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「ご登録ありがとうございます、西田文子様」
職員の眼鏡の女性は、にこやかにあたしにそう挨拶してきた。
「ご希望のデータを拝見させていただきました。再度確認させていただきますね。えっと……身長180cm以上、体重70kg以下、二十代、高身長ですらっとしたイケメン、外国人NG、声もしくは顔が俳優の高砂誠二さんに似ている、年収一千万円以上、専業主婦を許してくれる、器が大きく心優しく懐深く絶対モラハラをしない、ワガママを許してくれる、子供を二人以上作らせてくれる、セックスは基本毎日……と。これでよろしかったでしょうか?」
「え、ええ。その通りよ」
結構赤裸々なことも書いたので、なんだか恥ずかしい。しかし、担当の女性(玉置、という名札をつけていた)は顔色一つ変える様子もない。これくらいの条件を提示する女は、さほど珍しくないのかもしれなかった。
――本当に、こんな理想の条件で出会えるのかしら。
登録はしたものの、もし噂通りでなかったら即抹消してやろうと思っていた。自分でも、無茶な提案をしたことはわかっているのである。
大体、高身長高収入、二十代のイケメンがこんな相談所に来るものだろうか。マッチングアプリではなく、結婚相談所。一部界隈では時代遅れ扱いされることもわかっている。そんな優良物件、とっくに彼女持ちになっていそうなもの。そうでなくても、精々使うのはアプリの方だとは思うのだが。
「あの、何度も言いますけど」
不安になって、あたしは繰り返す。
「イケメンじゃなかったら、あたし突っぱねますからね。どうしてもあの忌々しい姉より良い男を捕まえたいの」
「もちろんです。必ず、ご希望通りの男性とマッチングさせていただきます。ただ、先ほど申し上げましたが一つだけお願いがございます。もし、希望通りの方との婚約に成功しましたら、なるべく早い段階で我が社の掲示板にその旨をご報告ください。同時に、SNSでの宣伝をお願いいたします。当結婚相談所は、皆様の口コミによって成り立っているものですから」
「わかってるわよ」
世の中には結婚詐欺師なるものもいる。婚姻届けを出すところまでしなければ信用するつもりはなかった。が、そこまでいけたなら、まあこの相談所の良い評判を書きこんでやってもいいとは思っている。自分だって、良い思いをさせてくれた企業に砂をかけるほど恩知らずではない。
しかも、この結婚相談所は登録するだけなら無料。成婚できた場合にのみお金を支払えばいいという夢のシステムになっている。こっちとしても願ったりかなったりではないか。
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