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デビュー
【君たちデビューしてみないか?】
そう言われたのが3年前…
俺らは希望に満ち溢れていた。
高校卒業して同級生達は就職だの大学だのそれぞれの道を進み始める中、俺らは相変わらずバンドに生きていた。
バイトしながら活動を続け、インディーズにしてはそれなりにお客さんも入っていたし、そこそこ人気もあったけど後一歩が掴めずにいた。
そんな時にメジャーレーベルから声をかけられたのだ。
最初は冗談だろ?なんて笑っていたがあれよあれよと言う間に話は進み、プロモーション撮影やらレコーディングやらを分刻みでこなし、タイアップまで決まってあっという間に街中には俺らのポスターやMVやらが流れるようになっていった。
そして、いよいよデビューライブが明日へと迫っていた。
何度もリハを兼ねたスタジオの帰り道、楽器を背負っていつも通り4人横並びに線路沿いを歩く…
俺はギター、玲樹はボーカル、慎二はベース、彰人はドラム。
ずっとこのメンバーで、支え合いながら頑張ってやっとここまできたんだ。
今までの小さな箱と違い大規模会場でのライブなんて初めてで、俺の気持ちは緊張と興奮で高ぶっていた。
「慎二…俺ちゃんと歌えっかなぁ…」
「余裕余裕!!玲ちゃんなら大丈夫だってっ!!」
「俺もやべぇわ…ギターソロとか手ぇ震えそう…」
「誠はまず緊張しぃ治さねぇとな」
「彰人だって走るんじゃねぇぞ!?」
「俺そんなヘマしねぇもん」
「くぅ…っ、なぁ玲樹ぅ…本番前手ぇ握って?」
「は?ばかじゃんっ笑」
そんな冗談を言いながら無事迎えた本番当日。
幕が開ける直前、本当に緊張で手が震えてまともにピックも握れない俺は、一人舞台袖で自分で自分の手を抑えながら必死に緊張と戦っていた。
「落ち着け…っ、俺…っ、止まってくれ…っ」
止まってくれと思えば思うほど手の震えは止まらなくて、今にも心臓が口から飛び出そうになるくらい緊張してると、いつの間にか隣に玲樹がいて横にピッタリくっつかれると、さり気なく俺の震える手を掴んで両手でギュッと握ってきたんだ…
「へっ…?///」
「お前…マジで震えてんじゃんっ…」
「う、うっせぇっ!お前だって、手汗やべぇじゃんっ…」
「は?我慢しろよそんくらい、お前が握れって言ったんだろ?」
「だ、だよなぁっ…けど、本当に握ると思わねぇじゃんっ///」
「だって失敗できねぇだろっ…」
「おぅ…そうだよな、ちょっとは落ち着けた…かも…?」
「ん、俺も…」
そして、めちゃくちゃ緊張しながらもデビューライブは無事大成功に終わった。
あの時、俺の中でずっと燻っていた玲樹への感情が、友情以上の特別な物であることに気付いてしまったんだ。
それからと言うもの、俺は玲樹を意識せずにはいられなくなってしまった。
けれど、毎日のスケジュールをこなすのに精一杯で、玲樹に対する感情はずっと心の奥にしまい込んだまま、時は忙しく過ぎていった。
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