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双生
ある時、ある女が身籠った。男は喜んだ。そして同時に狼狽えた。
腹は膨れ、やがて臨月となった。
女の腹から出てきた子は二人だった。それを見た女と男は酷く焦った。一度に二人も育てることはできない。何もかもが足りない時分だった。特に食料が。
村で二人目の子供は許されなかった。男と女は決断を迫られた。
生かすか。死なすか。
女はどうしても生かしたかった。男も生かしたかった。しかしその出産を公にするわけにはいかない理由が二人にはあった。
二人は兄妹だった。同じ腹から産まれた者は交わってはいけない。村には掟があった。
親となった二人が兄妹であること。産まれた子が双子だったこと。
この出産はなかったことにしなければならない。
二人は言った。
「隠してしまおう」
その場で殺すことができなかった二人は、倉に隠して育てようと言い合った。
村には内緒で二人は子育てを始めた。暗く冷たく湿った倉の中。赤ん坊の鳴き声が外に洩れないように、口には布を押し込んだ。
女から出てくる乳はわずかだった。大人でさえ食べる物が不足していた。双子の赤ん坊の体力はどんどんなくなっていくばかりだった。
やがて村が男女のおかしい行動に気がついた。
「赤ん坊がいるぞ!」
「隠していたな!」
「なんて穢らわしい」
「信じられない」
「お願いです、見逃してください!」
「せめてこの子達だけは!」
「よく見てみろ! もう死にかけているぞ!」
「殺せ! 川へ流してしまえ!」
「やめて!」
「いやあ!」
双子は川へ捨てられた。泳ぐことなどできないと、二つ揃ってただ水の中へ投げ込まれた。
その後、男と女の首は跳ねられた。
よくある話よ。昔ならよくある話。
でもこの話はここでは終わらなかった。
流されたはずの双子は生きていたの。
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