いつもの一千翔さん

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言っていた通り、一千翔さんは指輪で同じことをしてくれた。 片膝をついて、指輪のケースをパカッと開けて、 「結婚しよう」 って言ってくれて、分かっていたし二回目だしって思ったけど、やっぱり僕は涙がぽろぽろとこぼれた。 僕の指には一千翔さんが、一千翔さんの指には僕が指輪をはめて、もう体が震えるほどに感動してしまう。 そんな感動に浸っている時に、ピンポンと来客。 「誰だ? こんないい時に」 一千翔さんが眉間に皺を寄せてモニターを覗く。 モニターには大きな花束だけが映っていて、花屋さん? 本当にサプライズ? 時間を見計らって配達を頼んでくれたの? なんて思って顔中を綻ばせて一千翔さんを見た。 じっとモニターを見ている一千翔さんの眉間の皺は消えてなくて、一千翔さんからのサプライズではないのが分かり、僕の眉間にも薄っすらと皺が寄った気がした。 「じゃ〜〜ん!おめでとう!一千翔、世梛っ!」 花束が消えると、満面の笑みの志井良さんがモニターに映った。 「なんだ、こいつ」 ボソッと一千翔さんが言って、モニターを消してしまった。 「ちょっ!ちょっと、一千翔さんっ!志井良さんですよっ!」 「いいところなのに、あんな奴に邪魔されたくない」 「でっ!でもっ!花束持ってましたよね、きっとお祝いに来てくれたんじゃないですか!? 」 「…… 邪魔だわ」 そんなこと言って、今日指輪ができることを知ってたんじゃないの? 一千翔さんが志井良さんに話したんじゃないの? って思って少し面白い。 ピンポン、ピンポン、と何度もインターホンが鳴って、そのうちにフロントの人が来たみたいで、不審者扱いされてるみたいな志井良さんが映っているから、僕が焦った。 「しっ!志井良さんっ!どうぞ!」 エントランスのロックを解除すると、ホッとしたような志井良さんが 「なんだよっ!」 って、モニターとフロントの人に、怒り爆発寸前で文句を言っているのが映っている。 「一千翔、ふざけんなよっ!」 ぶんぶん怒りながら、志井良さんが大きな花束を抱えて部屋に入って来た。 「お前ほど花束が似合わねぇ奴いねぇな」 「っるっせーな、世梛のために持って来たんだよ」 「ありがとうございますっ!」 一触即発みたいな二人の会話に慌てて僕が入ったけど、こんな会話はいつものこと。 今日は特別な日だもん、皆んなでにこやかに過ごしたい。 「世梛、おめでとう。幸せにな」 ニコニコと笑顔で、僕に大きな花束を渡してくれようとすると、スッと一千翔さんが受け取った。 「ありがとう」 「だから、お前にじゃねぇよ、世梛に持って来たんだよ」 「あ、ありがとうございます…… 」 隣りで花束を抱えて立っている、一千翔さんの視線が厳しくて目を泳がせながらお礼を言った。 「全くよぉ、こ〜んな素直で可愛い世梛は一千翔には勿体ねぇよ」 「はぁ?」 「あ、あの… とりあえず座りましょうよ」 一千翔さんから花束を受け取り、キッチンへ置いて花瓶を探している僕の傍に寄ってきて、 「どれ? 世梛、指輪見せてみ」 左手を取ろうとした時、一千翔さんがもの凄い速さで追ってきて僕と志井良さんの間に入り込んだ。 「触んじゃねぇよ」 ギロっと睨み合う二人で、僕はハラハラしながらも、そんな一千翔さんと志井良さんの関係性が羨ましい。 そういえば、一千翔さんの初恋は志井良さんって言ってたな(志井良さんが、だけど)本当のところはどうなんだろう、と思った顔が何か言いたげになっていたようで、一千翔さんが「ん? 」と僕の顔を覗き込む。 「どうした? 」 「あ、いえ…… えっと… 」 僕達から離れて、ダイニングやリビング、広い部屋の中を、 「相変わらず洒落てんなぁ〜」 と言いながらの志井良さんが 「どうした〜? 遠慮しないで何でも言っちまえ〜世梛〜」 と続けた。 「あ、あの…… 一千翔さんの初恋って…… 志井良さんだったんですか? 」 恐る恐るだったけど、どうしても気になってしまっていたから思い切って訊いた。 「は? 」 恐ろしく間の抜けた顔で一千翔さんが僕を見るから、(え? )と思って志井良さんを見る。 「俺だろう、お前の初恋」 「何でお前なんだよ、呆れて言葉も出ないわ」 「照れんなよ」 へっへっへ、と笑いながらまた僕達の傍に寄ってきて、一千翔さんの背中を叩いているけれど、一千翔さんの表情が渋い。 「幼稚園のとき、『たけしくん、チュウしてもいい? 』って毎日言ってただろうが」 そう言われて思い出したのか、微かに顔を赤らめている一千翔さん。 「俺が忘れてたこと、お前がよく覚えてるな。建史もまんざらじゃなかったのか? そう言えばお前、黙って俺にチュウされてたな」 「なっ!そんなわけねぇだろう!何言ってんだよっ!」 結局、一千翔さんにやり込められている志井良さんで、真っ赤な顔が可愛かったりした。 え? ちょっと待って…… 一千翔さんと志井良さん、チュウしてたの? 幼稚園の時の話しとはいえ、酷く妬けてしまう僕。
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