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時間は流れ、午前最後の授業。
選択授業の家庭科である。
音楽・美術・家庭の三種類の中から選択して実施するのだが、葉緩は躊躇もなく家庭科を選んでいた。
「葉緩ちゃん、頑張って美味しいクッキー作ろうね」
「お任せ下さい、姫!」
桐哉が美術を選択する中、何故葉緩は同じ授業にしないのか。
それは桐哉の愛すべき伴侶(仮)の柚姫が家庭科を選択しているからである。
授業を選択する際に、事前に桐哉に柚姫と同じ選択をしてほしいと頼まれていたのである。
ーーあぁ、過保護。だがそれが良い。
だがじれったいだけで中々進展しない二人のために、葉緩は気合を入れていた。
(ふっふっふっ……なかなか素直に告白しない主様のためにこの葉緩、ひと肌脱がせていただきまする!)
クッキーの生地を作るために小麦粉をふるいにかけていく。
目にもとまらぬ速さで手を動かし、小麦粉をふるっていく葉緩。
力加減に対し、軽い小麦粉はもくもくと葉緩の姿を隠していった。
「葉緩ちゃん、小麦粉が舞ってるよ!? 力入れすぎだよぉ!」
(よし、今のうちに投入!)
いかがわしいピンク色の小瓶に入った液体を2、3滴混入させる。
うっとりとした恍惚な笑みを浮かべ、よだれが垂れそうになるのを我慢する。
よくわかっていないが“惚れ薬”的なものだろう。
早く完成させたいという想いが手際の良さを見せつける。
「さぁ、生地を伸ばして型をとります! 姫、ハートでくりぬいてください!」
「葉緩ちゃん手際よすぎるよー!」
あっという間にクッキーは完成。
試食用のクッキーはぬかりなく普通のクッキーだ。
問題ないことを確認し、安堵に微笑む柚姫。
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