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「なんだか今日はどっと疲れました。 2年生になってからというもの、望月くんが邪魔をしてきてばかり……」
葵斗は2年生になって転校してきた。
初めのころはイケメンがやってきたと騒がれたものだが、いつの間にか静かになっていた。
転校してきてから早い段階で桐哉と仲良くなり、今に至る。
同時に葉緩へ絡んでくることが多かった。
目立つことを良しとしない考えから、葉緩は匂いを消している。
気配に関しても周りに同調するよう、大きく目立たない様にしている。
それも桐哉と柚姫の前ではその努力もむなしく終わりがちではあった。
二人のじれったさに興奮を抑えられていないのであった。
「ん?」
教室で一人、帰り支度をしていたところ、葉緩はその手を止める。
目を輝かせ、口角をあげて扉へと振り返っていた。
(これは姫の気配! 主様不在の今、私めがしかとお守りいたします!)
「とりあえず壁に隠れて見守りに徹するのだ」
察したのは柚姫の気配であった。
桐哉不在時、葉緩は柚姫の守りに徹する。
ただし、余計な介入はしないと決めており、壁となって見守ることが大半であった。
(忍法・隠れ身の術!)
慣れた手つきで壁にくっつき、得意の忍術で姿を隠す。
そこに柚姫が現れ、教室の中へと入ってくる。
小さくため息をつきながら、落ち込んだ様子で帰宅の準備をしだした。
(……姫、元気ない)
「こんなこと思うの、嫌になるな。 せっかく出来た友達に嫉妬しちゃうなんて、ほんとにやだ……」
ぐすっと鼻をすすり、涙を流す柚姫。
壁に隠れた葉緩は目を見開き、ひどく動揺した。
(な、何故泣いて!? 誰が泣かせたのですか!? 姫を傷つけるとはなんたる無礼を!)
腹を立てながらも壁から離れることの出来ず、悔しさに目をそらす。
魂の主である桐哉の幸せを願い、悟られることのないよう一定の距離を保つ。
それは必然と柚姫に対してもであった。
ただ平穏に結ばれてくれればいい。
葉緩は余計なことをせず、隠密に行動する。
キュッとなる音を無視して、泣くばかりの柚姫を眺めていた。
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