第1話「壁にキスとは変わってますね」

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「望月くん?」 スッと、葉緩の横を通り過ぎ柚姫のもとへと向かう葵斗がいた。 気配もなく現れた葵斗に葉緩は息をのむ。 いつも葉緩の行動についてまわる。 気だるそうにしながらもジッと柚姫を見下ろし、葵斗は口を開いた。 「徳山さん、泣いてるの?」 葵斗の問いかけに柚姫は涙を拭い、笑って誤魔化す。 「やだ、見られてた? 恥ずかしいなぁ、忘れて」 「桐哉のことで悩んでるの?」 「……わかるの?」 「うん。見てればわかる」 「そっか」 トントンと進む二人の理解した会話に葉緩はついていけない。 決定打となる単語がほとんど入っていないからだ。 (どういうこと? 見てるって、まさか望月くんって姫に好意を抱いてるの!?) パニックになり、思わず暴れそうになる。 (ダメダメダメー! 柚姫は主様の嫁! なんとか阻止せねば! ああ! でも今は壁だから邪魔出来ない!) 人のことを初心だと愛でるわりに、葉緩は葉緩で鈍かった。 すっかり勘違いをしたまま会話を拾っていく。 「望月くんは何も思わないの?」 「んー、思う事はあるけど大丈夫。ちゃんと証拠はつけてるから変な虫はこないよ」 「えー、それは知らなかったなぁ。 ちゃんと見てみよっと」 (な、な、望月くんはすでに姫に手を出してると!? そんなことは認めない! 姫には主様が……) そこで一気に覚める。 葉緩は自分の気持ちがよくわからなくなっていた。 桐哉は魂の主、柚姫はその伴侶となるべき人。 けれども葉緩の友人でもあった。 (これは”我欲”だ。 姫は主様が好きだと思ってた。でも私の勘違いだった? ……私はずっと主様の幸せを願ってるのに、姫は……) 「ありがとう、望月くん。少し元気出た。これからも仲良くしてくれたら嬉しい!」 「うん、いいよ」 にこっと緩く微笑む葵斗に、柚姫は調子を取り戻しキラキラとした眩しい笑みを浮かべる。 「それじゃ、あたし帰るね。ちゃんとリセットして頑張らないと。望月くんもあんまり寝てばっかりだとダメだからねー」 もう涙はなかった。 凛とし、顔をあげて教室から出ていく。 それを見送ることも出来ず、葉緩は壁に隠れて俯いていた。 (……姫、帰ってしまわれた) だが葵斗が教室に残っているため、壁から離れることが出来ない。 話してスッキリしたのだろうか? そんなもやもやが付きまとう。 (出来れば姫には主様を好きになってほしいんだけどなぁ)
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