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第一話
~地球~
~とある家~
〝ボヒュウウウウウウウッッッ!!〟
〝ZDOοοοM!!〟
「んお?」
安眠帽子を被った男が、むくり。
未だ振動揺れ止まぬ中、ベッドで腰を起こす。
〝ごしごし〟腕を思い切り振って、まぶたをごーしごーし。
「なんかけったたまし~音聞こえてきやしたが」
安眠帽の先端の毛玉をふりふりとし、男は〝ガヴァリ!〟と掛け布団を吹き飛ばす。
カーテンを〝キシャア〟と開ける男「我の眠りを妨げしものは何かな~っ」
目玉を飛び出させた男「うげェ! 裏山の方でなんか煙上がっとるぅぅぅぅううッッ!!」
「い、行ってみよう!」
部屋を飛び出し、階段を〝と〟〝と〟〝と〟と、駆け下りる男。
(なんかMOTHER2の冒頭みてェで面白そうだ!!)
〝ワクワク〟そう脈打つ男の心臓。
男はトキメキを堪え切れずに居た。
【トキメキ】――何歳になっても胸の内に携えていたいもの。これが失われた時、人はほぼ死んでいると同義。しかし、失なっている事に気付けてれば、いつか必ず取り戻せる。
~男の自宅・その裏山~
パジャマ姿のまま来た男「なんかスゲー煙上がってンぞ!?」
男は、頭の左端に衝撃のような迸りを浮かべて、目玉を大きく、そして丸くする。
男の目の前には大きく穿たれた陥没地帯。その中心部から煙が上がっている。しかし、煙が濃く、その内情は覗けない。
「な、なんじゃこりゃ――」
どこからともない女性の声「誰か居るの~?」
たじろぐ男「え!? あ、はい!」――(見物客か?)
その女性の声は甲高かった。
甲高い声の女性「あのさ、ちょっと悪いんだけどさ~ちょっち手伝ってくれるカナ~☆」
「は、はいただいま~」
男は、女性と見、諸手を擦って声のした方に近づく。
声のした方とは、煙の向こう側からであった。
〝がらがら〟――穴手をずり降りる男(ずいぶん勇ましげな女の人だな――こんな接近試むなんて)
煙の向こうに潜む女「悪ぃ悪ぃ~ちょっとヘマしちゃってよ~」
男「はあ」
男は煙を手で払い――その向こうへ。いざ。彼女の相貌を窺い。
女性の声「いや~メンゴ、メンゴ。助けるつもりがこっちがヘルプミーだぜ」
目を潜め――首をフリフリする男「は?」
そこに居るべき女性は見当たらず。
女性の声「ごめん。今、スゲー身体痛くて、人目にそぐわないかも。今、どんな身体してる?」
――もっと言えば、そこにあるべき顔がなかった。
口を開けて固まる男(カラダモナニモ――)
そこに〝あった〟のは、半田ごての先端からにじみ出るような、球体――しかして流動的――をとった銀色一塊(ひとかたまり)。
口の開きそのままに鼻水を垂らす男。
そのうごめく銀塊は、身体を〝ぶにょにょびょッ〟と震わせ、ピンク色の球体――これは硬質的――を二つほど取り出し、
流体水銀一塊(女声)「おっ。第一現星人はっけ~ん☆」
呆気にとられる男をよそに、
大小合わせて球体三つ「あ、ヤバいよ。この惑星(ほし)」
舌を出したまま男は考える。
――(逆に今のボク、そんなにヤバくないって事?)
何事もポジティブ・相関的な考え方が重要である。
【惑星】――惑星と書いてほしと読む(と、格好良い)。恒星、衛星とその区分は様々だが、端的に云うと〝自ら発光出来ないもの〟が惑星とされる(他にも色々要項あるけど)。第二義として、有力者、未知数の人物だが太陽(一番)には至れない者――と云った喩え文句の意味もある。そのどちらにせよ、他所の力を借りた方が良さそうだ。だって惑星には惑星なりの輝き方があるのだから。ともすればそれは、時として太陽を越える光を宿す事もあるのだから。何はともあれ、ワクワクせいって話。
~男の自宅~
「ンめ~!!」身体から細かな液体を飛び出させる球体三つ。
球体三つは、飴玉をその身に幾玉も一度にめり込ませ、その身に埋もれさせてゆく。
おっかなびっくりの男「お、お前、それ食ってんの?」
「してるよしてる。モチ、摂食シーン♡ ちょっと恥ずかしいな♡ こういう欲求丸出しの場面、オトコノヒトに見られちゃって♡」
「いや、あんま情欲湧かないけど」
「え~湧いてよ~湧かしちゃってよ~」
「なんか、女子の食いっぷりみてるってか、ゲームボーイの画面覗いてる気分」
「どゆこと?」
「お前、星のカービィかよって事」
頭上に〝?〟を浮かべる銀製一塊「――」
「そら、分からんよな」
「ふぅん。ゲームの想像上のキャラクターなんだ」
「えっ。分かんの?」
「マーネ。あたし、人の頭の中覗けるし」
「おい。スゲーな異星人」
「信じてくれるの? あーしが異星人だってコト☆」
「いや、信じるも何も、異星人以外の何者でねーでしょ(――こんなぶにょぶにょ――)ま、〝人(じん)〟ってところはまだ疑わしいけどね。異星人っつーか、異星物っつーか。ともかく、異星の物体である事は信ずる」
「そりゃ、そっか~こんなぶにょぶにょだもんね~」
「そそ。こんなぶ――」
「あたし、心読めるって言ったよね」
「ああ! そうか! ごめん!」
「あ~深く傷ついた~。こんな身体してるケド~、ま、こんな身体は仮のもの、怪我してる状態だからこんなぶにょぶにょレディーにあるまじき醜態晒してるけど~。柔らかそ~でたわやかそ~でも、傷つきやすいンだからね~☆彡」
「ごめんて~」柏手を打って平謝り。
「まあでもいいよ。心読めるから色んなおもれー事探っちゃうし~」
「え」
「君、ふたなりモノが好きなんだね」
「ちょ、ちょ、それは――やめてよぉ…」
「いいじゃん。二人しかいないんだし」
「いや、そうなんですけどね」
「これ、念波に載せて全国民に届けちゃおうかな~」
「ちょ、やめてよィ!!」
「あたし、こういう事出来るからニィ。損ねるなよ? もてなせよ?」
「ま、せっかくの客人だからね」
「……まーねー」
「あれ? なんで地球に降りてきたんだっけ。なんか地球がピンチとか――」
「ま、えーとね――あ。いや、地球ヤバいねって。スゲー綺麗ねって事」
「あ~。言語の妙」
「そそ。それに君、エロビデのDVD出しっぱなしよ?」
後ろを振り向く男「うわっ! マジだ!」テーブルの上に駆け寄り、点在する他の物品をかなぐりすて、死守する。――抱きかかえる。
再び銀色一塊を見据える男〝キッ〟睨み付ける「お前、読心術、うそだろ!」
「確かに、君がふたなりを好きだってのは、それを見て知った。でも私が心を読めるのは真実。てか、宇宙人はみな、そういう念波で会話する」
「マジ?」
「この星の人間はまだそこまで人体のレベルが行ききってない。思考がだだもれだよ。念波使える身からすればね」
「……ホントにホント?」
〝コホン〟と呟く銀色「君はふたなりだけでなく、ひょ――」
「うぇあ、分かった! 信じる! いたく信じる! 痛み入る!」男は少し涙目になる。
高らかに声を震わす銀色一塊「れ――」〝ぶるぶるっ〟その振動を通じて、その身体も小刻みに震える。
「分かったっての!!」――ドレミの歌かよ…
「まあまあ、いいじゃないか。実に男の子らしくて。お盛んで」
「あんたホントに異星人? 日本のおばさんじゃないの?」――言い回しが。
「そんなことないよ~ン♡ 十七歳♡ まあ確かに、地球人よりかは知能レベルが高いから――」
男〝ぼそり〟“鼻につくな…”
「地球人よりか長寿で800年くらい生きてるケド――」
肩まで両手を挙げる男「でた! こういう時の王道パターン。異星人風吹かしてくるねェ」
「換算すると17歳くらいかな。ま、色々サバ読んで――諸々差し引きして――あ、やっぱ17だ」
「うそつけよ。余分な計算式入ってんだろ」
「ええ? じゃあそれを省くと……あ、ごめん、15だわ」
「もういいよ。15歳が知らない男の家出入りすんなよ」
「ははは。そういう地球人の観点は異星人たる私には通用しないのDAAAAAAA☆」
「あっそ」
「で? 人の事いうなら、君もケッコーおじさんなんじゃね?」
「まあそっかもな――」
くつろぐ男の年齢、何を隠そう40代。
【40代】――人間、四十にして惑わずとあるが、それはおそらく昔の話。こと現代社会に於いては物事も誘惑も多く、40歳になろうとも惑いっぱなしなのだ。とくに、急に異星人とばったり出くわした日にはおおわらわ(40なのに)。大いなる戸惑いを企てる事になる。飽くまでも四十にして惑わずは地球人のみに適用される地球の格言――〝地球辞(ちきゅうじ)〟。承知の通り、異星人には地球人の観念は通用しないのだ。――〝宇宙人来たりて、四十惑わす〟
~男の自宅~
飴玉を体の中で反芻回転させ、時折うっすらと体つきをカラフルにする銀色「ま、でもあれよ? 四十なんてまだまだよ?」そう言って辺りを見回す銀色一塊。
「ま、異星人からしたらね~☆」
「おい、あたしの☆パクんな」――よく☆あしらってるって分かったね…
「まあね」
ぽりぽりと頬を掻いく男〝もじもじ〟
「いや、しかし結構いいトコ住んでんね」〝にへら〟
「それってこの家のこと? 星のこと?」〝へへへ〟
「うーんまあ、その両方かな」
「おお。鼻が高いや」――お鼻〝こすこす〟
「そ。そんないいところ住んでるあなたにスッゴイ言いニクいンだけDO~」
「うん。なになに」
「この星、今日でもう終わりです」
「はい?」汗玉をあしらう男。
「あの~。隕石オッコチテキマス」
「え?」汗玉、床にぽとり。
「うん。言おうか言わまいか迷ったんだけどね。隠しとくのも忍びないし、元々そのつもりで降りてきたし」
「そのつもり?」
「そ。たまたまここら周辺通りがかったらさ、隕石が見えたんでスルーしたろと思ったんだけど、普通は迂回すんのよ。あたしだって隕石にぶつかってくような? ぶつかり稽古お願いしますっていうようなタマじゃないし」
「まず、力士じゃないもんね」
「そ、力士だった場合は隕石にぶつかりに行くんだけど、承知の通り、あーし、力士ではないじゃない?」
「うん。力士以外の何者かだね」
「そうそ」
「え――これ、ホントに隕石落ちてくんだよね?」〝どうにもそんな雰囲気は微塵も――〟
「じゃ、ちょっと待って。その証拠に防衛省辺りの、防衛省に勤める地球人の念波を拾ってみるから」
「――それってなんかの確証になるの?」
「ぴぴぴぴぴ」
「あ、駄目だ。なんかもうそれっぽいモード入ってる」〝なんか電波見えるもん。イナズマみたいなの〟
~防衛省~
「うわ~」
「大変だ~」
「どないしまひょ~」
「これはもう終わりや~」
~男の自宅~
「うん。念波キャッチしたけど、もう終わりって言ってる」
「えええッ!? マジに!? マジにって、あれだよ? それを信じろって事にマジにのリアクションだからね!?」
「うん。だって、防衛省の皆々が言ってるからね。多分この星の文明レベル鑑みる限りじゃ打つ手なしの打開策なしだよ」
「うそおおン!! こっちには何も伝わって来ないけど、うそぉン!」
「すっごいでっかかったもん。もう木っ端みじんだと思うよ」〝あたしが見たヤツ〟
「そんな――」
「あ、でも木っ端みじんって事はないか。でもあの勢いだとこの星貫通すると思うよ」
――ズドーンと。そう銀色一塊は続けて、でろでろの身体から線を一本伸ばす。〝びろびろ~ん〟ズドーンの声に合わせて。
「ま、でもいっか~」寝そべる男。
「あ、諦めた」
「どうせこのまま生き長らえてもしみったれた人生しか待ってないしさ~」
「あらら。急にネガティブ」
「どうせ俺はネガティブンですよ~だ」
「ネガティブアメリカン?」
「いや、ネガティブジャパニカン」〝なんでその単語知ってんだよ〟
「あ、そうなんだ」
「あ、ごめん。ネガティブジャポニカンか。かも」
「はっきりしてよ~ん」身体から線を生み出し〝ぐにょぐにょ~ん〟と遊ぶ。
「こんな終わり方でもいいかもな~」
「え~良くないよ~あたしはど~すんのさ~」
「え? 逃げればいいじゃん」
「逃げらんないよ」
「だって、あたしこれ本調子じゃねーし」
??「ホンチョーシ」??
