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一方、教室を飛び出した葉緩は白い壁に張り付いて胸をなでおろす。
「あー、危なかった! またこうべを垂れてしまうところだった!」
四ツ井家の者にはそれぞれ魂の主がいる。
出会った瞬間、それはわかるそうだ。
そして葉緩にも主がいた。
――それは『松前 桐哉』である。
そして何を隠そう『徳山 柚姫』が桐哉の想い人であり、将来の伴侶(葉緩調べ)であった。
葉緩が幸せを感じるとき、それは桐哉と柚姫が会話している時である。
両想いだというのにろくに目を合わせることも出来ない二人の距離感に口角が上がりっぱなしだ。
葉緩と桐哉は中学からの仲であった。
出会った当初から女子にモテていた桐哉であったが、恋愛にはまったく興味なし。
そんな桐哉が高校生になり、ようやく桐哉に運命の乙女が現れる。
一年生の時は声をかけるのが精一杯だったようだが、二年生になり同じクラスとなって距離は縮まり始めている。
どうも柚姫には特定の友達がいなかったようで、すぐに葉緩は接近した。
間近で眺める二人の恋物語に、葉緩は壁と一体化したい気持ちになっていた。
「いやぁ、主と姫は最高の夫婦(めおと)ですな。二人の想いが一つになれば……ぐふっ、葉緩は幸せでございます」
「葉緩だ、おはよ……」
ーーギュッ。
「はわぁ!?」
壁に密着していた葉緩の背後に現れたのは、同じクラス男子・望月 葵斗(もちづき あおと)だった。
さらさらの黒髪に、いつも眠そうな目をしている。
目にかかりそうな長い前髪で気付かれにくいが、かなり端正な顔立ちだ。
ふわりと笑顔を浮かべ、葉緩の背後をとり抱きついてくる。
つかみどころのない行動に葉緩はいつも振り回されていた。
(な、なんたる手練! いつも気配がないですね!)
「望月くん、おはようございます……」
「葉緩は今日もいい匂いだね」
「何故!? 匂いを消してるのに!」
「あ、ダメだ……眠くなってきた……」
「え、ちょっと……!」
ずしっと葉緩のもたれかかるように葵斗は目を閉じる。
壁との間に挟み、葉緩の動きを封じてしまっていた。
「ふぬぬ、重い! 私はパワーではなくスピード特化型……」
ぐしゃりと、耐え切れずにその場に倒れる。
そこに駆け付けた桐哉と柚姫が目を点にして、足を止めた。
「寝てる……」
「寝てるのではないです~。 上の人が寝たんです~」
下敷きになった葉緩がバタバタともがくも抜け出せない。
しっかりと葵斗にホールドされていた。
これもいつもの光景となっており、桐哉はため息をつき、葉緩に手を差し出した。
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