双頭の蛇

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あの双子は私の下でお利口にしてくれてるわ。ただ、四つ目にしては地上に顔を出しすぎじゃない? って私は思うのよね。 七不思議は一つ目が一番出逢い易い。順に二つ目、三つ目、四つ目は中間。七つ目なんてほとんど知られていないじゃない。 だから偶然ではなくて、あの子たちが自分の意思で人の前に現れる。そういう怪異なのかもね。 どういう意思かって? ヒトだった頃の意思よ。まだ双子が一つに戻れず二人でいた頃の。あの子達の中にはまだヒトらしい心が残っていると思うわ。 地下通路への入り口は、特に助けや救いを求めて彷徨う人の目の前に現れる。姿を現す。 さあ、お入りなさい。お進みなさい。 そう言うように、地下への通路は口を開く。 お通りなさい。あなたが欠片でも望むなら、その道をお通りなさい。 いつだったか、ストーカーに追われる女の子が通路に入ったことがあったわね。 女の子を追うストーカーも、当然同時に入ったことがあったわね。 出てきたのは女の子だけ。しかも入った入り口から。 双子は優しいのよ。女の子が望んだことか気づいていた。 ストーカーから助けるために姿を現し、女の子を元の世界へ帰してあげた。ちゃっかりストーカーを制裁してね。 今だから言うわ。 双子は一つになるために生まれた運命の子よ。だからってその通路を使う女の子とストーカーは運命なんかじゃない。 「君と僕は運命の赤い糸で繋がっているんだ!」 なんておこがましい。 ストーカーとあの子は一つにならない「運命」なのよ。理解なさい。 あの通路にはどちらの口からも出られない愚か者がごろごろ転がってる。このストーカーがいい例よ。 それが間違って怪異として伝わったのね。「生きて帰さない地下通路」なんて、誰が言ったのか。 もう一度言うわ。地下通路は時に逃げ道となる。この女の子とストーカーの話もそう。双子は逃げたい者の味方をする。 特に、特に。私はあの通路の存在をこれ以上感謝した瞬間がないという時間があった。 それは戦争の時代。人が人を殺す時代。空から降る鉄の塊から人々は逃げた。中には別の国の兵隊から逃げる人もいた。 どうしても逃げられない、避けられない時代。人々は死を覚悟した。 でも、彼らは殺されることを受け入れられなかった。人に殺される、人に命を奪われる。 その理由が理解できなかった。 人は死ぬために産まれるのでしょう。生きるために殺すのでしょう。 では、何のために同じ境遇の「人」を殺すのか。殺さなくてはいけないのか。殺そうとするのか。そんなの誰にもわからない。理解なんてできない。 だってそれが「戦争」なのだから。 解さなくていいのよ。理解できるものなんてあの時代には何もなかった。 ほら、答えなんてとうに出ているでしょう? 時代から逃げようとした人々はこの土地にも溢れかえった。もう、何処にも逃げ場はなかった。 だからよ。あの双子はこの土地を廻った。
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