4人が本棚に入れています
本棚に追加
「それでは、運命のふたりを結びつける、マッチングルームにご案内します。これは、お客様の脳内イメージを吸い上げ、より理想の方を見つけるために必要な工程です。よろしいですか」
「わかったわ」
どういうことかは知らないが、最先端の結婚相談所とはそういうものなのかもしれない。あたしは玉置に手を引かれ、ものものしい機械がいっぱいの部屋へと案内される。
そして黒い椅子に座るように命じられ、ヘッドセットをつけられた。このヘッドセットが目隠しの役割も果たしているようで、被せられると何も見えなくなってしまう。
「数分ばかりお時間をいただきます。理想の男性の姿を想像しながらお待ちください」
遠ざかっていく玉置の声。何やら、キーボードを打つ音や、機械が動き出す音が聞こえる。それを聞いているうちに、段々遠ざかっていくあたしの意識。なんだか、妙に眠い。頭の中、白い靄の中に理想のイケメンの姿が浮かび上がる。こんなことで本当に、理想の恋人に出会えるものなのだろうか――。
――ああ、眠い、眠いわ……。
どれくらい時間が過ぎただろう。ういいいん、という音とともにヘッドセットが持ち上がっていく。急に眩しい光が瞼の裏をさして、あたしの意識も覚醒することとなった。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。瞼をこすりながら欠伸をしていると。
「貴方が、西田さん?」
「え」
優しく、穏やかな――あのイケメン俳優そっくりの声。あたしは目を見開いた。椅子の前にしゃがみこんであたしの顔を覗きこんでいるのは、俳優の高砂誠二に瓜二つの男性であったのだから。
「初めまして。僕、新條駿太郎と申します」
彼は頬をうっすら染めて、まるで王子様のように恭しく頭を下げてきたのだった。そして、あたしがそうして欲しいと望んだ通り――手の甲にキスを落としてくれる。
「あ、あ、あの、あの……!え、本当に、俳優の、高砂さんと、別人なんですか?そ、そ、そっくりですけど……!?」
「よく似ているって言われます。えっと、駄目、でしたか?」
「い、いいえ!いいえ!とんでもありませんわ!最高です!」
憧れの俳優に愛されているかのよう。あたしは一瞬にして舞い上がってしまった。詐欺かもしれないとか、嘘かもしれないなんて気持ちは一瞬で吹っ飛んでしまう。しかも。
「貴女こそ、最高です。まさに、僕が望んだ理想通りの女性だ」
彼は少しばかり照れながら、あたしの手を取って言うのだ。
「一分一秒さえ惜しい。貴女さえよければ……今これから、婚姻届けを出しにいきませんか?」
「!」
ああ、本当に、夢のよう。こんなことがあるのだろうか。あたしは熱に浮かれた頭でこくこくと頷いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!