「うん。今、スゲー醜い姿ブッ扱いてるでしょ? ちょっち降下する時、ヘマしちってね。ほんとーはもっと美形で人型なのよ」
「ふぅん」
「是非お見せしたかったワン♡」
「で?」
「この球体じゃ運転出来ねーって言うか」
「ああそか――」〝宇宙船で来たんだもんな――〟
静寂。
「だまっとこ~って思ったけど、言っちゃった。途中から騙し通そうって思ってたけど、君があまりにね」
「不憫だった?」
「チゲーよ♡ 断じてチゲーのよ☆」
「なんつーのかな~ちょっち、母性をくすぐられたってか。あ、母星じゃないよ? 母なる星」
「分かるよ。母星くすぐるのは俺じゃなくて隕石だろ?」
「はは。くすぐる程度じゃないけどね」
「くすぐりだって死ぬ時は死ぬんだぜ」
「だからそうじゃないって」〝ははは〟
「ま、そっか――笑いながら死ぬってのもいいかもな」
「ま~こうなった以上仕方ないよね~☆」
「悪いね。人身御供的な感じになっちゃって。隕石無視してくれればこんな星で共倒れ扱かなかったのにな」
「まあそれはそれよ。ケースバイケース。ま、君に会えたし」
「やっぱ死ぬの?」
「まあ、隕石落ちたらねえ」
「君が」
「あ――うん。どっこいどっこいかな~。体が十分だったら生きてたかも。宇宙空間吹っ飛ばされても特に呼吸に被爆に寒冷に困るワケじゃねーし。でもこの体なら無理か~。先ほどみてーに期待値サバ読んだけど。やっぱ無理かも~☆」
「の割には楽天だな」
「そうでもしなきゃ渡ってけないよ~この広い宇宙という世間体(せけんたい)は~」
「やっぱ宇宙人にもそういう感覚あるんだ」
「あるよ~モチあるよ~ン☆ あたしもさ、ただ宇宙を遊覧してたワケじゃなくてね。物見遊宙? うん。相棒たる――愛馬? 原付で宇宙、旅してたワケじゃん?」
「うん」
「ま、結果的にこの星で幕を下ろす事になったけどさ――ま、そういうのも運命って――」
「え!?? 原付で宇宙回るんの!?」〝宇宙船じゃなくて!?〟
――回るんの?――「うん。あたし、それしか免許持ってないし。知らないの? 宇宙船の免許とんのめっちゃムズいよ? え、地球はそんな事ないの!?」〝あたしの星だけ?〟
「いや、地球は免許ないってゆーか――」
「え!? ここ、免許要らねえの!? めっちゃ事故んない!?」
「いや、そもそも宇宙船そんなに飛んでない…免許ないけど、乗るの至難…めっちゃ選ばれなきゃならない…頑張って……」
「マジ? 心読ませて」
「あ、いいよ?」――あれ?ダダ漏れだったんじゃ――
「いや、気を遣ってセーブしてた」
「あそうなんだ。痛み入りやす」
「あ~だいぶあれだ。うん。やっぱそっか……文明レベルが……うん」
「いや、はい。なんか俺、ビタイチ関係ないけど我が胃が痛くなってきます」
「ごめんね。他意はないんよ。宇宙船で逃げ出すって案持ち出してコネーから、ひょっとしたらって思ったケド。見た感じさ、すごいのどかな惑星だったからさ。あーし自身、ひょっとしたらと思って声かけたんだよね。そしたらやっぱそーか。打つ手なしか」
「うん」――面目ない
「いや。いいって。逆にいいんだよ。こんなキレーな星で死ねてね。宇宙人冥利――生き物冥利に尽きるカモ。カモカモ。ぐげー」
俯く男「あれ――」顔を上げる「ちょっと待って…」
〝ガリ〟〝ゴリ〟「あ、飴食べすぎ?」〝ガリ〟〝ゴリ〟
汗をひと玉かく男「いや、そうじゃなくて」〝アセアセ〟
〝ピコーン〟電球を閃かす男「その原付で脱出すれば!?」
「いや、空気で悟れや。ぶっ壊れてるから。衝撃でぶっ壊れたから。あ? こら殺すぞ。あ? おめ、みてねーんか、※あん時※、部品バッラバラになって散逸してただろがい」
※落下地点※
「あ、これは相当お気に入りの――」
「おいこら。あたしの逆鱗に触れんなコラ。なんだオラ? キャトんぞ? おい。ケツ穴出せや。そこからキャトってやっからよ」
「すみません。そんな斬新な脅し文句はもう、驚けません。ケツからキャトるって何か気持ちよさそうですし」
「いや、そんな吸わないから。一回。一回だけ。頼む」
「え~どうしよっかな~ん」ぶりっこを演ずる男。
「さきっちょだけだから! さきっちょだけだから!」
「いや、どっからどこまでよ!」
〝きゃっきゃっきゃ〟
「でも、一回行ってみません?」
「ええ? 自分だけで行ってきてよ。あたし、ホントにショックなんだから」
「でもなにか打開のヒントが――」〝異星人自宅に残しておいて何されるか分かんねーし〟
【キャトる】――キャトルミューティレーションの略語&動詞化したもの。誘拐すると云った意味合いの言葉であるが、この言葉が生まれた所以としては、地球歴、1970年代に起こったアメリカの怪事件を指したものである。農家さんの飼う家畜が不可解――体中の血液を抜き取られると云う絶命の仕方が複数体、複数件起こったのだ。尚、直截の死因としては値を抜き取られた事によるショック死の模様――ではない模様…この事件が起こった理由として、チュパカブラと云うUMAが用立てられた。(居たらいいね。あ、よくないか。)
~裏山・陥没地帯~
すっかり噴煙が収まったそこに散らばるのは、バイクだったものの残骸。
「ん――やっぱ無理か~」
「だから言っただろ。ボケカス。あたしにこんなグロ映像みせんなって」
「いや、めっちゃ怒ってる」肩を揺らして笑う男。
「は? 何慣れてんの? 何懐柔してんの? してると思ったの? あたしこれでも宇宙人よ? 地球外の生物よ? あたしゃにとっちゃねえ、これ愛すべき家族を失ったようなもんなのよ! 知ってる!? キノの旅で云うエルメス逸したみてーなもんよ」
「よく知ってるな。俺もうっすらとしか記憶しかねーのに」
「そのうっすらとした記憶を頂戴したんだよボケカス! ぅオラ! なあ、どうしてくれんだよ、この愛妹(まないも)を殺されたかのような感覚! まるで! ああ! この、心を掻き毟られたかのようなこのポッカリ感――! そうまるでこの目の前に穿たれたクレーターのような――」
「元気じゃん」――詩的で
「ああ!? なんじゃいこら空元気じゃボケィ! ただの空元気じゃねーぞ!? 宇宙の宙と書いて宙元気だからな!? オオ!?」
「いや、だから何なのよ」
「空気読めやカスコラ地底人! てめーら空気吸うのがお得意なんだろ!? 有呼吸生物が!」
「いや、地底人ではないけどね」〝ユウコキュウセイブツ?〟
「なんじゃ? オラ、ケツ出せや。オラ。キャトんぞ、おお? てめーのケツの穴から触手突っ込んで痛めた身体回復したろかい!!」
「ほら飴~」
「うわぁ~い☆」〝パクッ〟〝むにゅっ〟「あッ♡ソーダ味♡……じゃないんだよ!」
「いや~。駄目か…」
〝もきゅもきゅ〟「駄目だね。まず、〝エルメス〟が元気でも、運転出来ねーもん。これじゃ」
「あそっか」
〝うねうね〟「あ、出来るかも……順応してきた。この体」〝うねうねう〟
「出来んのかい」
「怪我してみるもんだね~新たな技術を再取得~☆」
「ポジティブだな~」
「ポジティブエイリアンでしょ?☆」
「くそ~ネガティブジョポ――ジャポニカンの俺にはまぶしい~」
〝ははっ〟「言い慣れてな~い☆ それにまぶしいのは心象じゃなくてこのグレーの体ね」
「でも光源ないとそんなだよ。光湛えてない」
「ほうん。じゃまるで惑星だね」
「だね。俺んちでは眩しくて見てられんかったけどね」
「え? そんなに?」
「片目イったもん」
「マジかよごめんな。眩しすぎて」〝存在が〟
散見されるパーツパーツを見回す男「バイク直せねーもんな~」
「……ひょっとしてアタシだけ逃がそうとしてくれてる?」
「そりゃそうでしょ? あんたカンケーねーもん」
「優しいんだね」
「どっちがだよ。余りある優しさ祟ってそんなんなった癖に」
「いいんだよ。もう」
「よかねーだろ」
「よかあるんだよ。なんかもうね。どうでもよくなったよね。肚座ったってゆーかね」
男はそれを横顔で受ける。渋い――陰のある横顔で。
「ね。もてなしてよ。言ったじゃん。もてなせって。だから地球の事色々もっと教えてよ」
【おもてなし】――和の心とされるもの。とある有名人がそれを大舞台で披露したが、もっと間を置くとか言い方あったんじゃねえかと思う。緊張してたのかな。(失礼な事を言うな)(そう思っても和の心で以て腹に据えとけ)
~男の自宅~
「すげーなスピルバーグ!」
「改めて見たけど、おもしろいなE.T.」
「最期の晩餐決まった!」
「あそうなの? なんか劇中にそんなの出て来たっけ」
「うん! スピルバーグ捏ねてスティーブン・スピルハンバーグにする!」
「やめてよ! ダジャレの為に軽く人キャトるの!」
「え~。おもしろそうだと思ったのに――」
「美味しそうだと思え。せめて。面白そうで人を調理すんな。テメー、宮沢賢治か」
「銀河鉄道的な旅行した事はあるけど、違うね」
〝いいな~〟「なんで宮沢賢治が伝わるんだよ、異星人に」
「こればかりは彼のスピルバーグも想定出来なかったでしょうなあ」
「そう。偉大な人なんだから、ハンバーグにして殺さないでよ。魔神ブーじゃないんだから」
「あれはチョコね。もしくは飴とか」
「なんで魔神ブーが伝わるんだよ。異星人に」
「あ~ちょっとドラゴンボール読みたくなってきたなあ」
「それもいいな(――そうやって死んでくのも)ちょっと待って。あったかも」戸棚を探る男〝スーッ〟小息を吸い、「…二階かなあ」
男、部屋を出る。
そこに追随する銀色一塊球体スリー。
〝すたすた〟「おい、着いて来のんかい」
〝ぺちょ〟「そらそうでしょ。お前、あれよ? 異星人一人にすんな? 後ろから狙われちゃうよ? だいじょぶ? 生存観点。息してる? 生存本能」〝ぺた〟
〝すたすた〟「いや、もうとっくにバガになってるよ」
〝ぺちょぺちょ〟「バガに?」
「結局、数時間後に死ぬんだろ?」
「確かに。一理ある」
「それに、だいじょぶだろ、お前なら――」
二人、階段を上がる。〝どたどた〟
〝どったんどたん〟「しかしあれだよ。どんな偉大な功績残したとて滅ぶ時は一瞬ですなぁ」
「鳥山明?」
〝とんとん〟「いや、スピルバーグ」〝鳥山明もそうだけど〟
「――ま、でもハンバーグにされるよかマシなんだよ」
「あたし、悟飯がキレるシーン見たい」
「ああ、あの――17? 18?」
「違うよ。16号。人造人間16号が頭潰されるヤツ。で、御飯がピキッてなるヤツ。あれ、アニメ版だと変な演出入ってるんだよね」
「もう見なくてよくない!?」
「いや、見たいんだよ~飽くまで、あんたの記憶スポイルバーグした限りの知識だからさ~。誤ってる可能性もあるし~☆」
「なんかもう、16号ねとか言われた辺りから地球人としてのプライドズタズタなんだよ」
「たのむっ――地球人の手でッ――ドラゴンボール全巻を探してくれ――ッ」
「うち、全巻ないかも」
「しょんなぁ~☆ おい、こいつホントに地球人かァ? 地球人失格だぁ~ドラゴンボール全巻ねえの~」〝逆に何巻ならあるんだよ~〟
「ま、もう地球人のプライドズタズタだからね」
「おい~そんなんじゃ地球人最強になれないぞ☆」
「誰がクリリンだよ。気円斬放ったろかい」
「避けろナッパ!!」
「だからなんで通じンだよ!」
「クリリンいいじゃん、クリリン」
「やだよ。どうせなら孫悟空になりてえよ」
「無理だよムリ。あれ、生まれからしてチゲーもん」
「確かにそうだけど」
「男の子なら孫悟空に憧れちゃうだろ」(――ま、どう足掻いても俺にはなれねーけどな)
「あのさ」
「うん?」
「どうでもいいけど、二階長くね?」
「……ホントだね」
【ドラゴンボール】――鳥山明・著 週刊少年ジャンプ掲載 漫画。ジャンプ黄金期を飾った少年漫画の金字塔。説明するのも忍びないが、主人公である孫悟空と、それを取り巻く仲間達の友情・努力・勝利を描いたバトル漫画。でも、多くのキャラクターは結構おざなり。活躍するのは一握りだったりする。作者はこれを描くのが嫌だったと残しているが、傑作ってそういうもんなんだろうか。読者に迎合する感じが?? ま、でも面白きゃいいよね。でも、描いてる人が楽しむのが先か――うーんループザループ…
~再び一階~
「16号死んだあああああああ!!」
「知ってたでしょ」〝俺より詳しく〟
「御飯キレたああああああ!!」
「うん。後詰まってるから早く呼んで。俺も読みたい」
「あと、この飴ちょ~ウマい」
「よかったね」
「うん。よかった。飴の切れ目が命の切れ目って言うしね」
「あやばい。ちょっとコンビニ行ってこよ」
「複数袋(ふくすうぷくろ)買ってきてね。全部舐め果しちゃる☆」
「飴だけでいいの? もっと美味いモンあるけど。ま、コンビニに限らず。あ、でも高すぎるものは――あ、でもいいか。今日で終わるなら散財しちまおっかな」〝せっかく地球に来てくれたんだからな〟
「ううん。あーしはこの飴と云うものが大好きなんです」
「あそう? あんましそればっか舐めてると糖尿病になるよ?」――あ、臓物ねーからないか。――いや、臓物ねーのか?
