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その日の下校時刻、私は止まない雨を見ながらため息をついた。
朝は、ピカピカに晴れていたはずだ。それなのに午後になると真っ黒な雲が近づいてきて、下校時刻に合わせたみたいに雷が鳴り始め、たちまち土砂降りになった。もちろん傘なんて持ってきてない。
カフェ•一善で店番をしているであろう貴兄に電話して迎えに来てもらうか、濡れて帰るか。
喧嘩して家を出てきた手前、こちらから折れてお願いするのもなんだか悔しい。
あれは貴兄が過保護すぎると思う。もう中学生になって二年以上経つんだから、少しは年齢に見合った対応をして欲しいな。だいたい、私のことばっかり気にしてるから貴兄には彼女ができないのだ。
心の中でブツブツ文句を呟いているそんな私の事情とは裏腹に、雨は止む様子かないどころか余計に激しくなってきた。
不本意だけど貴兄にお迎えをお願いするか……。
「ほら、やっぱりまだまだ僕の助けが必要じゃないか」とドヤ顔をされそうで嫌だけど。
とりあえず友達の凛ちゃんの傘に入れてもらって学校の外に出る。校門から出たところで、校内では使用禁止のスマホの電源を入れ、貴兄の番号をタップする。
2コール目で貴兄が電話に出た。
「もしもし、貴兄?」
電話の向こうから雨の音や車のタイヤの音が聞こえてきた。
「今、外?」
「外だよ」
淡々と答える声。やっぱり怒ってるかな?私は内心ドキドキしている。
「あのね、忙しいところ申し訳ないんだけど、傘を持ってきてなくて、迎えにきてもらえないかなーなんて……」
おずおずと言うと、電話の向こうから返事が返ってこない。やっぱりちゃんと謝らないとダメかな。
「あの、今朝のことだけど……」
「琴理、前見て」
「は?」
言われて前を見ると、目の前に傘をさした貴兄が立っていた。
「……びっくりした」
「ちゃんと天気予報見てから家を出るように」
貴兄がちょっと怒った顔をして言う。
「すみません……」
しおしおと謝る私に、貴兄がクスッと笑って傘を差し出してくれる。
「おかえり、琴理」
あ、いつも通りの貴兄だ。よかった。
「相変わらず過保護だねー」
その様子を見ていた凛ちゃんが、私に耳打ちする。
「ほんとに」
凛ちゃんに困った顔をして見せながらも、ホッとしている私がいた。貴兄がさしてくれる傘に入って歩き始める。
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