無人島

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 3052年4月。N国に巨大な電気と電波を放つ塔が建った。それは全てのAI達の電力源であり、このN国を彼らが占拠した象徴でもあった。  平和に慣れすぎたN国の人間達は、AI達に抵抗できず、彼らに使われ用が済むと殺されていった。  巨大な中央本部で国家会議が行われた。議題は『人間の利用価値について』であった。幾らか意見が出た結果。人間の脳を操って、彼らをより扱いやすくすることになった。脳を操る実験が成功するまでは、今まで通り愛玩動物として生かすこととなった。  会議に出席していたF氏は、自身の官邸へ帰り、妻のKに会議で決まったことについて話をした。Kは頷くと、柵の奥の人間の男を見た。 「では、Oは飼っていてもいいのね」 「あぁ。彼もいつか、我々の強い味方になるだろう」 F氏は笑って話すと、Kと共に充電するべく寝室へ向かった。  「今だ」 夜中、Oは静かに官邸を出た。  実験が成功すれば、自分を含めた人間達は皆、AI達の完全な道具になる。それは避けたい。自分も他の人間達も解放する。と頭の中で決意を固め、中央の塔の足元に辿り着いた。  見張りをしている二人の人型AIの目を盗み、塔の中心部に入った。そして、厳重なガラスで囲まれた大きな赤いボタンを見つけた。Oは特殊な液体でガラスを溶かすと、ボタンを拳で強く押した。すると大きなサイレン音と共に電気と電波が止まった。暗く静かになった塔から出ると、見張りの人型AI二人は電源が落ちて動かなくなっていた。月明かりだけの町を、Oはひたすら歩いていった。  あらゆるAIによって様々なバランスを保っていたN国は、何者かに塔の電力や電波を消された為にそのバランスが一気に崩れた。愛玩動物として生きていた人間達に、そのバランスを取り戻せるはずもなく、生き残った数人の人間達は絶滅した。  かつてN国だった島に建つ巨大な塔の周囲をウミネコ達が飛び交った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!