〝ウーッ〟〝ウーッ〟
「サイレンすげーな」
「テレビ付けてみ?」
テレビ〝――南米周辺の地域は無事とされており、飛行場に押し寄せる人々が――〟
「ああもう大パニックだ」
「流石に流出するか。バカだね。逆にそっちもアブねーってのに。貫通するっつーの。どした、ちたまの科学者。お得意の計算でしかと弾き出してみろや」
「……そんな言い方すんなよ」
「ゴメン、ワル乗りが祟った。本気じゃねーZE☆」
「うん」
「いや、しかしだ、この19号、強くね? だって気〝エネルギー〟を吸収――」
「なによ黙って。不意に黙って」
「あのさ、気ってホントにあるのかな」
「何を突然に」
かめはめ波を撃つポーズを繰り返す男「いや、なんか急に」〝そういう感覚に目覚めたっつーか〟
「あるよ。宇宙にはね。そういう概念いーっぱいあるよ☆」
「マジに?」〝また☆あしらったね〟
「ま、でも地球人には無理だね」
「なんたって発想力が乏しい」
「だって、気とか信じる気ねーだろ?」
「うーん」
「こういうのはさ。〝ある〟って知るのが一番てっとりバヤいんだけどな」
〝ふーん〟「宇宙にはあるんだ」
「イケるかな。この状態で。ちょっち御覧じろ?」
「オラッ」
気合いの掛け声と共に、銀色一塊から〝うにょん〟と一本の触手が突き出る。
見つめる男「……」
〝ぷるぷる〟「ふんぎぎいぎいいぎぎ――」〝ぷるぷる〟
「ちょっと待てよ、ほら。ケガしてっからYO……普段なら出るんだZE……うったがわしさ爆裂してっと思うケドよ~」
「いや? 信じるよ?」
「え? ま、マダ何も出てねーのに……??」
「うん。だって、〝ある〟んでしょ?」
「そりゃまそうなんだけど、実証をだね、イマから――ううううッ」
「無理すんなよ。あるんだろ? じゃいいよ。分かったから」
「いや、こーいうのは――おおおっ。うおおおっ」
「あるって信じるから。……だってそっちの方がおもしれーじゃん」
「へ?」へたり込む銀色一塊〝ぽにょォん〟
「地球の人智が及ばぬパワーがあると。そーいうのあった方がいいじゃん。信じた方がいいじゃん。だってそっちの方が面白いだろ。実際、そういうまだ判明されてないもん無数にあるだろーし」
「え? お前、そういうの信じれるタイプ?」
「え? まあ。信じるっつーか、おもしれーなって」
「ふぅむ」
「何よ、改まって」
「お前、創作者タイプだな」
「なによ。褒めても飴しか出ないよ?」
「――そうなんだよ。信じる心が足りてねーんだよ」
「はい?」
「そう。気の存在を本気で信じてねーから〝創りモン〟がこんなにおもしれーくなるワケよ」
「はい?」
「あったらいいな程度だろ? 本気であると思ってねーだろ? だからなんだよ! 気とかオーラの有り様が当たり前にある地球外じゃ、こんなおもろい話描けねぃよ。だって、で? それで?ってなるもん。ただのドキュメントだもん。ノンフィクションだもん」
「なるほどな~。だっからこんなおもろいんだ……☆」
「だっから、あたしの☆とんなって!」
「ごめんごめん☆」〝だって楽しそうだったから――☆あしらうの〟
「じゃあ、あれだ。鳥山明とかスピルバーグとか、なんかそういう傑作創っちまうような傾きモンにはエネルギー扱えるかもな」
「……なんでそうなるの?」
「漫画とか、創りモンで、媒体を通してスゲーエネルギーを放出してるようなもんだから。形変えて」
「それを破壊のエネルギーに転用出来るって事?」
「やり方を教えればね。ほら。創造と破壊は紙一重ってゆーじゃん? 持ちつ持たれつじゃん? 生み出しつつ壊しつつじゃん?」
「言い方いいから、先行ってよ」
〝どげしっ〟
頭を抑える男「いって!」その頭の周囲には☆が三つ周回している。
目も☆になる男「星が――星が見える……」
「……その衝動ってかエネルギー自体は一緒なワケよ。出し方が違うだけで」
「――ちょっと頭痛いかも」
「ごめん」
「論理、物理二方面で」
「――ごめん」
「要はあれだよね。その、名だたるクリエイターのやつに連絡とって、エネルギー放出してもらえばいいんだよね?」
「いや、無理無理無理。第一、地球の伝達網ぶっ壊れてるだろ、大方」
「でも、やってみないと――」
「いや、違うんだよ。あーしはそういう事言ってんじゃねーのさ。発想力はすげーと思うよ。漫画家とか映画屋とか――あと、ゲーム創るヤツとかね。お前、ゲーム好きなんだろ」
「うん」
「でも、そーいう事言ってんじゃねーの。ね。今、この未曾有の危機よ? この大パニックの中、あたしらがもし仮に出てって、あたしゃ宇宙人でござんしてこの世界には不思議ちきりんなエネルギーあって、それ湧き出させて放ってくだせえ、そしたら隕石ぶっ壊せやすぜって。ねえ、信じる?」
「それは――」
「あたしが言ってんのはそこじゃないの。発想力があっても――やり方を教えても――とどのつまりは飽くまでも、信じる力。信憑力。受け入れる力、受動力と言ってもいい」
「受動力……」
「言っちゃあなんだけど、この星の人間には、そういう受け入れる力ってのは、多分、ねーな。それもこの大パニックで心身ぶるぶるぶ~の役満付きよ。いや~信じないね。あたしが地球人なら信じねーもん。恒常だって信じない。だってあたし疑り深けーもん。飴舐めてるもん」
「うん?」
「うん?じゃないのよ。ここ、ちょっと赤くなってんでしょ? そっとしといて欲しいの分かんないの!?」
「分かんないよ! 俺からしたら銀色の球体だもん!」
「あのね、あたしホントはさっきあんたのふたなり好き、全国民――ううん……全世界の衆人に晒そうとしたの」
「ううん、じゃねーよ。何晒そうとしてくれてんだおんどら」
「ううん。聞いて」
「聞いてじゃねーよ」
「これ、真面目な話だから」
「真面目な話に〝ふたなり〟ってワードは顔出して――ちんこ出して来ねーんだよ! ソフトオンデマンドとかの人だよ、そんな真面目な顔してふたなりとか口に出すの」〝もしくはROCKET――〟
「ロケット!? あるの!?」
「ごめん、ちょっと今のはややこしかった。ごめん。そのロケットではない」
「あのね、よく聞いて。これ、ホントに真面目なお話だから。あたしもね、最後の最後まで諦めたくはないのよ? でもね。そんな、どーも~異星人で~すなんって、はいそうですかと信じてよ、ええ? 地球の危機報せに来てくれたんですか、あら、お怪我、じゃ、自宅来いや~、もてなすぜ~飴振る舞うぜ~漫画読ますぜ~って、え? 不可思議エネルギー? 信じます信じますぜ、存在信じますZE~ガハハ~って、受け入れ体勢エグいバカがどこに――」
「うーん。確かに――」
「いたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
「身体痛むん?」 {編集1間が欲しいと思い、スペースを開けた}
「いっつたあああァアアア!! もう打って付けのヤツいたァ! 信じやすくて、優しくて、もてなし屋で、モテなくて友達いなくてふたなり好きで――」
「あ、後半にかけて悪口ゾーンに突入してくならその辺で」〝中腹から坂だったのかな〟
「え? イケる?」
「何が?」
「エネルギー出せる?」
男、自らの掌を見つめ――「分かんない」
銀色一塊(分かんない――そう答えるか――)男を見つめ、
(イケそう――いやイケそうだけど――でも、コイツを危険に晒すわけには――期待値に反してリスクデカすぎんZE――なによりこんなのほほんとしたやつを巻き込みたくない――ま、あれだよ――あたしの命運はあそこで尽きてたんだ。こいつと共倒れすんのも悪くねーよ☆)
「あれ? 今☆出した?」
「星?」
「だよな、喋ってねーもんな。今」
「……なに? 何の事?」
「いや、だから……☆――コレの事」
「……!?」
「喋ってる時、出すよねたまに」〝ご機嫌な時とかかな〟
「え――これ、見えんの……?」
「見えるっつーか、感じるっつーか」
「……」
「こうやんでしょ?☆」
「!?」
「え? そんなに驚く事?☆ やってたじゃん。見せたじゃん☆」
「当たり前過ぎて気付かなかった――それがあたし達にとって当たり前だから――」
「ぶたれた時も☆出しましたぜ? 頭の上に」〝目も☆になったし〟
「あ、あ、当たり前すぎて気付かなかったよ――」
「そ、それ、普通、出来ねーのよ――」
「これが☆? こんなのが☆? だって、おまえがやってたからさー。俺にも出来るかなって……」
「そんな感覚、この惑星の人にはない――自分もやってみようかなってならない。自分も出来るかなって感覚に至らない……この星の人の感覚じゃ、ふつー、こういう会話に☆とかあしらえねー……そんで、そんなけったいなリアクションもとれないのよ……てか、だって――まずこの☆を感じる事無理だろ! この惑星の発想力じゃ!!」
「そうかね?」〝うぅーん〟と首を傾げる男の頭に、漫画の掻き文字のような太文字が浮かぶ。
〝ポッ〝うぅーん〟カリ〟
「それ!」
「どれ!?」
「あんた、今までそーいうのずっと出してたんだよ……でも、読み取ってくれる人が居なかったんだ……だから自分でも知らなかったんだ……」
「何がよ」
「あんた、さっきの感慨またやってみ?」
「感慨??」
「うぅーんてやつ」
男、今一度首を傾げながら――「うぅーん」
その声と同様の発音をする文字が男の頭上に浮かぶ。
「ゆっくり顔上げてみ?」
「――どわっ! なんじゃこっ! ――消えた――何今の……」
「創造力……」
「創造力?」
「地球の言葉――地球辞で言うとそんな感じ。あんた、ずっとそういうの出してたんだって。それ、創造力の原石。てめーなりの!! 宇宙人は当たり前に出来る――コミュニケーション術――つーかお遊びの一環なんだけど! あんたもそれ素で出来てる――これ、同じ原理なのか? いや、ひょっとしたら――いっや、細かく考えるは後だ……」
「なに? 俺、なんか力ある感じ? ずっと寝転がって漫画読んだりゲームしてただけよ? 仕事もろくすっぽせずに」〝仕事キレーだし〟
「あ、あんた、感覚が宇宙人なんだよ……こちらの発想を強く読み取れてる――いや、読み取ろうとしている、対話しようとしてる。ともかく。誰に対しても。まずは。その片鱗だ――」
「ま、確かに会話すんの好きだけど」
「おもしれー事も好きだろ」
「うーんどうかな――どうかな♡」
「今、♡出したね?」
「そうそう」
「そういうの、地球人は恥ずかしくてあしらえないって人、多数」
「多数……」
「数多(あまた)」
「数多(あまた――)」
「無量大数」
「むりょ――いや、なんで俺、にほ――地球辞のレクチャー受けてんのさ。異星人に」
「そゆこと☆」
「どゆこと☆」
「吸収力。まるでブラックホール。とかく疑わない」〝すぐ人の言葉頂戴するよね〟
「え~。けっこう自分では疑り深奥な人間だと思うけど~」
「それは思考力が伊達にあるからだね。でもホントーは直感で物事を信じたいと思ってる」
「……人って、基本みんなそうなんじゃ??」〝ほら疑り深い〟
「うん。考える力があるからね。そこらへんとの折衷がまだ上手くいってないのかも」
「もう40なのに?」
「まだ40! 宇宙規模で言ったら卵子に精子が家上がっていい?って声かけたレベルだから」
「まだ生まれてもねーのかよ」
「……元々宇宙人になる素質があったってゆーか」
「仙人骨みたいな?」〝ロリっ☆〟
「地球(このほし)に生まれたから否応なし仕方なしに地球人に収まってた的な――」
「天然道士みたいな??」
「あんた、ホントに地球人?」
「え? て、てか――地球人だって宇宙人の一環ですよね??」
〝ジーッ〟二つの球体をひん向ける銀色一塊。男との距離が近く、陰が浮き彫る。
言葉選びを誤ったとした男「い、一員?」それを詰め寄られたと思った男(スゴい飴臭い――呼吸してねーのになんか息掛かってる気がするし――)
「その感覚がイイんだよな~」
「博愛主義者?」
「いや、どうだろ」
「人間好き?」
「だと思うけどな~」〝向こうからは嫌われっぱなしだけど〟
「可愛いもの好き?」
「う~ん。まあね。多分。自負はある――最近、そういうの気にせず、公にキーホルダーとかあしらえるよになってきた」
「動物好き?」
「あ、それは好き。絶対的に好き。猫飼いたい」
「やっぱ、こいつまるで自分の事分かってねー。だっから、そこがいい。宇宙人気質の癖して地球に住んどるからだ☆」
「俺、後半にかけて自分出してましたよね?」〝なんかこう滑車的に〟
「イケる」
「は?」
「逆に言えば、ヤレるとしたらテメーしかいねー」
「あたしがれくちゅあしてあげる。地球護ってみよ」
「――う~ん。いっちょやってみっか…」
【いっちょやってみっか】――ドラゴンボールの主人公、孫悟空の放った名句。これを一躍名台詞に押し上げたのは、〝超武闘伝2〟と云うSFCのゲームによる功績が大きい。――と云うか、そこでしか言ってない。というか、隠しコマンド入力時にしか聞けない。というかタイトル画面が出るまでにコントローラーをがちゃがちゃやれば大概聴ける。というか入力に成功すると隠しキャラクターが使える。(当時、どうやってそういう情報入手していたんだろうね)
~みたび裏山・陥没地帯まで数キロ地点~
「いや、ホントにイケんのかね~」
「男の子ならかめはめ波出したいでしょ?」
「うん。波動拳でもいーい?」
「出せるならなんでもいーよ。お話の流れ的にかめはめ波が綺麗だけどね」
「そんな流れあった?」
「濃厚なのはね。穴馬で打神鞭。裏口で――気円斬」
「気円斬、ちょっと放つ時、自分もコエーからな~」〝アタマキレソーデ〟
「じゃかめはめ波だね」
「うん。出せるならね」
「モチベーション上げて。これ読んで」ドラゴンボールの単行本をどこからともなく取り出す銀色一塊
「あ、これ持ってきてたんだ――なによ、これ、ちょっと濡れてるじゃない」
「そうね。胎内に入れてたからね」
「体内じゃなくて!? 胎内!? わざわざなんでそんな深奥まで!?」
「うそうそ。でも、やっぱ受動力あるよ。響きだけで把握したもの☆」
「――ああそうっか。なんでワカったんだろ☆」
「だから受動力だって。受け取ろうとする意志がつおいの」
「つおいのか……」
「そそ。つおいの」
「オラ、ワクワクすっぞ――」
「そうそう! その調子で悟空になりきって」
「オラ、車の免許取りに行く」
「あ、そん時のにはならないで!!」
「サンキューッ。消臭ボールッ」
「言ってない言ってない」
〝とことこ〟――
〝ぺちょぺと――〟
「で、なんで裏山なん?」男、ドラゴンボールを読みながら。
「いあ、なんか雰囲気的に」
「あそう」
「え。そんなんで納得すんの??」
「うん。だってそういうもんなんだろ? 創造力、受動力、直感、とにかく、それでいい、そこでいいって思う、感じる事が重要なんだろ? 決断力っつーの? こっちから引き寄せてやるっていうかね。地球の引力よりも俺――オラの引力の方が強えかんなッて! うん。確かにこの流れだとそこしかねー気がする。結局、んなん、理論なんざ要らねーんだよな。でも、あれこれ考え――うわ~!16号死んだ~!」
「知ってたでしょ」
「御飯キレた~!」
「だから知ってたでしょ」
「変な鳥の演出入った~!!」
「それアニメ版だから」
「変なアニメ版の演出見たぁい~!!」
「受動力高いなぁ~☆」
と、改まって。
「そんなに面白いのに友達いないんだ」
「……だね」――(頭の中読んだね☆)
(うん☆――聞こえる?)
