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「それからはお決まりのシングルマザーストーリーだよ。母は騙されたと知っても愛した男の子どもである僕を生んで育ててくれた。ただ僕の容姿は父の面影が強く出ていてそれは成長する毎に色濃くなって行った。そんな僕を見る度に母は辛そうな顔をした。きっと僕に父を重ねて見ているのだろうと思った。だから僕は母の為に外見を変えようと必死になった」
「外見を変える?」
「うん。手っ取り早く体型を変えた。細かった体を食べる事で太らせた。そして茶色がかっていた髪を黒くして眼鏡をはめた」
「……」
「母はそんな事をするなといったけれど僕の中ではそうするのがベストだと……その時はそう思い込んでいたんだ」
「……祐輔さん」
そこまで話を訊いて何となく理解してしまった。
あの時──11年前、私が彼と出会った時の容姿は、彼が必死になって作り上げたお母さんに対する思いやりの結果での変身だったのだと。
(そうだったんだ)
なんて優しい人なのだろう。きっとお母さんを大切に想ったからこそあの姿だったのだと思うとあの時の彼が一層愛おしくて仕方がなかった。
「だけどあの日、結ちゃんと付き合い始めて初めてホテルに行った日」
「っ」
それは私にとっては辛い想い出だった。
私の何がいけなかったのだろうとこの11年間悩み考え、ずっと私を苦しめて来た記憶だ。
「あの時は本当にごめんなさい!」
彼は畳に額を擦り付けるほどに土下座して謝った。
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