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大好きな人(玲樹)
ライブが終わりミリオンをたたき出すほどの反響で、俺らは一気にスターダムにのし上がった。
俺の作った曲を誠がアレンジすれば、絶対に良い楽曲が出来るんだって俺は思ってる。
だけどファンの殆どが女性だからか、同業の奴らには楽曲はクソだとか、顔がいいからだとか散々言われて、事務所からも女性のファンを減らさない為にもゴシップは絶対ダメと言われ続け、大好きな人と会う事さえも許されなくなっていた。
ヒット曲を出し続けなければいけない重圧に押しつぶされそうになりながら、寝る間も惜しんで曲作りに没頭する日々が辛くて、俺はメンバーに内緒で隙を見てはあいつの自宅に上がり込んでいた。
「お疲れ、玲樹」
「うん、ほんと疲れた…」
「曲作り大変?」
「まぁね、今となっては俺しか作れねぇし」
「まぁそう言うなよ、俺だって玲樹みたいな曲が作れるわけじゃなかったしさ」
「そうだけどさ…?」
宏和は元々このバンドの下手ギターだった。
俺らはずっと付き合ってたのに、ひろが彼女作って俺を裏切ってこのバンドを抜けたんだ。
なのに俺は、まだコイツから離れられないでいる…
「ねぇ…ひろ…」
「いいよ…こっちおいで?」
そして俺は今日もひろに抱かれる…
俺が唯一、ただの俺に戻れる瞬間はひろに抱かれてる時だけ、バンドマンとしての俺なんて作られたものでしかない。
昔みたいにただ純粋に曲を作るのが楽しくて歌うのが楽しくてってだけじゃやってけないし、自分のやりたい方向じゃないものだって時には作らなきゃいけなくて、求められるばかりの毎日に俺の神経は完全にすり減っていた。
「あっ、…んっ、ひ…ろ…っ」
「はぁっ、平気っ…?」
「ん…っ、あっ、へいき…っ」
ひろだけは俺を俺として受け入れてくれる。
そして本当の俺を抱きしめて満たし与えてくれる…
彼女がいようが良くない業界の人間だろうが関係ない、ひろは俺の全てだ。
絶対に失いたくない。
メンバーよりもファンよりも何よりも大事な人…
「何、考えてるの…っ?」
「はぁっ…あっ、ひろっ…!」
「んっ、なにっ…?」
「どこにもっ、行かないでっ!俺だけを愛してっ…」
「…っ、玲樹…っ」
ひろの瞳はゆらゆらと揺れてきっと俺じゃないどこか遠くを見てる…
こんなに優しく抱かれてるのに、もしかしたら今日が最後なんじゃないか、また俺を置いて行ってしまうんじゃないかと、毎回寂しくて不安で仕方なかったんだ。
「あっ、あっ、ひろ…っ!」
「くっ…あっ、玲樹っ…」
「好きっ、ひろ…っ!ひろ…っ!!」
「はぁっ、玲樹っ…」
「は…っ、あっ、あっ、イクッッ…!」
「俺も…っ、イクッ…」
力強く抱きしめられながら欲を吐き出せば、同時に俺の中にひろの欲が注ぎ込まれ温かさで満たされる…
ひろの首に手を回ししがみついて、俺の中のソレを離したくなくて後ろを締め付ければひろの体がビクッと震えた。
「う…っ、玲樹っ…そんなに締めないでっ…」
「んっ、やだっ…」
「玲樹っ…」
「ずっと、一緒だろ…?」
「…愛してる…玲樹」
「嘘つき…」
本当はわかってる…
とっくの昔に振られた俺なんてひろにとってはただのお荷物で、俺の我儘で繋ぎ止めてるだけだって。
ひろは俺なんかより大事なものがあるって事も、こんなことは長くは続くないことも、そしていずれはもっと遠くに離れて行ってしまう事も。
でもそれでもいい…
それでも今、俺を抱いて、満たして、与えてくれさえすればそれで良かったんだ。
こんな事してるだなんて誰も知らないだろうし、別に昔の友人の家に泊まりに行くくらい良いだろ…?くらい気軽に考えてたのに。
まさか、あんな事になるなんて思ってもみなかったんだ。
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