「なんか、人付き合い苦手でさ」
(まだ無理か)
「話するのは好きなんだけど、仲良くなるまでが苦手っつーか」
「うん」
「だから、あんたとはすんなり行って、その実嬉しかった」
「波長が合ったんだろーネ♡」
「宇宙人同士だからか」
「そうそう」
「なんかホントに悟空な気がしてきた」
「あたしが死ねば覚醒するかな」
「変な事言うなよ」
「ごめん」
「ごめりんの事かッ――」
「どゆこと?」
「なんか、無理矢理高めようとしてもキツいな…」
「うん」
「だって、俺達今から隕石、かめはめ波で迎え撃とうとしてんだぜ?」
「信じて!? ホントに宇宙にはそういうパワーみたいなのあるんだって! ああもう! あたしが見せられればいいんだけど!」
「でも、俺が――それ出せるとは限らねえからなあ…」
「……」
男、抑揚高く「オラが――それ出せるとは限んねえからよぉ~」
「ははは。悟空、そんな弱気な事言うかな?」
「弱気って言うか、意外と自信なさげだよね。あんな強いのに」
「そうね。強いヤツって意外とそんなんかもね」
「――」
「強ぶらないって言うかさ。その強さをひけらかさない。のほほんと日々を暮らしてる」
「――」
「今のあんたみたい」
「俺、人苦手なだけだから」
「――人に騙されたんだね」
「ん――まあね。やっぱ隠せないよね」
「それでフタしちゃったんだ」
「そうね。それでふたなり好きになっちゃったんだ」
「いいよ、無理におどけてみせなくても――」
「いや、今のはふつーにウケると思った」
「じゃあ本格的に空気読めてないよ! どこいったあの夏の日の受動力!!」
「蝉と一緒に散ったのでしょう。夏ってすぐモノ傷むからね。受動力もそのあおりを受けて――」
「そうそう。そういう発想力。転用力。それが〝慣用〟」
「転用――ひっくり返すとヨウカン」
「そ! 言っちゃえば遊び心か。そういうので迎え撃つんだよ。挑むんだよ。何事も」
「――俺、実はそういう戦った事ないんだよな……立ち向かった思ひ出」
「それは君が本当に優しいから。傷ついたから――」
「仕事すんのやだし」
「それは君が本当に怠け者だから――」〝ちょっとは働けっ〟
「今日ちょっと、戦ってみるね。誰かの力を借りて。君の力を借りて」
(そっか――この人、人の力を借りて来なかったんだ――いや、借りる事を拒んだのかも――深く傷ついて――本当はこんなに人懐こいのに――それにフタをして――)
男の記憶にあるそれらを銀色一塊は空かして読み取るが――そのどれもが読むに堪えない。口に出すには忍びない物々達だった。
☆〝キラーン〟☆
空に一つの発光体。
「あれ隕石かな~」
「だね」
「キレーだね」
「ね」
「これから我々人類と宇宙人一塊を撃ち滅ぼすさんとするとはまるで思えないこの蓄光ぶり」
「もっと綺麗だよ。外は」
「外?」
「そ。外宇宙。地球もそうだし。他の惑星は銀河は、我らが誇る宇宙が浮かべる景色はもーっと綺麗なんだZE☆」
「そっか――見てみたかっ――見てみたいな~」
「見ようよ」
「え?」
「隕石ぶっ壊したらさ――あたしと一緒に宇宙出ようZE」
「ニケツで?」
「そ」
「ぶっ壊れたんじゃないの?」〝犯罪だし〟
「直すよ。それくらいの文明あるでしょ? あ――あるじゃん。NASA」〝宇宙に道路交通法なんかねーから〟
「NASAに頼み込むの?宇宙原付直したいんでパーツくらはいって」〝でも免許はあるんだ〟
「頼むね。そりゃあ悶絶顔浮かべて」〝免許はある――あーしの母星では〟
「そもそも、その素の顔が分かんないじゃん」
「治すよ。あたしも。あたしごと」
「ひどいの?」
「いや。二三日安静にしてればすぐよ」
「――その猶予がねーんだな」
「でも壊すんでしょ? 壊してくれるんでしょ?」
「おうっ」
「そしたらさ、パーツくすねて原付直して」
「完全治癒してもあーし、表情乏しいから! もうならいっそくすねた方が早いよね」
「よく分かんねー方程式だな」
「習ってない?」
「習ってない――あ、でも似てる歌詞はある。くすねたパーツでバイク直す的な」
「そういう教え、感覚を大事にとっといた方がいいよ」
「うん」
「押しつける教育の中には何一つとして大切なもんはねーからな」
「それはまた横柄な教育観を押しつけてきたな。それがもう押しつけだな」
「考えるんじゃねー。感じるんだよ☆」
「もっと、未知との遭遇図ってよ!」
「お前と存分に楽しんだからイーのダ!☆」
「この星にお前以上におもしれーヤツなんかいねーよ」
【尾崎豊】――伝説のカリスマ的人気を誇ったアーティスト。その伝説に拍車をかけたのは、その壮絶な死に様から。しかし、それで彼が歩んだ生き様は毛ほどもくすまない。その威を借る尾崎豆的な人が出て来ても豆の産毛ほどもくすまない。
~裏山・陥没地点~
〝ほっほっほっほっ〟――弛緩する身体で跳躍を繰り返す男。
「そうそう~! た~っぷり身体揺すって~! 人間、リラックスした時が一番強いよ~っ」
「〝やっ〟〝ぱ〟〝うちゅっ〟〝じんもっ〟〝そうなのっ〟〝かっ〟」
「ま、生物と来たら大概そんなもんよ! 追い詰められた時に力を発揮するってゆーけど、毎日連夜(まいじつれんや)そんな調子だったら出るモンも出んぜ~☆ ある一定、一時的に追い詰められるからパワー発揮すんだぜ!! それ以外はなるたけリラックスじゃい☆ なにごともバランス! 案配! キンチョールと関羽だからな! お笑いも!」
〝ふへーっ〟「緊張と緩和ね! 確かに関羽は音読みで〝かんわ〟だけど!!」
「そこーっ!! 勝手にトまるなーっ!」
「止まらざるをえんでしょうよ、こんなに雑ボケかまされたら!!」
「貴様ぁ! このウジ虫がァ! 貴様のケツの穴を見せてみろォ!」
「やだよ。どうせキャトられてお終いなんだから」
「よし。だいぶ息は上がったようだな~」
〝はぁ〟「あげちゃ駄目だろ」〝ハァー〟
「5歳になる息子への誕生日プレゼントのようにか」
「――いや、それはあげてあげてよ」〝――しつけ厳しいな〟
「一番可愛い時なのにな!! 一番可愛い時なのにな!!」
「なんでおまえが怒ってんだよ」
「隕石お報せに来たらケガして巻き込まれて逃げられなくなったからでしょうが!!」
「ホントに立腹してた! それはごめん!!」
「無闇に謝るなァ! よく聞けぇ! お前が謝るとこ一個もねーぞぉ!」
「ホントだぁ! でもごめェん!!」
「ホンマにあんさんはお人好しやなァ~」
「ホントで言えば、ホントにここでだいじょぶなんだよね~」
「ウム! 座標よし! 風向きよし! 高度よし! このぽっこり盛られた小山がーE感じ! 隕石こっちに来おい!みたいな気持ち忘れず!! ま、あたしゃがハンドル取られた感じだと――この惑星の引力加味すっとだね、ここら辺にどんぴしゃで落ちてくるよ」
と、同時に銀色一塊は伸ばした触手で、自らを〝トンッ〟と叩く。おそらくは胸を叩いたようだ。
「ラッキーっつーかアンラッキーつーか」
「おおよそラッキーよりだNE☆ 結局どこに落ちようが、日本くらいご破算滅亡するし。何か手を打てる人間は幸運だよ」
「そっか~。よし。ポジティブジャパニカンで行くか」
「そうそ。よし。そろそろBEAMの出し方進ぜるてやるキャ☆」
「おっす☆ お願いします。かめはめ波撃ちたいっス」〝――もしくは真空波動拳(MARVELvs.の)〟アレカッコイインダヨネ
「まず、出そうと思う」
「はい」
「終わりッ☆」
「いや、終わりかい! もっと確かなる説明してよ!」
「いや。マジに。これ小ボケでもなしに。マジにそう」〝無論、構えとかポーズとかは必要よ??〟
「いや、もっとエネルギーの生み出し方とか、集約の仕方とかさ!!」
「だからもう、そういうのはあんのよ。もう既に。見えねーだけで。見ようとしてねーだけで」
俯く男。
「集めようとしてねーだけで。放とうとしてねーだけで」
「いや、マジかよ。そういう心意気みてーなやつかよ」
「だね。結局のところ。宇宙の神秘って結局そーいう不可思議なやつだから。不可思議ってそうだから。カイメー出来ねェから不可思議だから。可思議じゃねーから。〝不〟可思議じゃから♡」
そう言って、銀色は生み出したハートマークを男に投げる。
「いや、ハートマーク投げられてもな~」
ふわふわ飛んで来るそれを両手で捕球する男。
「おっ。なんだこれ。けっこう柔らかいな」――〝それに暖かい〟
「それなんだよ。もう見えてんだよ。エネルギー。それを信じりゃ良いんだよ」。
「これぶつけりゃいいの?」
そう言って男は、それをオーバースローで投球する素振りを見せる。
「それは君に向けた純度百%(パー)の愛情・応援・エールとかそういうヤツだから破壊力ない。回復力ならあるかも。おめーさんの好きなゲームの回復魔法的な。ま、そのエネルギーをどう使うかは受取手次第なんだけどね。アタシの事信頼してなきゃ、どうにも使い勝手ねーし」
「ディア※1か――どうせならタルカジャ※2とかの方が良かったな」
※1ゲーム【女神転生】に於ける初歩の回復魔法。
※2同じく、ゲーム【女神転生】に登場する補助魔法。掛かり手の攻撃力を増強する。
「いにゃ、だから、お前がそうとればそういう効果あるんだって。ほんと、地球人って柔軟性ないよな。モノは使い様だろ」
「だから、これの使い方分かんねーんだよ! そもそも正しい使い方! このざわざわ毛羽立ってる羽毛感触ハートにストローぶっ刺してちゅーちゅー中身吸えばいいんかい!!」
「だからそう。そう思えばそう。そうかなって思った事をただ信じれば良い。てか、それしかねーだろ。そうすりゃ成功か失敗かする。少なくとも試さずアウチって事はねー☆」〝そもそもコレ、全体的にダメ元魂だろ。この行程〟
「うん――」
「なに一発目から成功しようとしてんだよ」
「その一発しかチャンスねーからだろ!?」
「はっは。そう思う事がまず間違いなんだよね」
「いやいや、変な宗教観こしらえ様に寄越してきたと思えばそれか、いや、分かるよ!? 信じなきゃ駄目だ、思い込まなきゃ駄目だってのは分かるよ? でも一発ってのは違えようのないマジじゃん!? 隕石打開出来なきゃご破算なんだから」
「んじゃ、そう思っときゃいいよ。実際そうなっちゃうから」
「なんなんだよ、急に宗教がましくなっちゃって」
「宇宙ってのは思い込みが創るもんだからな☆」
「いいよ、もう、そういうの」
「あたしの宇宙観とおめーの宇宙観は違う」
「そりゃそうだろ。実学が圧倒的に――」
「違うよ。捉え方の話。上見てみ?」
「あによ」
「今日は奇しくも満点の夜空なんだが――」
「だね。最期の観測とくればそりゃもう格別だよ」〝ラーメンとか持ってくりゃ良かった。カップ――〟
「こんだけ星が幾粒も瞬いてたらね、お前だけにしか見えない星があると思うのよ」
「視力とか死兆星とかじゃなくて――だろ? 捉え方、宇宙観でだろ?」
「そう。分かってきたじゃん☆」
「なら、一個ずつシラミ潰しに確認してみる?」
「なンで君はそう易々とロマンのない発言を試めるカナーッ☆」
「だとすると、俺にしか見えない星座とかもあるのかな」
「おおっ。いい着眼点! いい思想観、宗教観! 受講料4万円頂きます!」
「ちゃちな宗教活動だなぁ――う~ん、まあなるたけ信じてみるか。それしかねーならな」
「なるようになるから」
「うん」
「最悪考えて?」
「やだよ、そーなりそ~」
「だいじょぶ。今日の最悪はあたしと一緒にお陀仏だから☆ 一緒だから☆ 最期まで☆彡」
「ぅえ!? 最後流れ星出した! ☆ ☆ ☆――どうやんのそれ!?」〝☆しかあしらえねえ〟
「まだチミには早かろう――これはあたしが200歳を――」
「イメージイメージ……流れ星! 流れ星!☆彡――出来た!!」
「!?」
「☆彡 ☆彡 ☆彡 <:ロミ」
「最後、水星人!?」〝何で知ってるの!?〟〝ンデナンデデキタノ!?〟
「水星人? いや、イカだけど。流れ星出せたからイケるかな~って」
「あのね。マジにもうあたぃが言う事は――仰る事は何もないわ……その調子で隕石にその感じを隕石にぶつけて。攻撃に転用して」
「その感覚が分からんのよね~」〝なんで一人称定まってないの?〟
「あんた、攻撃性皆無っぽいもんね~」〝ン? あそび☆〟
「んな事ない。心の中ではどっか怒ってるよ」
「え? 何に対して?」
「読めよ」
「口から直接聞きたいのよ」
「――ん~、まあ、人間に対してかな。ベッタに」
「よし、じゃあ、かめはめ波撃つ練習してみましょうか」〝構えて叫んで☆〟
「聞いてくんねーのかよ!!」〝そっちのモード入ったのにな!気持ち!!吐露モーション入ったのにな~〟
「なんか、聞いてて滅入りそうだな~ッテオモッタカラ☆」
「クソ正直(じょうじき)だな!」〝聞いてクレや〟
「その怒りみたいなもの、ぶつけてみたら?」
「それで地球守るの? ンなんか矛盾してね?」
「地球と人類とはまた別だからネ。時として怒りが道を拓く時もあるわ。使いようダワサ。何事も」
「な~んか思想尽いてるよな~」
「そういうパワーを使いましょうってフェイズだかんね」
腰を落とす男。
「おっ。筋肉バスターだ」
「なんで隕石に向けて筋肉バスターかけるんだよ!」
「かめはめ波か」
「そうだよ。もう何も余計な事言うなよ」
「何も浮かばなかったらね」
「なんだよ、なんか言ってくれよ。ふざけてくれよ。俺達にそーいうシリアスは似合わねーだろっ。なんでもいいんだよ。かめはめ波以外の必殺技だったらなんでも」
「ペガサス流星拳とか?」
「そうっ! でも、なんで今言うんだよ! かめはめ波の体勢入ってからだろうが!!」
「北斗百裂拳とか?」
「それも!! とか?じゃねえよ、タイミング待てよ! 奇しくもほんのり宇宙関連だし!」
「あ、ホントだね。そうそう。そういう連想力とか着想力が大事なの。大事なのはこじつけるパワーだから」
「こじつける??」
「そう。自分はかめはめ波撃っちゃる!撃てるって自らの中に自分なりのこじつけを探す事よ。それを人は自信と呼ぶのよ」〝地球辞デネ☆〟
「うーん。頭痛くなってきた」
「大丈夫。これから更に痛くなるから。隕石ぶっけて」
「あ、じゃだいじょぶか」
「うん」
(――なにもだいじょぶっじゃねーよ)
(――うん。何もだいじょぶじゃねーわね)
(――心入って来んなよ)
(――なんでよ)
(――気の休まるヒマねーよ)
(ダイジョーブ――リラックス。だって、もうアタシと念波出来てるんだもん。スゲー成長力よ? さっき出来なかったモン)
(さっき――?)
