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「AIチップ、今から入れたい?」
女性が僕に訊く。
「社会人になって、お金もあるし、今なら自由に入れられるでしょ」
「いや、今のところいらないかな」
僕はかぶりを振って答える。
「なぜ?」
彼女が薄く笑う。
「上手く言えないけど、でも、この上手く言えないとか、そういうことが僕は好きだから、かな」
言ってから、「答えになってないよね」と苦笑する。
「ううん、わかるよ、その気持ち」
彼女は小刻みに頷いた。
「君は?」
僕が訊くと、彼女はそっと両手を胸に当てる。
「私は心臓の音が聞こえて安心できるから。だからいらない」
そう言った。
「うん。わかる」
僕も同意する。
「AIチップを埋め込んだら、もしかしたら今の自分が自分じゃなくなっちゃうかもって、そう思ったりして、なんだか嫌だなって」
周りを見る。
皆楽しそうに笑っている。
同じような質問と、同じような返答。
果たしてそれは本当の気持ちで、自分自身の言葉なのかと、訊いてやりたい。
「なんだか、皆同じに見えるよ」
僕がぼそりと呟くと、
「私も?」
言葉を拾われた。
僕は肩をすくめ、腕時計に目をやる。
「抜け出そうか」
そう彼女に言う。
彼女は胸に手を当てたまま、
「喜んで」
そしてにっこりと笑った。
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