1人が本棚に入れています
本棚に追加
ああ、似ている。
とても晴れた日だった。秋風が心地よく、でもほんのり暑い。そんな日に、私は神澤涼という男に出会った。
数日前、友人に紹介されてやり取りを始めた男性と会うことにしたのは、三十路手前になり、結婚を焦り始めたからだった。
神澤はメッセージが丁寧な文体で、とても好感を持てた。そのため、会うことに対して抵抗はなく、むしろ楽しみではあったのだが、会った途端にまず思ったのはそれだった。
どうして、こんな顔をしているのだろう。
どうして、よりによって。
神澤は驚くほど元彼に似ていた。顔だけでなく、体つきや声色まで。
「美穂さん、俺、あなたとどこかで会ったことがある気がするんです。おかしいですよね。初めて会うのに」
ありきたりな口説き文句さえ、今の私には恐ろしいもののように思えた。
「あの、すみません。私、ちょっと用事を……」
謝って帰ろうとすると、神澤は手を伸ばしてきて、私の腕を掴んだ。
その途端、私は驚くほど温かい手に、涙が出そうになった。
なぜって、手の感触まで元彼に似ていたからだ。
「神澤さん、私も、あなたに……」
私が今から口にする言葉の裏に潜む感情は、とても一生彼には言えないだろう。
「運命を感じました。良かったら、次の週末もまた会ってくれませんか」
神澤の顔に目を向けると、元彼によく似た顔で笑って頷いてくれた。
けれど、私の後ろめたさを嘲笑うかのように、彼の背後では突然雷鳴が轟き、雨雲が押し寄せてこようとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!