(あのね――さっき――)
「もう普通に喋ってくんない!? 長いよ! スゲー頭痛いよこれ!!」〝脳みそぶるぶるする!〟
「まだ慣れてないからだね。慣れてくると脳みそ分厚くなって大丈夫になってくるから」
「なんだよ、脳みそ分厚くなるって」
「脳みその皮下脂肪が振動することによって――」
「ねえ! もうかめはめ波撃っていいかな!?」
「はやくない? 無駄撃ちもったいねーよ!」
「完全ぶっつけでやんの!?」
「そりゃそうでしょうよ。一回放ったらもう戻せねーんだから。あんた、黒龍波じゃないのよ? かめはめ波なのよ?」
「なんで出る前提なんだろ――一発で出るなとか言っておきながら――」
言いながら男は腰を落とし――
「かめはめ波っ!!」
〝しーん〟
「ちょ、おまえ! 出てたらどうすんだよ!」
「そしたらハイタッチすりゃいいだろ」〝出せた~て〟
「あっぶね~な~。やっぱ一発目からは出せねーか」
「もうやめる。ウチ買えって漫画読む」
「諦めンのハヤいンだZE☆!!」〝ずこっ〟
「え~なんかもう、これ何回もやんの恥ずかしいも~ん。ファーストはめ波で赤面だも~ん」
して。
「――かめはめ波っ!!」
「なんでフェイントかけんの?」
「……」
「もっとゆっくりやってみたら?」
「――気分変えて足でやってみようかな」
「ほらもう、すぐ奇を衒おうとする~。地球人は基本おもねる人種ぢゃねーのお? それ悟空だって一回しかやってないからね?」
「俺、基本とか基礎とか大のキレーなんだよ。俺にはそんなコトしてる時間毛頭無いの。足のかめはめ波――に戻るけど、それも何回かやってコツ掴んでからの応用だろ~しな☆」
「だぜ。悟空だって最初から〝足かめ〟は撃ててねーと思うぜ」
「もしかめみたいに言うなよ」
「もしくはこち亀ね――かめはめ波ッ!!」
そう言いつつ、銀色一塊は触手を伸ばす。そこに光の粒子が集い――瞬間、青い光線が迸る。
〝ズバゴオオオオオオオオオム!!〟
男「うわッ!! なんか出たァ!!」
「そら出るじゃろ☆」〝宇宙人のケガの回復速度甘くみんな☆〟
「すげええええ!! なんでお前が撃つんだよって言おうとしたらマジになんか出たんだが!!」
「だから出るって。あ~やってみてよかった。見せられて良かったわ。神秘のパワー」
「じゃあそれを隕石に向ければ――」
「無理よ」
「へ――」
「あんな細っちょろいびぃむぢゃだめなんだッテバ。あれは飽くまで貴様への見本お手本。あれを師匠にあんたがマジモン撃ちなさい」
「そんな――」
「地球の明日は地球に住むあんたの力で護るんだZE☆」
隕石衝突まであと10分。
【10分】――秒数換算すると600秒。こうするとなんだか少ないように感じるのは自分だけだろうか。(助数詞の妙とみた)
〝どひゅううううううっっ〟
「あれ隕石か」
「ね。くるくる回ってんね」
「意外にキレーなんだな~」
「さ。生か死か」
「俺なら死にBETするね。配当受け取れねーけど。いやしかし、依然として、かめはめ波でねえなあ」〝マ、元より出るわきゃねーんだけど〟
「はい、そういう事いわない。続ける続ける」
男は合わせ両の手の平を繰り出すという所作を続ける。相も変わらず。しかしそこからかめはめ波が出る気配はおろか、分子粒子も素粒子のひとかけら集まる気配はない。――男にとっては。
「ねえ。なんで俺達こんな状況なのに割かしリラックスしてんの?」
「慌ててもしょーがねーからだろ。焦ったトコでかめはめ波出るわけじゃねーし。集まってはいるんだよ? そこらのエネルギーみたいなもんが」
「ウソつけよ。もうちょっと上手い期待の持たせ方しろや」
「いや、ホントに集まってるんだって。確かにかめはめれる程のパワーはねーけど。それでもさっきよりも着実にエネルギー集められてるよ? 見えない?」
「見えねーよ……」
「もっと信じようとして」
「そんなん言われたって……簡単じゃねーんだよ……俺だって……底から信じ抜くのはさあ! だあああ! さっきからアッツくて全然集中出来ないよ!!」
「そらそうよ。隕石間近なんだっから~☆」
「あれに向けて――」
「そうそう」
「か――め――は――め――波ああああああッ!」
「うん! 全然放ててない! だめだ! やっぱ帰ろう!!」
「か――め――は――ポーズかな」
「ごめん、やっぱ帰ろう! 変なお誘いしてごめん! 無理だよね! やっぱ!」
「自分で音出してみるか。――こういうのは雰囲気が大事だ。びじょじょじょ――ん。か――めえええはああああめええ――ッッ」
「ねえ! もう隕石すぐだよ!」
「波ああああああああああああああああああああああああああッっ!! 出ん!! あもう! なんで出ねえんだよ!!」
「ねえ死んじゃうよ! 今ならもっと楽な死に方選べるよ!?」
「もうちょっとだと思うんだよなあ……もっかい見せてくれ!」
「もっかい!? まだ撃つ気なの!!?」
「そらそうよ。今更シリアスになろうったってそうはいかねーだろ☆」
男は腰を深く落とす。して。
「かあああああめえええ――」
「こんなところにいたら直撃受けちゃうよ!!」
「どうせ死ぬんだろ波あああああああああああああああああああああああッッ!! くそっ邪念が入った!」〝これじゃおろか、筋斗雲にも乗れん〟
「無理だって! やっぱ時間が足りなかったんだって!! 無理だよ! そんなやり方じゃ――」
「と言われても俺にはこういうやり方しか出来んのよね波ッッ!!」
今一度。
「真面目もくそもさ――俺にはこういうやり方しかないんだよ!! ふざけてふざけて――そんで、果報を待つしか――動くしか――馬鹿と言われてもいい。こんなの受けるはずがないって嘲笑されてもさ。もうこんなやり方しか出来んわけよ――波ああああッッ!!」
隕石はもう男の目の前にまで迫っている。とろけ出す男の身体。
〝ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「うおおおおおおおっ! 熱いなんてもんじゃねーぞコレええええッッ!!波ッ!」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「死んじゃうよおおおおッッ!」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「お前もふざけてくれ! あのノリであってくれ! 語尾に波とか付けても光弾出るかい!とか言っててくれ! 俺が調子出せるとしたら! あの軽い感じしかネエ! 俺、真面目なの苦手なんだよ! 重苦しいのだめなんだよ!! 応援☆! 応援しててくれよ☆! お前だけは出せる――出来ると言い続けててくれよ!!」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「信じてる! あたし信じてるから!!」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
小説家になれたらいいな。
あん?? 誰だ今喋ったの。
小説家になれたらいいな。
あ、俺か。俺の声だ。小説家ねえ。直近の夢だ。まあ、俺には無理だけどな。
――芸人になりたいな。
うん。そうだったな……この気持ちは結局誰にも言えなかった。
漫画家になってやる。
この気持ちも誰にも言えなかった。絵もへったくそなままだしな。俺、練習嫌いだしな。
「お母さん、僕野球選手になる!!」
うん。でも試合で全然打てなかったよな~。練習だとバカスカ打てるのに。
「ぼくね、うちゅうひこうしになる~」
はは。それがどんだけ選ばれた一握りだか分かって言ってんのかね。
あれこれ――どんどん遡って――
「あら――なに見てるの?」
あれ? 誰だ? 誰の声だ?
「ずかん~」
子供?
「何の図鑑?」
「〝おおおおおおおお〟~!」
ああ? ああ。ヒーローか。
「あら――〝きろおおおおおおおおおおおおおおッ〟の?」
「うん~☆」
「どれが一番好きなの?」
「うんと〝きろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ〟う~」
なんか変な声入ってんぞ。
「おかあさん、ぼくね~大きくなっ〝おきろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお「うるせえなこのやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
~裏山・陥没地点・隕石すれすれ~
〝ぼご〟「(おおおおおおおおおおおおおおおおおっわ! うっるっせ! すげー響くじゃん!うわっ!! なにここ!!)」〝ぼごっ〟
喋ろうにも上手く声が出ない。男の顔面を薄い膜が覆っている。
〝ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(てめーなに寝てんだよ! 死んだかと思ったじゃんかよ!)」〝おおおおお〟
男、気付くに、自分同様のくぐもった声。
その声は男のすぐ傍から聞こえた。
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(いやおい! あんた――えと何さんだっけ!?)」〝おおおおおおお〟
男は、己を覆うその薄い膜に向けて尋ねる。そう。その薄い膜こそあの銀色一塊だ。男に一縷の望みを託す為、男の身を隕石から護る為の防護服と化したのだ。
〝おおおお〟「(まだ名乗ってねーよバカ! 名乗ってねーんだよクズバカが!! てめーがちょといとかめはめ波出さねーから――」〝おおおお〟
男は混濁から回復したばかりの己の脳髄を探る。そうだ。まだ名乗ってなかった。名乗られていなかった。
〝ふおおおおおおおお〟「(キャンディだよ! あーしの名前!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
そんな男にそんな言葉が返ってくる。
〝おおおおおおおおおおおおおおお〟「(ぼくの名前はジテンです!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
記憶の混濁もあり、一人称や語尾が定まらない。
(あの子供は――子供の声は俺が子供の頃の俺だ――ヒーローになりたかった頃の俺だ)
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(なんで今このタイミングで自己紹介してんだよ!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおお〟
そんなキャンディの言葉は男の耳には入らない。
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(なんだ? 図鑑? 何のヒーローになるって?)」
(――いや、ホントにヒーローか?)
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(おい聞いてんのかうすらバカが! 薄いのはあたしだけにしとけやこら! 怪我人になにさせとんじゃクラァ!! あたしが護るものじゃねーんだよこの精神年齢チルドレン!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「俺、何になりたいって言ってたんだっけ――」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(ああ? 孫悟空だろ!? そんな事どうでもいいんだよ! お前! ジテン!! 周り見ろ周り!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(違う――子供の頃――)」
(――俺は何になりたかった?)
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「そんなんどーだっていい!!お前の身体だ!!なんであたしが護ってやってると思う!?」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ〟
男窺うに、己は依然として男はかめはめ波のポーズをとっていた。その押し出した構えで以てなんとか隕石を地表すれすれで食い止めている。もっとも。コートと化した、まるで宇宙服と化した銀色流体一塊こと、キャンディの力によって。しかしどこかに違和感が残る。キャンディの事ではない。
(――なんか身体に力が――)
〝おおおお〟「(当たり前だろ! よくテメエの身体ヒン剥いてよくかっぽげや!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
(自分の身体――)
〝おおおおおおおおおおおおおおお〟「(見えるだろ!? お前の身体のその光!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
キャンディの言うとおり、男の身体には光が宿っていた。キャンディが膜を護るように。更にその上からほんのりと。そして――それだけに留まらず、大小様々な形、色味で己の身体にぽつぽつと。かめはめ波の姿勢にぽつりぽつりと。繰り出した十本の指、その先端全てに。それから頭部――胸――肩――臍――膝――足――そこに宿る光達が明滅している。
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟ジテン「(なんじゃあこりゃあ!!――経絡秘孔か!?)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(何で今更北斗の拳ぶち込んでくんだよ!!)」〝おおおおおおおおお〟「(いやだって――)」(――経絡秘孔っつーかまるでこれ、ケンシロウの傷跡だろ――)〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
ケンシロウの胸の傷跡。拷問の際に付けられた。その七つに亘る傷跡はそれら全てを繋げると――
ジテン(――北斗七星になるんだ)
ジテンがそう思った瞬間、身体に帯びる光達は線を繰り出し――
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(うおい! なんだこれぃ! 光伸び出してんぞ!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
また別の光に向け――思い思いの。お互いがお互いに光の線を延ばし合う――そして――
――ひとつの図柄を完成させ、その軌道を止める。
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(おいこら、まるでこりゃ星座ヂャねーか!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおお〟
キャンディの言う通り。男が身体に浮かべたの構図、それは星座のそれであった。しかし決定的に違うのはそれが一筆にあらず――そんな些細な事であった。この世界上に於いて、そんな繋がりを見せる星雲は、星座は今のところない。
ジテン(――なんだこれなんかどっかで――)
???〝きょる~♪〟
ジテン「(あ。思い出した)」
〝おおおおおおおおおおおおお〟「(なにがぃ!!)」〝おおおおおおおおおおおおお〟「(俺が一番最初になりたいと思ったもの)」〝おおおおおおおおおおおお〟「(おお! ケンシロウか!!じゃあそれでもいい!!この体勢なら百裂拳だって――)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(違う)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(――さてはお前、気絶うつつでなんかみただろ!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟「(よく分かってんね~☆)」
ジテン(――ひょっとして――その想いはずっと僕の身体に纏ってたのかな)
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(ヤバいよ。エネルギーで護られてんのはいいけど、これじゃどっち道ジリ貧だお~ なんで光ってんのかもよく分かんねーし、このまんみゃじゃいつ尽きるか――)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟ジテン「(――キャンディさん――ちょっと撃ってみたい必殺技を思いついた)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(ええ!? あ、じゃあそれを! もうなんでもいい! よく分かんねーけどそれを思い切りぶつけてくりゃあ!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟
この体中を覆っているエネルギーを攻撃に転用してぶつける――それが何を意味するのかは二人として歴然の理であった。
しかし。
この二人の図鑑に退転の挿絵なし。
〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟ジテン「(よっしゃあ)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(その意気じゃい!!)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟ジテン「「――敵討ちだ)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(――誰の!? え? アタシまだシんでねーんスけど!! あり?――ううう思考が読めない!――こんな状況だから!?それとも――!?)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟ジテン「(調子くれてる隕石をきゃーん言わせてやらんといかんな――)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟キャンディ「(――い、行くよ?)」〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〟ジテン「(いつでも)」
〝バオラァ!!〟
キャンディがその衣を解く。
そんなキャンディはジテンの意図に勘づく。
――そうか。かめはめ波じゃダメだったんだよ元々――発想力――それを散々説いてたのはあーしだったのに――
コレ
――隕石ぶっ壊せるとしたら――借りもんじゃなくて――オリジナルじゃなきゃダメだったんだ――
ジテン〝⭐︎SO⭐︎U⭐︎DE⭐︎S⭐︎〟
隕〝ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!〟石
ジテン(――あれかコラ。また性懲りもなく来たんか。嘗め腐りやがって。またちょちょいと滅ぼしに来たんけ。お生憎だったな。今の地球はちょっとやそっとじゃ壊せないぜ――)
隕〝おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!!!!〟石
(――なんたって今この地球には俺が居るんだからな)「掛け声くださいッ!!」
空中を翻る膜状キャンディ「――っとお――!!なんでもいいのね!? ――叫べ必ああああああああああああああああッッッツァ゙!!」
その声に応じ、身体に宿る星座が大きく瞬く。
何故ならばそれは、かめはめ波ではないのだから。
突き出した十本の指は牙――頭部。
伸び切る両腕は首。
胴体は――そのまんま胴体で。
出した片脚はそのまま脚の、支える後ろ脚は意外と尻尾。
⭐︎〝ピカッ〟
地球にて、宇宙に今、一つの⭐︎が灯る
子供の頃のジテン〝ぼくね~おおきくなったらね~〟――
ジテン「ティラノサウルス座あああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
――〝ティラノサウルスになりゅ〜♪〟
【ティラノサウルス】――最強と謳われる恐竜。恐竜を元にした映像作品には必ずと云って登場する、ダイナソーオブザダイナソー。男の子の憧れの的。此奴より強い恐竜がいるとか言われるが、そんな事は関係ないしどうでもいい。
実は他の肉食恐竜と比べ、脳が大きかったと言われており、つまり、肉食恐竜の中では頭脳派。ティラノは〝暴君〟を意味し、〝サウルス〟はトカゲ、と云う字義を持つ。その昔、隕石の衝突により絶滅した。
~裏山・陥没地点・明朝~
ぱらぱらぱら――砂煙。
