いつもの一千翔さん

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いつもの一千翔さん

そしていつもの、今までと同じ日常が僕達に戻ってきた。 「せ〜な、おはよう、ほら起きろ」 もう朝? 眠いよ…… 昨夜はいつもより凄かったもん、さっき寝たばかりだよ。 ✴︎✴︎✴︎ 「ん、やぁ…、ねぇ、一千、翔さん…… 僕、もう…… 」 僕はもう二度も射精()していて、一千翔さんだって同じ、それなのに 「まだまだ、もっと俺が欲しいだろう?」 欲しいけど、もう頭がおかしくなりそう。 「ほら、上に乗って」 胡座を掻いた一千翔さんの上に正面から跨ると、下から強く突き上げられ僕は絶叫に近い喘ぎ声を出してしまう。 「やっ!やっ!ねぇっ!ああんっ!だめ、だめぇぇぇっ!!」 一千翔さんと自分のお腹の間に精液を吐き出してしまってからは、記憶がない。 いつものように、一千翔さんは僕を綺麗して眠らせてくれたのだと思う。 ✴︎✴︎✴︎ 一千翔さんなんか、僕よりもきっと遅く寝たでしょう? どうしてそんなに元気なんだろう、眠すぎて目が開かない頭でそう思って口先が尖る。 「こういうところは二千歩に似てるな。二千歩も朝が弱かった」 そう言われてガバッと体を起こした。 「僕、もう目が覚めてますので」 言ったそばから、また目が閉じてしまって舟を漕いだ。 「ぷっ!」 吹き出した一千翔さんを、片目を漸く開けて見ると嬉しそうな笑顔。 そんな笑顔に、ほんの少し目が覚めたみたいになる。 「世梛と、二千歩の話しができるなんて嬉しいよ」 しみじみと、一千翔さんが呟くように言う。 それは僕も同じで、大きく重く、頭に胸に覆い被さっていた二千歩さんの存在が、今はなんとなくきらきらしている。 僕達を温かく見守ってくれているように思えた。 「さ、朝ごはん食べて仕事に行こう!」 一千翔さんが僕の背を軽く叩きながら、スキップに近い足取りで寝室を出て行こうとする。 昨日までの僕の心は嘘みたいになって、今は幸せに満ちている。 「あ、いけない」 急に一千翔さんが戻ってきて、ベッドから出るところの僕を捕まえる。 「キス、忘れるなんてな」 そう言って唇を重ねると、チュッ、チュッと上唇や下唇を挟んで遊んでいる。 「さぁ、行こう」 思う存分キスをして満足をすると、僕の手を引く。 いつも通り僕は一千翔さんにされるがまま、手を引かれながら、やっぱりまだ眠い目を擦った。 テーブルにはベーコンエッグにサラダ、ヨーグルトにはブルーベリーソースがかけられている。 ミルクとオレンジジュース、コーヒーまで用意されて、まるでホテルの朝食みたいだ。 こんなのも、一千翔さんはあっという間に作ってしまう、僕がやろうもんなら大変なことになる、キッチンが…… 。 「トーストは何枚? 」 「一枚、お願いします」 「一枚? だめだめ、もっと食べなきゃ、二枚な」 じゃあ、なんで聞いたの? って思ったけど、こんな会話が幸せ。 「明日、一緒に指輪取りに行こうな」 トーストをかじりながら一千翔さんが嬉しそうに言う。 でも、お店の人に変な風に思われるんじゃないのかなって、僕は一千翔さんに言えない不安を感じて、返事をするのに躊躇した。 「気になる? 」 僕の不安を見透かしたように、一千翔さんが少し笑みを浮かべて訊く。 「あ、っと…… いえ、そんな…… 」 「嫌ならいいよ、俺一人で行くから」 決して不貞腐れて言ってるんじゃなくて、本当に僕を思って言ってくれているのが分かる。 「世梛が嫌だと思うことはしたくない、ちゃんと正直に言っていいんだぞ」 優しく微笑まれて、不安に思った気持ちを恥じた。 「いえ、一緒に行きたいです」 一瞬、驚いた顔をした一千翔さんだったけれど、すぐに笑顔になって、嬉しそうで少し涙ぐんでいるように見えて…… 僕は、喉の奥がつんと痛くなる。 「あ、やっぱり俺一人で取りに行く」 「え? なんでですか? 僕も行きたいです」 「この前、注文書でやったやつ、ちゃんと指輪でしたいから、サプライズで」 …… 今更、サプライズ? 僕の顔がスン、となってしまった。 「世梛、結婚しようって、またやるから、サプライズで」 だから、それってもうサプライズじゃないですよって、言える筈はなくて、笑いを堪えるのに唇を口の中に全部しまった。 それでも、 いつもの、いつも通りの一千翔さんに僕は幸せいっぱいで、もう一度指輪でプロポーズをしてくれたら、思いっきり驚いてみせようって、そう思った。
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