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Sazabys
目の前の,ガンダムプラモデルを眺めている。赤いモビルスーツで,たしか「サザビー」という名前だったはずだ。機械的な身体が,少年心をくすぐり,僕は出たやる気をもとにペンを進めた。今日は中学受験の結果が届く日だ。
目の前の,サッカーボールを追いかける。黒と白の単調な球で,それは六角形と五角形で構成されていた。自陣に攻め込まれ,少し冷や汗が出る。足に意識を向け,中央あたりに急いで戻った。今日は中学最後のサッカーの試合だ。
そういえば,お兄ちゃんはどうだろうか。僕のヒーローは,先発メンバーとして出られただろうか。ミスをして責められやしていないだろうか。お兄ちゃんは「負けんなよ」そう言って,家を出ていった。お兄ちゃんを信じよう。僕も,戦うだけだ。
そういえば,和音はどうなったのだろうか。俺の弟は,ちゃんと志望校に合格ができただろうか。何かの間違いで,不合格になってやしないだろうか。俺は弟に「負けんなよ」そう意気込んで,家を出た。弟は大丈夫だ。俺も,負けないだけだ。
ポストに何かが入れられる音がする。バイクが遠ざかっていく音がしてから,扉を開ける。封筒を手に取り,走った。お兄ちゃんの試合はここから近いところで行われているはずだ。あの時のお兄ちゃんの背中を思い出す。あの日の思いを確かめる。
「未来で合図を待ってて」
お兄ちゃん
ポストにサッカーボールが当たる音がする。ディフェンスがボールに近づいて,俺もようやく詰める。体を相手とサッカーボールの間に入れ,再度ボールの所有権をこちらに移す。おそらく,これが時間的に最後のシュートチャンスだ。今は1対1で,同点。ここで決めなければ,俺のサッカーはここで終わりだ。和音の顔が浮かぶ。
お兄ちゃんがシュート体制になるのが,少し遠くで見えた。観覧ギャラリーのギリギリまでいき,僕は右手を口に添え,左手を掲げた。
『俺は,いつだって本物になりたかった。』
『僕は,お兄ちゃんはもう本物だって言いたかった。』
だからさ,負けんなよ
「「My HERO!」」
両親は仕事で,家の中には僕たちしかいなかった。
「和音,合格おめでとう」
「お兄ちゃんも,優勝おめでとう」
僕らはきっとあの頃と同じだ。お兄ちゃんはヒーローで,僕はその弟。どれだけ挫折しても,僕たちは歩いていくしかない。方法はもう他にないんだ。
僕たちは,俺たちは,立ち上がるだけだ。
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