ジテン「へへへ――やってやりましたわ」
男の周りにいんせきだったもの――大小様々な欠片達が転がっている。
ジテン「やったぜ――最後の最後に――色んなものになれたぜ……ティラノサウルス……あと、ヒーロー? 地球救ったしな。あと孫悟空にもなれたろ。ポーズ的に。ま、掌からはなーんも出なかったけどな」
男の云う通り、そのティラノサウルスの口ばんだ掌を付き合わせ、そこに纏うエネルギーで隕石を見事砕き抜いたのだった。
――自らの身体、そのほとんどと引き換えに。
男の身体は胴体しか残っていなかった。
隕石に一番近かった両腕はもちろん、それを支える両足もその重量で折れ、曲り、砕けて消滅した。それでも男は、自らの胴体と頭部を楯に地球を護ったのだった。
残ったのは胴体と頭。目玉は一つ欠け、残るもう片方も燻り、見えてはいない。焼け焦げた身体と、頭。
「キャンディさん――居ますか?」
「居るよ」
男の周辺に散らばった十余りの銀色の球粒。そのうちのひとつがそう返事をする。
「なんか声小さくないですか?」
「んな事ないよ。よく頑張ったね」
銀色一塊は思う。
「すみません。泣いていいスか? うう――」
――なんでこの惑星(ほし)の人は、この人を放っておいたんだろう。
「イテぇ――イテぇよおおお」
――こんなになるまで――この惑星の人間達は馬鹿だ。大馬鹿だ。
「ううう――キャンディさん――耳塞いでて貰えますか――あれ? うう――耳、ついてますよね――」
――こんな時にも冗談を言う。こんな人を。こんな優しい生き物を。
「ううううううう――」
――どうして供物にするんだろう。どうしてこんな優しい人間が辛い思いをするんだろう。
「うう、見てました?」
――そっか。分かった。君に呼ばれたんだ。外から見た時の地球はそれは美しかった。輝いてた。光ってた。綺麗だから一瞬ハンドル取られちゃった。
「いてえ――ううう――」
「――そうか。君に引かれたんだ」
「あ――やばい。空が光ってる…飛んでる……」
――死なせはしない。
「あ、ぐ……」
「約束したよね。一緒に宇宙巡ろうって」
「――あ゛っあ゛――」
――だから――
男の周囲に銀色の球達が集い始める。
「ね。あたしの全部をあげるよ☆」
【宇宙人】高度な知能を持った地球外生命体の地球辞的総称。――疎通は難しい。地球人に疑いの心あれば。
~男の自室~
「うぉい!」掛け布団を吹き飛ばす男。
「エロい夢みた! エロい夢みた! めっちゃエロい夢みた!! あ――なんか内容不確か! なーんかでもエッロい夢見たんだよな~!! なんか丸い柔らかいモノに体、ぐにょぐにょのぐちょぐちょに――ぬったぬたにされて――!!」
起き上がる男は自らの体をまさぐる――見慣れた我がボディだ。少し違和感が残るものの。
「――ん――なんか大切な約束したような――」
夢の中でそんなやりとりを交わした気がするジテン。しかしそれがなんだったのか明朗に思い出せない。
「ま、いいや」
〝ぴきぃん〟――そんなジテンの頭に電流が走る。
「あれ? ドラゴンボール?」
ジテンの足下には漫画の山。
「あり――? あれぇ? これは本当なのか……」
ジテンは夢の中でドラゴンボールの単行本を読んだ事を思い出す。それも――誰かもう一人と。
「ああン? これ読んでたからそんな夢みたんか。夢は記憶の整理ってゆーし――」
顎に手を宛て、ぶつくさ言うジテン。
「なんかかめはめ波撃った気がするんだが……あとティラノサウルス――確かに、序盤(ドラゴンボール)にゃ恐竜出てくるけど――」〝OPか?玉乗り仕込みたいねの〟
「あれ――どんな夢だったかな――」
〝こつん〟
ジテンの足の指に何かが当たる。ジテンそれを見下げるに――
飴。
薄茶色く、コーラ味でパウダーがかる白ばんだ飴だった。
それを見た瞬間、男の脳内で全ての記憶が繋がる。
「――キャンディさ、ん……?」
意味も無く訳もなく男は辺りを見回すが――
「キャンディさん?」
そこにキャンディは居るはずもなく。
「キャンディさん!!」
〝あたしの全部をあげるね☆〟――そんな言葉が男の頭の中に蘇る。
「うわあああああああッッ!!」
しゃがみ込む男。その視界には怪我の一つも見つからない健常な腕と脚。産毛のひとつも生えていない。真っ白で柔らかな腕脚だった。
「なんでだよ! なんでだよ!」
床を叩き付ける。キャンディがくれた腕で。手で。
「一緒に宇宙へ行こうって! 旅しようって!! そう言ってくれたじゃないですか!!」
〝言ったよ――〟
男の頭にそんな声が聞こえる。
「キャンディさん……ま、まさか――」
〝うん。だから一緒に行こう☆〟
「ぼ、僕の中で――」
男は自らの体を抱きしめ――
「キャン――」
不意に扉が開く。
「もう行けるん?☆」
そこにいた銀色が言う。
毛羽立つジテン「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ「え?もうイケるん☆?」あああああああああああああああああああああ「いやうるさいな」ああああああああああああああああああああああああああああああああ「元気なのは分かったから」ああああああああああああああああああああああああああああああああああ「ちょっと飲み物取りに行ってただけだって」ああああああああああああああああああああああああああああああああああ「お前んち二階に冷ぞ――」あああああああああああああああ「うるせえな」あああ
〝バタン〟
扉が閉まる。
あああ――あーあ、あ……」
叫び疲れたジテン「あ? あ? あ゙??」
たじろぐジテンの顔はよだれや他の体液でぐぢょぐぢょであった。
事態が飲め込めない。
それもそのはずだった。
扉の先――キャンディの声を借りたそれは、人型の――人間で云う子供サイズの生命体であった。肌が銀色で、無論手足があり器用に子供サイズのスタジアムジャンパーを着こなしていた。しかしその生命体が頭部に設ける目玉――二つ球体には既視感があり――
「キャンディさん!?」
そこでジテンは到達する。
「そうだよ」
との声と共に扉がきぃいい。
「生きてたんすか?」
「は? 今更?」
キャンディは困惑する。
「いや、お前何度か起き上がってたじゃん」
「え?」
「何度か起き上がって――なんか声掛けても反応しねーで、この部屋ふた周りくらいしてまた寝んのよ」
「――それ夢遊病です」
「あ、夢遊病か」
「え!? 俺、夢遊病持ってるんですか!?」
「しらねーよ」
「うわ――俺、夢遊病煩ってんのか~」〝こりゃ通院モンだな〟
手足をピンとするキャンディ「えええ!? まだ地球に居んの!?」
ジテンは顔を上げる。
そこには、後ろ手の窓から逃げ出した後光に照らされたキャンディが居た。
「そんなちっこい夢回ってねーでよぉ☆」
彼女は紡ぐ。
「もっとでっかい夢を遊び周ろうZE☆」
あの時の約束の続きを。
【夢遊病】――睡眠障害のひとつ。睡眠状態にも関わらず動き回り、場合によっては日常的な簡単な動作を行うまでに至る。当事者は異変に気付かない。しかしその字義自体を見る限りではなんだか楽しそう。語り手が思う楽しげ病名ランキング№1 因みに2位はピーターパンシンドローム。
~ジテン宅~
スナック菓子を含むジテン「”バリボリ”なんで俺に手足与えた挙げ句、そっちが手足芽生えてんすか”バリボリ”」
ポテトチップスを食む食むキャンディ「いあ、それはふつーに日が経ったからじゃね? 怪我治り――怪我返り?? 健常返り?返し?」
「いや、なんでもいいですから」
「地球辞ってあれだよね。多様だよね~☆遊び甲斐ある~☆」
「そうなんですかね。これしか知らない俺にはあんまし実感――」
「いや、数ある宇宙辞の中でもトップクラスに面白豊かよ?」〝これ制限かけんの勿体ねー御業だぜ
「ちょっとおっきくなってきましたね」
「あたぼうよ。これだけ食ってんだからな。もっと食えば等身大になるよ」
「等身大――キャンディさん、元のサイズってどれくらいなんスか」
「馬鹿野郎、宇宙人に等身大なんてねーわ」
「そうなんすか?」
「あ、宇宙人の辞書に等身大なんて言葉はねーよ☆」
「何で名言ライクに言い直したんですか?」
「ボナパルとりたかったから☆」
「名字で言われると分かりにくいスネ☆」
「宇宙人はねー。基本的にはなりたい自分になれるのさ☆ 身長体重性別顔面問わずね☆」
「マジすか」
「うん☆ あと――何問うてないかな」
「要は、変幻自在に自分の姿変えられるって事ですよね」
「まァね☆ 息を吸うように姿化けるぜ」〝あたしゃら息吸わないけど〟
「俺も出来ますかね」
「無理じゃね? 半人半宙人じゃ」
「おい、マジかよ~」スナック菓子をかっこむ。
「やけ食いすんなよ。太るぞ」
「太っても体重は――」
「据え置きだな」〝半宙人だもん〟
「ズッケーよおおおお!!」
「生まれを嘆くな。生き様を嘆くな」
「なんだよ~持たざるモノとは話になんねーよ~! こちとら持たざらないモノだも~ん」
ため息をつくキャンディ「は~」
ため息の先を見るジテン。
キャンディ「もう、宇宙とかどうでもよくね?」
「いかん! スナック菓子食ったあと特有の怠惰感がキャンディさんを襲う!!」
「うそうそ。でもさ。どー脱出しよっかな~」
「地球からですか?」
「んだ。脱出はいいのさ。脱出は――それは出来るのよ。あたしもおめーも。でもよ~。多分、お前、空気要り用だろ」
「まあ、半人半宙人ですしね」
「あ~めんどく星モン相方にしちまったな~☆」
「なんすかめんどく星って。行きたくねえ星暫定ナンバーワン」
「意外と住み心地いいと思うよ~☆ それで暮らしてゆけるって事はモノが揃ってるってワキャだからね――あ~あと、推進力も必要なんだよな~」
キャンディは不意に前の話に戻る。
「ドラゴンボールじゃねーんだからずっと飛んで移動ってワケにもいかんのよ。んでおまけに幽白じゃねーんだからそんな何日間もぶっ続けで移動してらんねーわけ」
「霊丸も撃ちたいな~」
「じゃ一回死んでこいコラ。伊達にあの世見てから来いや」
「そんな言われる程?」
表情に陰影を生み、声で渋がるキャンディ「お前――まだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないだろうな――」
「それで言うと、俺、一回死の淵から蘇ったようなもんですからね!!」
ジテンは思う。――そうか。まるで俺は主人公だ。
それから数日前のあの時を思い出す。
隕石を見事退けたあの夜の事だ。
思い出し――少し震える掌を見てジテンは――
「ありがとうございました……」
そうキャンディに告げる。
「ン? なにギャ?」
「まだお礼言ってなかったなって。身体――直してもらったこと……」
「あ、いいのいいの。それくらいの事したでショ、チミ。されるくらいの事したデショチミ」
「でも――」ちゃんとお礼は言いたいです。そんな風にジテンが思った時だった。
「だからおまけしといたよ♡」
「おまけ?」
「うん。鏡見てみ?」
「鏡?」
ジテンは、手鏡の存在を思い出す。それがこの部屋のどこかに――どこかにはあった筈だ。汚いながらも、あらゆる物々が散乱、山積みをとるも、その事――在る――という事だけは覚えがあった。
〝ぴきぃん〟
再び、ジテンの頭に電流が走る。
(――あそこだ――)
ジテンは部屋のひと隅――漫画本が並んだ戸棚――その裏側へと手を差し伸ばし込む。
その指先に何かが当たる。引き出してみるとそれは手鏡。ジテンが思い起こした通りの手鏡であった。
「なんで分かったんだろ」〝ここにあると〟
それを背後から窺うキャンディ――〝ニンヤリ〟
窺うジテン。顔を。
「あれっ?」
そこに映っていたのは自分。無論自分。それも――在りし日の自分。十数年前の自分。見目によるところ――そんな肌感。
「なにこれ」
ジテンは喜ぶより先にキャンディに利く。しかしその振り向きの最中にも自答が弾き出されていた。
「おまけって言ったろ」
キャンディはそれを見越した上で敢えてそう言う。
「ふうん」
「あれっ? あんまり嬉しくなさそっ」〝キャンディちゃんションボリ〟
「いやもう色々な事があって感情バガになってるからさ」
「なるほど、これしきの事じゃおののかんと」
「まあねえ」
「これは後から来るヤツだ」
「いや、これは後から来ないと思うよ。今がピークだよ」〝もっと地球人の感覚勉強して?〟
「あ~来ないヤツか」
「来ないヤツですね」
そう言って寝転んだジテンを見て、キャンディも寝転ぶ。そして。
「え? これって手詰まりですか?」
「うーん。宇宙船かっぱらう覚悟おあり?」
そう告げられたジテンの視線の先には天井があった。
しかしジテンの目は天井の先にある物を見据えている。
【宇宙】未だ謎に包まれておる――ここに記せる程、人類は何もワカッチャいない。だからきっと未踏を打倒に向かうのだ。
~場所???~
「え~やっぱヤメにしません?」
「今更なんだよ! おめーが行っちゃいやしょう! うへへえいって誘ってきたんだろうがぃ」
「俺そんな卑屈に言ってないよおおお~」
「言ってただろぅ~☆。えひえへぃ~いっちゃいやそう! ついでに地球人滅しちゃいまひょうって誘ってきたんだろうが~☆」
「俺、ぜっテェ~そんな事言ってね~もん! なんで一回地球救ったやつが地球滅ぼそうとすんだよ~」
「大概、そういう魔王扱いたヤツの過去には地球愛してたみたいなバックボーンあんだろ」
「確かにそういうキャラ多いけどさあ。にしても速度ってもんが――」
「ここだな」
「わっぶ! 急に止まらないでください!」
〝ドムン〟男は前を歩いていたキャンディに躓きそうになる。
「ここがJAXAだな」
目の前には青と白の配色に彩られた建物があった。
「違うよ! ここはローソンだよ!」
「あ、ローソンか」
「ローソンだよ。第一、俺よりだいぶちっちぇえヤツ前に据え置いて、しらねー間にここがJAXAだのNASAだのって到着するワケねーだろーがよ!」〝前がら空きなんだよ!〟
つばを数唾飛ばすジテン「ていうか、俺達どこ歩いてたんだよ」
「あ~ここは――おまえんち周辺だ」
「なぁんだよ~それ~!! ほとんど夢遊病の射程距離だよ~! 俺、今夢遊病発病してマした~??」
「JAXAってどこにあんの?」
「なんで俺こんなやつ先頭に差し置いてんだよ~☆ 調べればいいじゃんかよ~ 俺の頭の中覗いてよ~☆」
「――いや、それが――」
「しょうがないな~えっと――」
男はスマートフォンを取り出し――
「確か、種子島とかじゃねーのぉ? いばらぎか――あ、茨城。だいたい濁点の有無でごちゃごちゃ騒ぐんじゃねーよってね? 茨城問題だけじゃなく、濁る濁らないってだけでごっちゃりごちゃり言ってくるやつ御座すでしょ~? 俺、あ~いうヤツ嫌い! あ~制限速度かかってるからおっそい!! 〝ぎ〟も〝き〟の仲間だろ! 〝亜き〟だろ!〝ぎ〟は! 科目一緒だろ! やまざととやまさとみたいなね!! どっちでもいいから! えびはらでもえひはらでも!!」〝ア、ソレハダメカ〟
ゆっくりと映し出されるスマートフォンの画像。
「あ~、やっぱ種子島か。種子島って長崎?いや、ながざき?? 俺、地理弱いンすよね~。こんなヤツが宇宙行ってだいじょぶなんスかね~あ、鹿児島だよ! 何がながざき?だよ! 元から間違ってんだよ愚図が!!」
「テンション高いな~」
「そらそうでしょ~宇宙行けるってんですから~からから~進化するとガラガラ~」
〝ぴたり〟
そう遊んでいた男の歩行が止まる。
「そっか――宇宙行っちゃうともう地球のゲームとか出来ないのか――」
ゲームだけではない。一度宇宙へ出たら最後。
もう二度と。
漫画も。
アニメも。
お笑いも。
スポーツも。
ありとあらゆる地球の物々を。
もう二度と手に取る事は――触れる事は――遊ぶ事は出来ないのだ。
これから生まれ来る――今以上の地球産の未体験は。
「まあでも――宇宙にはそれ以上に楽しい物が――」
そう思う他ない。そう思わないと先には進めない。
向かう先にこそまばゆい光あらん事をと。
「いや? 宇宙にはワープ航法あるからすぐ戻って来れるよ?」
「あ、じゃいいか」
旅とは、人生とはそんなものである。
無闇に追い詰めなくてもいい。
自分だけでは出せない答えを、隣人が持っていたりするものなのである。
意外と、そんなものなのである。
夢を追う事とは固執する事ではない。
【ガラガラ】――ポケモンの一種。カラカラと云うポケモンから進化した姿がこれ。しかし、初代ポケットモンスターを体験した者には、このポケモンはに対する感慨はひと味――俗にいうちょっと違うよ、なのだ。その詳細は――自分の目で確かめて欲しい。
「あのさ。水筒ってさ。なんでコップ部が上に付いてんの?」
「こっぷぶ?」――なにそのちくわぶみたいなの。
「あのね? コップに水入れて飲むじゃん? お茶でもいいけど――内容液――でさ、それを逆さまにすんじゃん。で、被せんじゃん。そしたらコップに残ってるしずくがびみょ~んに滴ってくんだよ~!! バカかよ~!! 茶色によごれちゃうよ~! そのうち~ん!水筒がッ!」
「じゃどうしたらいいんだよ」
「だーから~! コップ部を下にすりゃいいんだよ。仕舞うとき、水筒ひっくり返して、順手のコップにすちゃって装着すりゃいいんだろうがよ~!! どうせ注ぐ時逆さまにすんだからよおおおおお!! 上部に注ぐボタン付けてよおおおおおお!!」
「地球の水筒事情ワカンネ」
「んだよ~おお~おおっ」
「憤りに変な抑揚付けないっ」
「着いたぞ」
〝ずむん〟
「あっぶねって! 急に止まんないでくださいよ~」
「ここがJAXAだな」
「いや、俺達ずっと近所散歩して――」
「え!? JAXA!? もうJAXA!? 種子島宇宙センター? なんで!? 俺達ずっと歩いてたじゃん! それでなんで辿り着けんの!?」
「これJAXAでいいんだろ――」〝アルファベ四文字〟
「えーっと、N、A、S――」
ジテンは一文字ずつ指を振って順を追う。して。
「A…――NASAだよ!!」
「なさ?」
「そうだよ! アメリカだよ、ヴァーカ!! アメリカ航空宇宙局だよバカがよ!! なんで徒歩でNASA来れんだよ!! 仕組みどーなってんだよ! なんでJAXA着こうとしてNASA来れるンだよ!!」
〝うおおおおお!!〟――ジテンは叫びながら頭を抱える。
「あんま騒ぐなよ」
「流石に驚くぞこれは! 色々諸々あったけど! こーれーはああ流石に驚くかんね! うえかがえ(※若返え)った時もホントは驚かんとしてたけど! これは無理! だって徒歩だもん! 息も切れてねーし! 普通に近所散歩するノリでNASA来ちゃったよ!!」
「HOWAI ANNTAGATA NANIMONO?」
「いや、違うんすよ。歩いてたらNASA来ちゃって――それも日本から」
「OO SOREHA NAGATAVI GOKURO-U」
「あれ? あなただれ?」
「WATASI NASA NO KEIBII-NN」
「警備員!?」
「FUHOU SINNNYUU AMERIKA RYUUNI MOTENASI TYAUYO~」
「いや、キャンディさん――あれっ?」
辺りを見回すジテン。
「いや、キャンディさんいねええええ!!」
〝ぼがっ〟――襲い来る警棒。
「ううーん」〝オレムユウビョウアルンデキヲツケテ…〟
〝ばたん〟
【NASA】――宇宙に関してそれはそれはスゴい知識とかメカとかがあるところ。
〝ばしゃあっ〟――
水浸しジテン「うわあっ! もう食べられます! お召し上がりの際はそちらのタレを付けて――」
「YOKU OYASUMI NO YOUDAXTUTANA」
「ふわあっ……俺どんな夢見たんだ――宮沢賢治か……あっ! 俺濡れてる! 縛られてる!」
〝ぎしぎし〟――縄を巻かれた手首を基点に、ジテンは縛られ吊られている。
「YOKU OYASUMI NO YOUDAXTUTANA」
「すみません。同じセリフ二度言わせてしまって」
「NOU PUROBUREMU」
「意外と心広々なんだな~ まるでその国土のようだ~」
「HAHAHA UMAI KOTOWO IU AMERIKANN SOUIUNO RAIKU」
「ああ、じゃあその広い心で、僕の事――」〝釈放してくれますよね?〟
「SOREHA MURI!!!」
しゅぱりぃ!! しなる鞭がジテンを襲う。
「いだなしてェ!!? 確かに誤って敷地入ったのは謝るけど――でもこんな事して――」
「DAIJYOBU AMERIKANN RU-RU GOMUYOU DOUSE NIHONN NO SYUSOU ATAMA AGARANAI」
「――首相は〝しゅしょう〟なんじゃ――」
「KOMAKAI!!」
〝ボガッッ!!〟今度はおもむろに伸ばされた警棒がジテンの顔面をもろ打つ。(※もろ打つ――強打)
「いってええええ――」くない!? もしかして俺の強度上がってる――?
