指輪の刻印は日本語にした」
おそらく僕のサイズだろう指輪には
『好きだよ世梛 一千翔』
と、注文書に書いてある。
嬉しい…… いつも、ずっとそう言われているみたい、すごく嬉しい。
一千翔さんのには?
同じように『好きだよ一千翔 世梛』とか書いてあるのかな?
え? 僕が『好きだよ一千翔』とかって言っちゃうの? ちょっと畏れ多くて、それでも顔のにやけが抑えられない。
「あの、一千翔さんの指輪のメッセージは、なんて? 」
「なんだと思う? 」
さすがに『好きだよ一千翔』じゃないのか、なんだろう…… 間違えたら大変だよな、緊張してくる。
「…… なんだろう」
「当ててみて」
え〜、一気に緊張が高まりプレッシャーが半端じゃない。
間違えても怒らないかな? チラリと一千翔さんの顔を上目遣いで覗き込み、首を小さく傾げた。
ニコニコワクワクと、笑みを浮かべて僕の答えを待つ一千翔さんを、緊張をしながらもなんだか可愛く思えてしまう。
「えっと…… 」
なんだろう、深く考えない方がいいよね、僕から一千翔さんへのメッセージなんだから…… って、考えてみたらそれを一千翔さんが勝手に(って、語弊があるけれど)頼んだのか、一千翔さんらしいな、って色々思ってクスッと笑ってしまう。
「笑ってないで答えて、なんてメッセージか」
ワクワクが止まらない顔、怖いな…… 全く見当違いだったらどうしよう。
でも僕なら……
「『ずっと一千翔さんの傍にいます』…… かな…… 」
長いよね、でもこの中のどこかの部分が当たってたらOKだよね、って、クイズじゃないのに、ってちょっと怪訝に思う。
見ると一千翔さんが固まっている。
しまった、全然違ったかな、どうしよう…… がっかりさせちゃったかな、僕の顔が引き攣った。
「注文書、見ただろう」
「え? 」
「なんだよ、世梛はなんてメッセージをくれるか楽しみだったのに」
え?
どういうこと、かな?
当たってた? まさか、当たってた?
「あの、見てません、僕、注文書は見てませんっ!」
すごい勢いで否定した。
だって、当たってたらすごくない?
僕が一千翔さんに伝えたいことが、一千翔さんに分かっちゃうんだよ。
「ホントに? 」
「本当ですっ!神様に誓って!本当に見てません!って、当たってたんですか? 」
「大当たりだよ、ほら」
注文書を見せてもらうとそこには、
『ずっと一千翔さんの傍にいます 世梛』
って書いてあった。
嘘…… 信じられない、って感動したけど、ふと思う。
お店で一人、一千翔さんがこれを注文してたんだよね、一人で。
恥ずかしくなかったのかな?
自分に対して『ずっと傍にいます』とか。
「なに? 不思議そうな顔して」
「え? あ…… いえ、… 恥ずかしかったですよね? ありがとうございます」
「なんで恥ずかしいんだよ、そんなわけないだろう。明後日、楽しみだなっ!」
やっぱり一千翔さんだな、って思って口元が綻んだ。
「はい」って応えようとしたのに、すぐにキスで唇を塞がれる。熱いキス。
違う意味で、今夜も眠れない長い夜になりそう。
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