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可愛い友達・ペガソス
私は、「馬が欲しい」と、かねてからお父様にお願いしていました。
人力車などを呼ばなくても、どこへでも一人で行けるようになりたかったのです。
「女子が乗馬なんて」と言いつつも、去年の私の誕生日に、お父様が白馬をくださいました。
その馬は、白い毛並みに青い目をしためずらしい種類。
よく見かける、茶色の毛並みに黒い目の他の馬とは違う容姿のその馬を、私は一目で気に入りました。
私は、その馬に『ペガソス』とギリシャ神話に出てくる翼をもつ神馬の名前を付けました。
ペガソスはとても賢い馬で、おとなしく、心を許せる人間の友達のいない私には、唯一癒される存在です。
ペガソスには私の気持ちがわかるみたい。
私が少し落ち込んでいる時は、青いきれいな目を伏せながら鼻を摺り寄せてきたり、私がイライラしている時は、存分に走り回ってくれます。
時間があると、代々木にある馬場まで行き、ペガソスに乗る練習をします。
相性のいい私とペガソスは、どんどん乗馬が上手くなり、今では高い障害物も越えるような馬術のお稽古をしています。
お父様にお願いした時は、「馬に乗ってどこにでも行きたい」と思っていましたが、道路には自動車も増えてきて、馬車や通行人で混雑しています。
ペガソスにそんな混雑した危ない道路を歩かせたくなくて、最近はほとんどペガソスと街を歩くことはありません。
可愛いペガソスに何かあったら一大事!
そもそも、金髪の私が、きれいな白馬のペガソスに乗っていると、「なんの大道芸だろう」と思われるのか、周りの人たちが騒いでしまうので、街中では乗りにくいというのもあります。
美しい真っ白なペガソスに、『西洋のバケモノ』の私。
私に似ていると思ったけれど、雲泥の差だわ。
最近は、ペガソスの美しさを見るために、女学生や時には男性までも、馬場の柵の外で見ていることがあります。
実は私はその方たちに、ペガソスの素晴らしい走りや、華麗に障害物を飛び越える様を見せつけるように練習しています。
ね、皆様、ペガソスは美しくて力強くて素敵でしょう?
いつも私は、このように皆様に自慢しています。
もっとも私は、柵の外で騒ぎながら見ていらっしゃる方々に話しかけたことはありませんし、あちらからも話しかけてはこないので、心の中でペガソスを自慢するばかりですけれど……。
そして、馬場の管理をしているおじ様にペガソスのご飯などもお願いして、厩舎へ預かってもらい、人力車がいるところまで歩いていって、人力車に乗って帰るのでした。
お父様が馬場のおじ様に毎月エサ代として200円(※現在の価値で約60~70万円くらい)渡しているそうです。
その為か、おじ様はニコニコしながらペガソスのお世話をしてくださいます。
やっぱりこの世はお金がモノを言うんですねぇ。
なんだか世知辛いような気もしますが、これが現実。
ペガソスのおかげで、人の社会の摂理も学べています。
「お父様にはどうぞ、来月もよろしくお願いしますってぇ、お伝えくださいまし、お嬢様!」
野良作業姿(※粗末な着物に股引などを履いた昔の作業服)のおじ様に、いつもお父様への挨拶をお願いされます。
「おじ様、ペガソスのことをどうぞよろしくお願い致します」
私は、ペガソスを大事にしてくださるよう、お願いを返すのが習わしのようになっていました。
私のお父様が、毎月そんな大金をなぜ払えるのか。
恥をしのんで、お教えいたします……。
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