窺う限り鉄製の警棒をドタマに食らおうと、頭にこれといった衝撃も走らない。そこにジテンはそんな旨を思い至る。
(――でもここでは痛いフリしとこう……強気に出るよりもまだ効能ありそうだ――)
「NIYARI」
「いてええええ! 痛いよ~! おかあさあああん! おかあさあああん! 母なるおかあさあああん!!」
「――KOITU OSORAKU KIITENEENA」
ジテンはその言葉に耳を疑う。
英語が通じている。こちらは日本語を発している。それにリスニング出来ている。生の英語を。本場の英語を――いや、それよりも――
(なんでそれを――)
ジテンが懐疑に思ったのは、そこだけではなかった。
KOITU OSORAKU KIITENEENA――コイツ 恐らく 効いてない。
聞いてないではない、効いてない――その事はジテンは感覚で分かった。しかし、何故打撃が通じていないのか。言語は通じているものの、何故打撃が通用していないのか――それだけはジテンを以てしても察せなかった。
「NANNDESOREWO TO IUDAROU OMAEGA GUXTUSURI TO ΟSURI-PU
NO AIDA KISAMA NO KARADA SUMIZUMI SIRAVETA」
「なんだと!?」
警備員「――サテ――ここからは日本語で喋ってやろう」
「――助かる」色々とな……
「我々の膨大な科学的技術力によって、お前の身体を余す事なく調う゛ぇた。すると耳を疑うような事が判明した――」
〝ゴクリ〟――ジテンは生唾を飲み込む。
「ちさま――宇宙人だな……」
汗を掻くジテン(――こいつ――ところどころ日本語が危ういが――ともかくその技術力は本物だ――いったいどうやって――)
警備員「ほら。ここ握ってこうすると伸う゛ぃる」
〝ぐりょお~ン〟
「うわあ! 俺の脚ぃぃ!!」
「縄跳びしちゃうヨ」
〝しゅたたん〟〝しゅたたん〟
「うわああ! 三重跳びぃ! 怖い怖い! 踏む踏む!!」
「だいじょうう゛ オレ 縄跳う゛ぃ 得意」
〝しゅたたん〟〝しゅたたん〟
「うわああ! はやぶさ! 宇宙関係の人がなわとびで、はやぶさやってる! なんてギャグだ! スゲー遠いギャグ! スゲーか細い、スゲー光年あるギャグ!!」
〝フーッ〟〝フーッ〟息を切らした警備員「こうやって〝ふー〟おまえのからだ〝ふー〟しらう゛ぇた」
「いや装置は!?」なんかレーダー的なほら!ぴこんぴこん的な。
「つかうまでもなかるぉう」
(――確かにその通りだ!!)
そう思うジテン。そして――
(こいつら――デキる――)
して。
(キャンディさん――いったいどこに行ったんだよおお~)
【はやぶさ(縄跳び)】――あや跳びを二重跳びでやる技。小学生の頃、これを難なくなわとびング出来る人、憧れでした。
~場所???~
キャンディ「うぉお~い☆ YOUYAKU A-SI NO ΟDEVANN DESUWAYO☆」
自らの腕をマイクに変えるキャンディ「オハヨーゴザイマス なんと、ここはNASA内部です。侵入しておりマス☆ わたしはこれからえ――カメラさん、カンペカンペ……え~、これからわたしはここ、NASAで寝起きびっくり宇宙船盗みを企てたいと思いマ~ス♡」勿論これ一人芝居よ?
「なんでこーゆ事したかってゆーとね~☆ 二人して捕まっても全く以て意味ねーからよ? ジテンちゃんがこーして捕まってる間にあーしが宇宙船的なものをこっそりくすねつつ~の~ジテン助け出――あ、それはいいか。で~え。ぼひゅうと宇宙飛行しちゃおうって魂胆。魂胆♡」
「まあ、最悪宇宙船盗めなくとも――」
警備員×5「NANIYATU!!」
「あ。やべ。デケぇ声でしゃう゛ぇってるから見つかった。でもでも~今のアタシにゃ~」
警備員×5「KAKARE!!」
キャンディはそれらに向け、指を一本突き出す。地球人で云うところの丁度人差し指にあたる部分だ。そして――
〝イセイカンユウコウビーム〟
【異星間友交びいいいいいいむ!!】
彼女の突き出した人差し指。その節々がぷくりと盛り上がり――エリザベスカラーのようなエリマキトカゲのようなはたまたUFOのような、そんな円盤を三つほど設け出す。
その見目形はまるでSFものに度々登場する、インチキくさいお約束的光線銃。その先端に光が集う。そして――
〝ずびびびびび~〟
迸るは蒼雷。
警備員×5「GYAOOOOOOOOOO!!!!!」
見た目こそ、その音響こそインチキそのものであるが――しかしてその威力は本物である。
〝フーッ〟――まだ少し仄かに熱量の残る指先にガンマンよろしく息を吹きかけると、キャンディは口笛を吹きつつおしり振り出しながらに練り歩き出す。
〝ぴゅーぴゅーぴゅーぴゅぴゅーぴゅぴゅぴゅぴゅぴゅーぴゅぴゅ~♪〟
異星間友交ビーム――無論、その元ネタは映画E.T.に於ける、友情のシーンだ。主人公であるエリオット少年と我らがETが友情、信頼の証としてお互いの指を合わせ――
警備員×100(丁度)「DEAEDEAE!!」
後ろ向き逃げ出しキャンディ「どぴゃ~! 口笛吹いてたからエンカウント率~!!」
警備員×100(多分)「OKAKUGO!!」
キャンディ「ふぁ~っく」〝コリハファ~ック〟
【口笛】――ドラゴンクエストシリーズに於ける特技。初出はDQ6。遊び人に転職すると使えるようになる。これを使うと、敵をすみやかに呼び寄せ、戦闘する事が出来る。ゲームに馴染みのない方は、それしてどーすんだよと思うだろうが、そうする事によって、レベル上げやお金稼ぎをするのだ。DQ3では商人に転職すると使えるようになる。これ書いてる時に、元ネタはレッドスネークカモンなのかな? 商人の見た目的にと思ったけど、初出は〝6〟で〝遊び人〟。
~NASA・TOKUVETU TYOUBATU TORISIRAVE RU-MU~
「はっはっはっは~!」
「そうなんすよ~!」
「マジで!? お前が隕石を!?」
「これが大(おお)の大(だい)マジ! 信じてくださいって~」
「ンデ? お前がそんでティラノサウルスだーって?」
「いや、まあティラノサウルス座ね。なんか、そん時びかびか~んと星座に見えたんですよ。我が御身が」
「そんな星座ねーだろジャップ! ファッキンジャップ!!」
「――ファッキンジャップ以外も分かるよ馬鹿野郎!」〝いや、なんで、どうしてダロ〟
「ハハーッ シンジラレネイ ネーッ!!」
「まあ、だしょうね。だしょうねえ」――(俺だって信じられねーよ。未だに。ホントにあれは俺が撃ち砕いたんだろうか――あんましそこらへんよく覚えてねんだよな――)
「はらへったなーっ ぴざくう~?」
「ああ、食べます食べます!」
「お前何食いたい?」
「いいんスか選んで!?」
「いいよ~選んじゃいなよ。本場のピザ~」
「いや、本場はイタリアでしょ――おれ、これ食いたいっスね~」
「ウーム」
「あ、ダメすか?」〝諸経費とか?〟
「いや、俺これ食いたいんだよナー」
「いや、もう俺、腹スゴい減ってるんで正直なんでも――」
「ジャー ハーフ&ハーフで――」
~NASA・どこかの通路~
肩で息するキャンディ「はーっはーっようやく逃げ切れた――しかし、こんなとこでめげちゃいけない――今、辛い思いしてるアイツの為にも――」
~NASA・TOKUVETU TYOUBATU TORISIRAVE RU-MU~
警備員「コーク頼む?」
「マジすか!? 喉渇いてんすよ!」
「ごめんね。こっちも仕事だからサー」
~NASA・キャンディ地点~
「ジテン――待ってて……あたい……アンタと交わした約束の為に頑張る!! オラァ!!かかってこんかああ!!」
~NASA・TOKUVETU TYOUBATU TORISIRAVE RU-MU~
ピザ屋〝PIZA HOT〟店員「GOTYUUMONN OTODOKENI AGARIYASITA~」
警備員「MAIDO~」
警備員「あわてず食えよ。ここの熱いぞ」
「あちっ! 噂に違わぬホットぶり!! 流石本場のピザホットだ!!」
「ははっ。そんなに急いで食ったらよく味わえねえだろうが――」
「いやだってお腹空いてンすも~ん!!」
「だからYOKU味わえって――本場のDOKUをよ――」
「え――」
「てめえの食ってるピザ――DOKU入りだぜ――」
「ど、どおりであんたは一口も――」
「いや、お前があまりのスピードで食するだけだ。こっからこっちはDOKUなんて入ってねー。その為のハーフ&ハーフよ」
〝ごはァッ〟――咳き込むジテン。
「なァに。ちょいとした人体実験よ。WARUく思わないでくれよ、お前が宇宙人なのがWARUいんだ――ナア――宇宙人さんよ――お前が苦しむSUMMER見ながら、このHOTいピザ、ハーフハーフしながら食べるヨーッ」
「い、いっつあ――ほんばのあめりかんじょ――」
〝ヴァタッ――〟
「ハハーハー!!」
ジテンの身体に毒が回り切るまで――残り10分。
~NASA・キャンディ地点~
キャンディ「うえ~んワカんないよ~! 宇宙船ドコー? 迷子センターあるかな~?」〝なんか宇宙センターなんだし、アルヨネ〟
〝ドタ〟〝バタ〟〝ドゥタ〟〝ヴァタ〟――治り立ての身体から触手を――四肢を触手とした四本のそれを縦横無尽、みだらめったらにバタつかせ、それでも時速50㎞の速度で走っていた。
「んお? ナニコレナンゾコレ――スゴいアタシに似たボタン」
〝ききききぃぃぃいいいッッ〟――止まる。
彼女の前には、黄色と黒の虎柄にあや取られた縁内部に収まる――ガラスの掛かるピンク色の丸いボタン。
「ぬお~☆ 危なげ☆ 等しく危なげ。押したら何か起こるヤツだよな~コレ」
「押すっきゃないよNE~☆」〝こういう時、地球辞でポチッとなと云うのがお約束〟
「ほい、⭐︎っとな♪」〝あーしなりにアレンジング⭐︎〟
〝ポチッ〟
~NATTR――(NASA・TOKUVETU TYOUBATU TORISIRAVE RU-MU)~
ジテン(――俺の身体に毒が回り切るまでどれくらいだ――? しかし地球人用の培毒※なのか? それとも宇宙人用に調整してあるのか? 俺は半身が人間で残る半身が宇宙人の半人半宙人だから――)〝ソンナキッカリジャナイケド〟
※培養した毒――梅毒と云う響きを思い出し、ジテンがその場で遣い出したでっちあげ言葉。
ピザを貪る警備員「FUFUFU――」
ジテン「何がおかしい!!」
その言葉に、警備員のピザを食べる手が止まる。
警備員「DOUYARA お前の勝ちだ小坊主――」
ジテン(小坊主――?)〝そか、俺若返ったのか――〟
警備員「DOKU――どうやら俺の方に入ってたようだぜ――」
〝BATANN〟――警備員が倒れる。
ジテン「ぅええええ!?」
警備員「BUKUBUKU 泡VUKU」
ジテン「え~これ気ぃ遣っちゃうよお~夢に出ちゃうよおお~! 今晩上手く入眠扱けるかな~っ」
〝カッ!!〟ジテンの目が開く。
ジテン「とか言ってる場合じゃない!!」
吊されていた腕部の縄を〝バチィン!!〟――合身(ごうしん)された事により、強化された腕力で弾き切(ぎ)り、着地後、ジテンはすみやかに泡を吹く警備員の元に駆け寄る。
「うっわ! グロッ! 人って気絶すっとこんな克明な泡吐けンのかよ~! すげぇクリーミィ~!! こんなもん女子が鼻頭に付けて泡立て器片手に舌出して、てへへられた日にゃすぐ好きになっちゃうよぉお!! ……いや、こりゃ明らかにやべーってサインだよ。 泡中の泡じゃねえか。泡より泡しだコレ――シャボン玉なんて、ありゃアイドルだな。泡界のアイドル。アワドル」
駆け寄りしな、ジテンは倒れる警備員を起こし――仰向けに。それから身体に手を当てる。
「ダメだ……雰囲気で触診してみたけど医学にとんと暗いからさっぱりだ……なんか、あれか? 俺もキャンディさんみてーに俺の一部分をこの人に――」(いや、ダメだ。あれはおそらく人体の損傷を補うやり口で――毒のような内部から蝕むようなやつには――待てよ? じゃあ、この人の身体を予め根こそぎ、損傷した部位を俺で――)「――いやダメだ! リスクが高すぎる! それに俺が殺しちゃった感が強すぎる! 堪え切れない! メンタル豆腐ボディ宇宙人――どちらにせよやわやわじゃねえか!! ――そんな名実共に心身共にダブルやわやわンな俺には――」
〝堪え切れるワケがないッッ!!〟
「も、元々コイツが蒔いた種――俺には――」
そう言ってジテンは膝に抱える男を見る。
葛藤――葛藤の中の葛藤の最中である。して――その答えは――
「いや、そもそも俺にはその分け与える――仮名(かりめい)アンバンマン治癒のやり方が分からねえ!! じゃあこの案はなしだ!畜生!! 無駄時間過ごした!! は――ッ!!」
ジテンは男の体をまさぐる。
「こいつ、流石に解毒薬を――」(――俺用の解毒剤を――せめて1本は持っているハズだッ!)
