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次の瞬間、誰かに頭を抱えられながら壁に身体を打ちつけていた。
衝撃で何が起こったのかわからない。
すぐ横を猛スピードのバイクが走り去って行きざまに、ゲラゲラ笑う声が聞こえた。二人乗りでヘルメットを被っているが、若い男の声だ。そのままバイクは走り去っていった。
あと少し遅かったら確実に跳ねられてた……。
心臓がまだバクバク言っている。
私は、庇うように身体ごと覆い被さっているそのよく知っている顔を見上げた。
「琴理っ……怪我はないか!?」
貴兄が、真剣な表情で私の顔を覗き込んでいた。乱れた髪が額に落ちて影を作っている。
あぁ、貴兄だ。その顔を見て、全身の力が抜けた。
「……琴理!?」
へたり込んだ私を、貴兄が慌てて抱き留める。
「……大丈夫。ちょっとほっとしたら、力が抜けちゃって」
私がえへへ、と力なく笑うと、貴兄はほっとしたように腕の力を緩めた。
それまできつく抱きしめられていたことに気づく。なんだか急に恥ずかしくなって、ちょっと貴兄から身体を離した。
「怪我はないか?」
言いながら貴兄は私の全身をチェックする。その目が私の手首で止まった。
「琴理、血が出てる」
手首を壁で擦ったみたいで、擦り傷から血が滲んでいた。傷自体はかすり傷だ。
「これくらい大丈夫だよ」
頭上でギリっと歯ぎしりする音がした。見上げると、貴兄が低い声で呟いた。
「これは……許せないな」
その切れ長の瞳をギラッと光らせる。
「僕を本気で怒らせたらどうなるか、分からせてやる」
貴兄が怒ってるーー今まで見たことがないくらいに。
そんな貴兄をあまり見たことがなくて、こんな時に不謹慎とは思いながらも、その姿はゾクゾクするほどかっこよかった。
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