第1話 大事な腕

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 実質障がい者となったが、料理ひと筋できたこの年齢では……何か職業訓練などで改善出来るだろうか?  そんな考えが浮かんでも、やはり落ち込む気持ちが大きい。それほど、苦労はあっても料理人の仕事が生き甲斐だったのだから。 「……どうしよう」  お金はなくもない。  恋人など作らず……ただただ、調理師免許を取得するためにもと日夜技術向上や勉強に明け暮れていた。貯金優先にかなりの額は口座に入れてある。免許の方は取得出来ても……腕がこれでは転職など不可能。  あと、年金も申請済みだ。  身体の障がい者となったことで、二十代の私でも……額は少ないが、入院時に手続きをしたことで二ヶ月に一度は口座に入金される。  豪遊などしなければ、日常生活程度は普通に送れるだろう。  しかし……肉体を使う仕事をしてきた私にとって。  まだ二十代で、何も出来なくなるのは……非常に哀しかった。 「……もっと、色んな料理……作りたかったな」  最終は辛かった、修行も買い出しも最近は楽しみを覚えていたところだったのに。  ほんのひと月程度で……あの一瞬の事故で、全てが台無しになった。
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