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2.報復
翌朝登校した私は、教室の自分の机にたどり着いてハッとした。
机の上にチョークで文字が書かれていた。
「チクリ魔は消えろ」
ピンと来たのは、昨日の自転車の危険運転を通報した時、こちらを見ていた男子がいたことだ。目をつけられていたらしい。
面倒なことになったかな……。貴兄の心配する顔が脳裏をよぎった。
でも私、間違ったことはしていない。
あれはあの子達の悪ふざけの度がすぎていたんだもん!
そう思って、堂々と過ごすことにした。
昼休み、トイレに行こうと教室を出たところで両側から男子に挟まれた。案の定、昨日ふざけてた男子達だ。
「花堂琴理、ちょっと顔貸せよ」
一緒にいた凛ちゃんが慌てて私の腕を掴んだ。
「琴理?!行かなくていいよ!なんなのあんた達?」
「関係ない奴は引っ込んでろ」
男子達が凛ちゃんに向かって凄む。
「大丈夫だよ、凛ちゃん!」
ここは凛ちゃんに危害が及んだらいけない。私は凛ちゃんに目配せして、おとなしく男子に従った。
凛ちゃんの横を通り過ぎる時、小声で耳打ちする。
「できれば先生を呼んできてくれたら嬉しいな」
凛ちゃんはうなずいて走り去った。
よし、とりあえず凛ちゃんの安全確保。
私はそのまま両側を男子に挟まれて裏庭に連れて行かれた。
「ちょっと、いい加減離してくれない?私になんか用なの?」
バクバク言いそうになる心臓を落ち着かせながら、私は強気を崩さないように相手を睨み据えた。
「お前さ、この前俺たちのこと先公にチクっただろ?!」
「チクられるようなことしてたからでしょ?どう考えても迷惑だし、危ないことしてるんだもん」
「なんだと? 俺らを怒らせると上が黙ってねーからな?! 高校にアニキがいるんだぞ」
そう言って、一人が私のセーラー服の胸倉を掴む。
「そう言うの、虎の威を借る狐って言うんだよ。誰と兄弟だろうとあんた達はただの中学生でしょ!」
声が震えそうになるのを懸命にこらえて、私は啖呵を切った。
「生意気な女だな」
一人が威嚇するように一歩前に踏み出した。体格がいいから迫力がある。
でも怖がるもんか!
私は足を踏ん張って堪えた。
その時、
「姐さん!!先生呼んできたよっ!」
濱口大雅が体育館の陰から飛び出してきた。それを見て、不覚にもホッとしてしまった。
胸倉を掴んでいた男子が、舌打ちして私を突き放した。
「このままで済むと思うなよ」
捨て台詞を吐いて走り去る男子達の後ろ姿を見て、私はへたっと座り込んでしまった。
「大丈夫ですか?姐さん。無茶しないてくださいよ、ホントに……」
「だ、だいじょぶだいじょぶ。ちょっと緊張が緩んだだけ……」
ヘラヘラ笑って見せる私に大雅は呆れた顔をしながらも、背中をさすってくれる。
大雅は、前に町内でちょっとしたいたずら事件を起こしたのだけど、それを貴兄に丸く収めてもらってから「カフェ・一善」に出入りするようになった中二男子だ。
「あれ?そう言えばなんで大雅はここに?」
「凛先輩が呼びに来ました。職員室より近いからって」
大雅がそういうのと同時に、凛ちゃんが先生を伴って走ってくるのが見えた。
「ことりーっ!」
ありがとう、凛ちゃん!
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