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「本当にありがとうございます。あの、たった今休憩室で……この結婚相談所のについて、書き込みさせていただきました。本当の本当に、素晴らしいご縁をありがとうございます、玉置さん」
西田文子という中年女性は、喜びに顔を紅潮させて私に言った。
「その、今から婚姻届けを出しにいくことになったんです。まだデートもしていのに、早すぎるかしら」
「いいえ、そういうことはありません。この結婚相談所の利用者の方では、珍しくないんですよ。なんせ、最も望む見た目や性格のお相手と、素早くマッチングできるのが当相談所の売りでございますから」
私はちらり、と女性の横を見る。彼女が腕を組んで歩いている、その存在を。
「とてもお似合いです。西田様、新條様。お二人の門出を、心よりお祝いいたします」
「ええ、ありがとうございます」
そう答えたのは、彼女の伴侶の――びっしりと赤黒い鱗で覆われた、巨大な鬼のような男だった。
この相談所のもう一つの顔。それは、“この惑星を訪れる異星人が、人間の男女とマッチングできるようにする”、異星人専門の結婚相談所であるということ。
彼らから提供された技術を使えばいちころだ。人間の男女の思考を読み取り、マッチングした異星人を彼ら・彼女らの理想そのままの姿であるかのように思い込ませるくらいは。
多くの人間たちは知らない。
この地球は、長らくそうやって生き残ってきたことなど。
訪れる異星人たちに地球人の“伴侶”を差し出すことで、存続を許されてきたのだ。まあ、彼らの結婚観は、地球人のそれらとは大きく違う。大抵、初夜と同時に相手をバリバリと頭から食べてしまうのだが。
――まあ、相談所の評判を書きこんでくれたなら、あとはもう用なんてないし。
私は貼りつけた笑みで、去っていく二人を見送る。
西田文子は相変わらず、恍惚とした表情で――異形の腕に頬ずりを続けていた。
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