断髪にしたことに対する反省文

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断髪にしたことに対する反省文

 早くマントを(つくろ)って、お返ししなければと思っていたのですが、月曜日の昨日は、学校へ行くと案の定、先生から髪のことで叱られていまいました。    そして反省文を書かねばならなくなり、帰宅してからマントの修繕〔結局、余計ボロボロにしただけですが……〕が出来なかったのでした。  (わたくし)に『断髪にしたことに対する反省文』を書いてくるように(めい)じられたのは、石原(いしはら)先生。  明治の終わりごろから流行った大きなひさし髪(※前髪と横の髪を大きく前にふくらませて結う髪型。大正8年になるとちょっとダサめだがまだこの髪型の女性もいた)を、いつも一筋の乱れもなく整えておられます。  (わたくし)の通う東京女子高等師範学校(※女性が学校の先生になるための学校。現在のお茶の水女子大学の前身)の中でも、一番厳しいと言われている国語の先生です。 「んまぁ~! 何たること!   一井 撫子(いちい なでしこ)さん、その短い髪はどうしたのですか!」  後ろから、甲高(かんだか)い大声で石原先生が(わたくし)を呼び止めました。  朝からいつも以上に、道行く皆さんの視線が痛かったのですが、この石原先生の声で、部屋の中からも身を乗り出して見る方や、後ろに引き返して見に来る方もいます。  思ったより、早く見つかってしまったわ……。  月曜日に登校してすぐに、石原先生の目に留まってしまいました。  学校のきまりでは、洋服で通学しても構わないのですが、(わたくし)は周りに合わせた服装にしています。    地味な筒袖(つつそで)(※普通の着物のように(たもと)がない、筒状になった(そで)の着物)に、えび茶色の(はかま)。  袴の腰には、この学校の生徒の印でもある帯(※ベルト)を締めています。  落ち着いた色の、古代紫(こだいむらさき)(※くすんだ紫色)の博多織で、学校の徽章(きしょう)を金具にひっかけて、この帯に留めます。  (わたくし)の通う学校は、みんなこのかっこうなのですが、いかんせん、(わたくし)は頭が金色なので、周囲に紛れたつもりでも目立ってしまいます。 「おはようございます、石原先生」  覚悟を決めて振り返った(わたくし)は、肩のあたりまでの短い髪をサラサラと前にこぼしながらいつものように、丁寧にお辞儀しました。  先生もつられて、ピシッと姿勢を正しくして「おはようございます」とお辞儀なさいます。  頭を上げた(わたくし)が、乱れた髪をかきあげて直していましたら、ハッとしたような顔をした先生は、ぶるんぶるんと大きなひさし髪を揺らして頭を振り、またキンキンとした大声で叫びました。 「こんなに髪を短くなさって!   女性が髪を切るなんて不良のすることですよ!   将来、教師になるべく人間が、こういう行いをするなんて一体どういうことなんですか! 一井さん!」  よく響く石原先生の声は、ますます人を集めてしまい、遠巻きに人だかりができていました。
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