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「きょ~うも主様にお会い出来るぅ!」
能天気娘・葉緩は鼻歌を歌いながら軽快な足取りで学校へと向かう。
教室の引き戸を開くと葉緩の視界に入ってきたのは徳山 柚姫(とくやま ゆずき)という女の子であった。
茶色い毛先のふわふわしたロングヘアの愛らしい姿に葉緩は破顔する。
「葉緩ちゃん、おはよ~」
「姫! おはようございます!」
「あ、うん」
ハイテンションに柚姫のことを“姫”と呼ぶ葉緩。
それに対し、途端に苦笑いをして柚姫は一言かける。
「ねぇ、葉緩ちゃん。そろそろ“ゆずき”って呼んでほしいなぁ……」
「なんて恐れ多いことを! 姫をそのように直接お呼びするなど! それと私のことも葉緩と呼び捨ててくださって結構ですので!」
「あはは……善処します……」
今日の柚姫も愛らしい。
世界で一番高貴な姫君だと葉緩はにんまり顔をしていた。
「徳山さん、おはよう」
「き、桐哉くん。おはよう」
そこに現れるは赤混じりの茶髪をした爽やかな顔の美男子・松前 桐哉(まつまえ きりや)だ。
桐哉が声をかけると柚姫は小鳥のような可愛い声で返事をする。
頬を薄紅色に染める姿はまさに恋する乙女だ。
葉緩にとってこの瞬間が至高の時である。
柚姫がこのように初心く、一生懸命に背伸びをしているのを見るのがこの上ない幸せであった。
「葉緩も、おはよう」
「お、おは、おはようございます! それでは授業が始まりますので失礼します!」
桐哉が葉緩にも声をかけると、葉緩は声を裏返らせ途端に壊れたロボットのような動きをする。
目をグルグルと回しながら大きな声で宣言すると、また風のように飛び出していった。
その背を唖然として見送ることになる柚姫と桐哉。
「一限目って数学だよね?」
つまり教室での授業ということだ。
飛び出す必要がない。
「また授業サボるのかなぁ? よく進級出来たよね……」
「これは追いかけないとな」
「……そうだね、追いかけよっか」
桐哉の言葉に眉を下げ、陰った笑みを浮かべる柚姫であった。
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