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1.兄妹喧嘩
カフェ「一善」の開店前の店内に、朝から大きな声が響き渡った。
「カラオケくらい行ってもいいでしょ、みんな行ってるよ?!」
私、花堂琴理は兄の貴見(貴兄)と喧嘩の真っ最中である。
「中学生の女の子二人で行くのは危険だと言ってるんだよ、琴理」
「だからってこっそり隣の部屋を取って見張ってるなんてやり過ぎだよ、貴兄!」
私は前回のことを思い出し、憤慨する。
「何もやり過ぎなことない。カラオケ店 犯罪、で検索してみなさい。恐ろしい事件がたくさん出てくるから!」
「でも、またそんなことで日曜日にお店を閉めちゃって……常連さんに愛想尽かされても知らないからね!」
貴兄は「カフェ・一善」のマスターだ。
「常連の皆さんはよく知ってるし、だいたい僕の本業は小説家だからいいんだ」
そして、一応小説家、の肩書きもある。でもーー。
「それだって最近全然書いてるの見ないよ?」
「それは……琴理が学校に行ってる間にコツコツとだね」
ちょっと目を泳がせる貴兄。
「とにかく、貴兄は過保護過ぎ!! 今どきカラオケにも友達同士で行かせてくれないなんて頭カタすぎるし、正直ちょっと引く」
そこまで一気に言って貴兄の顔を見ると、ショックを受けたような顔をしている。言いすぎたかな……と私の胸はチクリと痛んだけど、後の祭りだ。
もう家を出る時間だったので、
「行ってきますっ!」
と言い捨てて、そのまま家を出た。
ーー貴兄、花堂貴見は12歳違いの兄だ。と言っても血は繋がっていない。
私の両親は結婚当初子供ができず、当時五歳だった貴兄を養子に引き取った。その七年後、貴兄が十二の時に両親は思いがけず私を授かったのだ。
ところが私が七歳、貴兄が十九歳の時に二人で交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
それから八年。
私は十五歳になり、若く見えるけど貴兄ももう二十七だ。
貴兄は一人で、祖父が遺したカフェを営業する傍ら小説家をして、この歳まで私を育ててくれた。
そんな貴兄に、私だって感謝してる。でも、最近、本当に過保護の度合いが増してきている気がするのだ。
カラオケくらい自由に行かせてくれても!と思ってしまうのは、私のワガママなのかなぁ?
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