1.兄妹喧嘩

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 周りの女子がチラチラと見ながら貴兄を見ながら通り過ぎていく。なんと言うか、ただ傘をさして歩いているだけなのに長身でスタイルのいい貴兄は、悔しいけど絵になっている。 「凛ちゃん、琴理を傘に入れてくれてありがとう」  貴兄が凛ちゃんに向かってニコッとする。 「いえいえー!傘くらいお易い御用です」  凛ちゃんはちょっと慌てながら、にこやかに返す。 「なんていい子なんだ!末永く琴理をよろしくお願いします」  貴兄は凛ちゃんの手を握らんばかりに感極まっている。凛ちゃんだからまだ慣れてる方だけど、誰にでも笑顔をサービスしてると勘違いする子が大量発生するからやめた方がいい、と言うことを貴兄は全然わかってない。 「ハイハイ、そこまでね。凛ちゃんごめんね、大げさな兄で」 貴兄が手を握る勢いだったので一応止めに入ると、凛ちゃんは明らかにホッとしていた。 「いえいえ」  笑いながら手を振り合って凛ちゃんと別れて、貴兄と歩き出した。 「貴兄、どうでもいいけど、なんで傘一本なの?」  貴兄を見上げる。よく見ると、大きめのこうもり傘だけど私の方に傾けるあまり貴兄の肩が濡れている。 「琴理とこうして歩けるのももうあと少しなのかな、と思って」  前を向いたまま激甘なセリフを吐く貴兄。  本当、兄ばか……。  今朝喧嘩したことを気にしていたのがバカらしくなる。  でもちょっとだけ、私までしんみりした気持ちになった。高校の3年間が終わったら、私も家を出て一人暮らしをしたりするのかな。あと何年かしたら、貴兄とは別々に暮らしているのかも知れない。  永遠みたいに思っている今は、全然永遠なんかじゃない。
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