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双頭の蛇
この町には七つの不思議と一本の桜がある。
桜はご覧の通り、この私。
そして四つ目は「地下通路」。この双子が作る地上と地下を繋ぐ通路よ。
神出鬼没の地下通路。腹を空かせた口に飛び込めば生きて戻ることまかりならん。
双子が揃って潜った地下への道。そこには誰もいない。通ったはずの双子でさえも、そこにはいない。
誰もいない。
もう、誰もいない。
だあれもいない。
だあれも。誰も。
だからお通りなさい。
七不思議を求めるあなたが、その道をお通りなさい。
誰もいないその道を、あなたの足で歩くのです。
あの双子が通った血濡れの道を。
あの双子が這った暗く冷たい道を。
今度はあなたの血が通ったその足で歩くのです。そして落とすがいい。
落としながら進めば身も軽くなろう。
進めや進め。
迷わず進め。
止まるな、決して立ち止まるな。決して振り返ることなく道をいけ。
「地下通路」という七不思議はそれこそ地下へと続く道。言わずもがな、辿り着く先はこの世ではなくあの世でしょう。
だからこそ町に現れたその入り口から地下通路を通る時には振り向くべきではないのよ。未練を残したまま地下へと入るべきではない。
いいえ、違ったわね。
この世に未練を残すことはいいのよ。きっと誰かが絶ってくれる。
地下に入るときに恐ろしいのは、未練を連れたまま入ること。例えばあなたと、未練がましい誰か。
暗い通路をいくあなた。後ろから追いやってくる誰か。
人でも人ではなくても、その誰かはあなたにとってよろしくない。何せ、現世からあの世にまでついてくるのよ。あれね。今流行りのストーカー。そんなものと一緒にその通路をいってはいけない。
あの双子の通路はね。逃げ道なの。
私はあの子達を誰よりも長い時間見てきた。本当は生きたかった双子。でもどうしてもその道は開けない。だから二人で地下へ潜った。
人にはどうしても道が得られない時もあるでしょう。双子は誰よりもそれを体感している。
七不思議の四つ目は「死」への道。誰も帰っては来れない。よくそう言われるわ。でも違う。真実は別のところにある。
この世とあの世を繋ぐ通路。この世から入るのは生者。あの世から入るのは死者。
生は死を、死は生を受け入れる。反対方向からやって来たものを受け入れる。
一歩、一歩と変わっていくわ。通路を通ると音がする。澄んだ鋏の音。先にある口から出るために必要な何かを刈り取る音。
シャキン
シャキン
それは丁寧でなければならない。
通路を歩いて、歩ききって、その先を目指す者にとって大切な儀式でなくてはならない。通路の先を目指す者には相応の覚悟があるのだから。
覚悟なき者にとっては苦痛でしょう。悪戯に、遊び半分で立ち入っていい場所ではない。それを知らぬ愚か者を、双子は帰さない。
それはね、大抵先をいく人には覚悟があるのよ。その通路が何か知っている。だから先を目指す。
でもそれを追う人にはない。
双子がかつて地下へと潜った時、誰も追おうとはしなかったわ。何かしら理由を捲し立てて、あたかもそこには誰もいなかったかのように墓を埋め直した。
恐れたのよ。双子を。その通路の先にある世界を。
理を解する存在は通路を己の意思で進もうとする。知るだけで解さない存在は近寄らない。では、知ることも解そうともしない愚か者は?
嗚呼、お腹がすいてきたわね。
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