――〝ピタリ〟――ジテンの手が止まる。して。
「コイツ持ってないッ!! ――じゃあ何か!? こ、こいつあ――俺を――」
〝殺す気でいたのか!!??〟
〝ガガーーンッッ!!〟
「じゃああれだ――身から出た錆――もとい身に取り入れた毒じゃあないか――俺に、俺に――」
〝こいつを救う義理はないッッ!!〟
〝しかし――〟
〝しかしッ!!〟
駆け出すジテン――目前には壁。
「身体こそ宇宙人に委ねたがよぉぉぉ!!」
壁迫る――!!
「心はまだ人の子だぜえええええええ!!!」
〝ドガァン!!!〟――体当たりを仕掛ける。
〝ドガァ!〟「くっそお!!」〝ドガァ!〟
〝ドゥン!!〟「流石、あの――特別檻房!」〝ヅゾン!!〟
「なんかあれだぜ……!そんな事言ってただけはあるぜ!!」〝ズドンン!!〟
「くそがァ――カテえ……!」
〝ハァ――〟〝ハァ――〟ジテンは嘆息と吐息が混ざった息を漏らし、ゆらゆらとした足取りで扉の方へ――この部屋唯一の出入り口である。しかし、近づこうとした最中、その足取りは止まる。
「――くそっ――鍵の可否を確かめようとしたが――そもそもそういう扉じゃねえ。なんかこう――システマチックだ……近未来だ――流石NASA……非の打ち所=手の施しようがねえ……」
〝くるり〟――首だけを寄越し、ジテンは壁を見つめる。
それから拳を軽く握り上げ――〝開く!〟――開かれた掌内部にほんのりと生み出されるは光の極粒子。
「あれ――あの力……もう一回出来るかな……」
あの時――隕石を破壊せしめたあの力。
身体に帯びた綺羅なる星群。
今度は壁を目の前に――ジテンはあの構えを取る。
――例の腰つき。
――件の腕つき。
その名も――ティラノサウルス座。
〝すーっ〟――息を吸うジテン。してから。
ジテン(――冠詞に竜星ってつけようかな――流星と掛けて)
その力強く固められた十指を――壁に向け、今、強かに強打する。
【冠詞】名詞の前につき、その定性を表すもの。要は強める感じ? ……英語の〝a〟〝the〟とかがこれに当たるらしい。なんと日本語にはこれはないが、ジテンは飽くまで〝屋号〟〝接頭辞〟的な催しで、読んで意の如く、〝冠に被る詞〟と云ったニュアンスで遣っている。こういうところが日本語の妙、アクセントだと思うので(KOMAKAI KOTO HA SATEOKI)そこらへんはご容赦。ティラノサウルス座にムリムリ冠詞付けるとしたら接尾辞(ティラノサウルスだけに)――をひっくり返して〝THE・ティラノサウルス〟だね。
~NATTR~
「いでえええええええ!!」
壁に打ち付けた掌――主に指に痛撃を感じ、ジテンは指を振る。〝ぷりぷりぷりぷりぃ~〟
「なんで!? 〝星座〟が撃てねえ!」(――力も入らねえし、なんだよ――何が足りない?)
キャンディ(――緊迫感じゃね?)
突如としてジテンの脳内にキャンディの言葉が飛来する。
ジテン「ちょちょ――」
慣れない事に一先ず発語するも――
ジテン(――キャンディさん! 今までどこにいたんすか!!)
キャンディ(いや、積もる話は後なのよこれがちょっちマズい事になっまったようでして――☆)
ジテン(――こっちもやべーんすよ! 一人毒喰い患者がありまして――あの、身体の一部分けるヤツ――)
キャンディ(あームリムリ無。お前さんにゃMURI☆ かといってアタシも――そんなヤツに身体分け与えんのいやん♡)
ジテン(あ、、こっちの事態把握出来てンすね――それは話早くて助かるけど――)
キャンディ(じゃおまえもやってミ?)
ジテン(はい? 何をですか?)
キャンディ(感鈍いな――この、ニブニコフが~)
ジテン(ニブニコフ?)
キャンディ(ニブニブ王国のニブ首相が~)
〝ゴゴゴゴゴオゴゴオゴゴゴ〟
ジテン(パターンみせなくていいんだよ――役職もおかしいし――王政だろ?)
〝ゴゴゴゴオゴゴゴゴ〟
キャンディ(いいから――そこからこっちの事態把握してみ?)
〝ゴゴゴゴゴゴ〟
ジテン(――どうやって――? やり方わかんねーすも~ん)〝ゴゴゴゴオゴオゴゴオゴゴオ――〟(さっきからうるせーよなんだよこの地響きぃ!!!!)
〝ゴ〟「ゴメン☆あーし、ミサイルのボタン押しっちった♡」〝ゴ〟
〝ゴ〟「はァい!?」(――じゃあなくって――はぁ!!??)〝ゴ〟
〝ゴ〟「いや、なんかロケットへの格納庫の道とか開けるかな~とか思って押したっつーか。何か押して欲しそうに佇んでたっつーか」〝ゴ〟
〝ゴ〟(――なんすかその道ばたのダンボル犬みたいな――)〝ゴ〟
〝ゴ〟「そんな顔してたんだもん☆」〝ゴ〟
(――そもそもミサイルに表情ねえよ!)
「あ、それと、もう念波しなくていいよ?」――数行前から肉声に切り替えてんだろ、ドアホ。
「はにゃ?」
「DO☆I☆TE」
【キャンディィィィィイクラアアアアアッシュ!!】
〝がしゃらかーん!!!〟
ひしゃげ、壊れた扉――鍵のない扉。その噴煙の中にシルエット――
「よっす☆」
壊れた扉――そこに開いた穴からひょっこり顔を出したのは我らがキャンディ。しかして、その傍らにも――キャンディ。
世に云うペロペロキャンディ――渦巻き状の棒付き飴細工状の殴打武器を所有し(どこから取り出したのか)――それで以て、先の叫び声の示した通り、それで以てこの部屋で手薄とみた扉を破壊したらしい――そうジテンはとる。しかしてそのジテン――
「どいてください」
元扉の破片の下敷き。
「ありゃごめん☆」
〝ひょいっ〟――飛び移る。
〝ガラガラガ――〟ジテン「けほっ」
「どいてっつったじゃん」
「だから、どいて今に至るんだよ」――俺は、てっきり〝壁〟を壊すんだと――
「ありゃりゃ。あたしらまだまだ連係プレー、マダマダね」
「ね。課題が残りますね」――ま、出会ったばかしそりゃそうでガンショ。「いやそれより――!!」
「そ。それよか、ミサイルのお話」
「なにしてくれてんすかァ!!」
「あたしを責めるのは後! アタシを責めるなんざいつでも出来るよ!?」
「ほんとかな~忘れたとか言ってうやむやにしそうだけど」
「え? 何が?」
「ほらみろお!!」〝はええよ!〟
「いや、なんかね、これ標的※日本国っぽいぜ?」
「マジに?」
「おう。そこらの研究員の、脳みそ吸い――いや、受信してだね」
「ちょっと濁ったところ聞かなかった事にしよう。食生活好みは人それぞれ」〝宇宙人それぞれ〟「いや、なにそれ。打つ手ねーでしょ!!」
「いや、今から急いで歩いて戻れば――」
「あ、あのNASAへの往路!? あれどういう仕組みなの!?」
「聞きたい? 今ならもれなく故郷と引き換えの特典付きよ?」
「分かりましたよ!〝ったく――〟すぐ向かいましょ!」
「そんの前に――」
流体になり、衣服を脱ぎ捨てる赤ちゃんキャンディ。して。
〝ぬるぅりぃ~〟
ジテンの傍らに寝そべる顔面紫赤の――真紫赤を浮かべる男の体内へ。
口から。
〝ぬめりんちょ☆〟
キャンディ「うげッ! くさっ! こいつピザくさッ!!」
「あ~さっきまでピザ食ってたんすよね~」
「お前もか? お前もなのか!? あーしがこうやって骨身に労苦に苦労してるお間にぃぃぃい」
「いや、俺は食べてないすよ」
しらこいジテン。
〝ブエチョッ〟
男の口から再び飛び出す流体銀色一塊(ひとかたまり)――でなく一液(ひとえきたい)。
「うおおおおくせえええ!! おお~小ゲロ吐いちゃう! プチゲボ吐いちゃうよ~ッ! おええええッ」〝ミナイデ~ッ アッサッキクッタノウミソガ――〟
それからキャンディは、口からぴぴゅ~とどろどろの某、それに加えて紫色の液体も噴水よろしく〝ぴぴゅぴゅい〟と繰り出す。
――男が誤って服用せしめた毒液である。
口元を人間で云う右手に当たる触手で拭うキャンディ(あたし、利き触手、右触手なの――キャンディ談)「あ、脳みそっつってもシュークリームだかんね? 他人のシュークリーム。あたし、人肉は喰わないから! 控えてるから!!」
「よく分かんねー言い訳してないでさっさと」
「分かってる。日本国へ、フタッタビラ GO!」〝ウエーマダキモチワリ〟
【シュークリーム】――あんまいクリームを、小麦粉・バター・卵等で出来た生地に包んで挟んだ洋菓子。ショートケーク・プディングに並んで洋菓子の三大巨頭な気がする。その開いた穴?を四番手であるエクレアが虎視眈々と狙っている。――いや?クレープか?タルトか?いやでもタルトはまだ日本に上陸して日が浅かろう――あ、シュークリームのシューはキャベツと云う意味です。そんなのもう周知か。周知の御業か。でも、初期の頃は乳房を意味する〝ププラン〟と云う名で呼ばれていた事は知る由もあんまい。
~異空間~
〝ほわほわほわ~ん〟
両人は異空間を歩いていた。背景と云えば他のSFモノに漏れる事なく、絵の具を塗りたくったかのような抽象画のような空間。
ジテン風に想いを吐露するなら――さっき見た、警備員の口からピッツァ混じりに飛び出して来た、キャンディのような――そんな空間。
緑の輪切りピーマンや、ねばついたチーズ。それに引き延ばされたサラミに見えなくもない、そんな亜空間。
〝ほわほわほわ~ん〟
「気持ち悪いよお~。どこからともなく、ほわほわほわ~んて聞こえるよ~何この音~ 怖いよ暗いよ気持ち悪いよおおお」
キャンディ「なんであんたが気持ち悪がってんのサ」
ジテン「だってよおお~異空間なんだZE?」〝目ェ回っちゃうよおおお~〟
「もう。そういう時は周りの景色見て――」
〝うおおええええええッッ〟
「あ。逆効果だったか☆」
「うねうねしてるよおおお~。依然としてマーブル空間だよ~。英語で言うとマーブルエリアだよ~そんで僕はマーブルエイリアンだよおおお~」〝半人半宙人だから~ッッ〟
「あんまし離れないで歩くんだZO☆」
「うわあ。怖い事言わないでくださいよお~ 迷子になったらやべーやつだあああうおええええッ」
「ここは全ての時空。ともすれば宇宙の全てとも繋がっとるからネ☆」
「ねえ、腰元に抱きついていい~?」
「赤子の腰元に? 歩き難いよ?」
「それでもぬくもりを感じられるなら~っ ならあああッッ」〝如何に歩きにくようとも――ッッ〟
「ほら。じゃ貸してやるよ。腰――肩なら地球辞にあるけど――」〝ようとも?〟
「ああ~居ます確かに感じますっ。キャンディさんのぬくもり~ッッ」
「あたし体温あるの?」〝ある感じなの? 宇宙人なのに、レッキとした〟「あと、おまえ、目ぇつぶってんのね。なるほどそれでか」
「だって目ぇ回っちゃうもの~っっ!! 暗いよ怖いよびよびよだよ~っ!」〝絵画の中入ったみた~いっっ! 〝叫び〟とか、ゴッホのびよびょ~んってなってる夜街の月のあれとか~っっ。ダークソウルかよ~っ。もしくはスーマリ64かよ~っっ〟
「なにこのアンバランスケンタウロス」
自らの腰元に手を伸ばし帯びるジテン――それと我が構図を窺い、キャンディは言う。
「僕ね、大きくなったら、このアンバランスケンタウロスで星座つくるのが夢なんだ!!」
「よかった。ここ流れ星通りそうになくて」〝叶ったらコトよ?〟
「ああ~っっ。気持ち悪いよ~っ。ピザ吐いちゃうよ~っ」
「まだ言ってる――ン? ピザ?」
「吐き立てのピザお届けにあがっちゃうよ~っっ」
「やっぱ喰ってタンじゃーん♡」
「導いてえ~ねえ導いてぇえ~。俺、目ェ開けねえから導いてぇ~」
「分かった。じゃ――そのまままっすぐ――で、そこ右ね」
「うん」
「するとあの世に辿り着くから」
「ねえ、やめてよ~っ。変なところに導かないでよ~っ。やめてよぉ~そういうイクウカンジョーク~」
「奇しくもぴったし収まったわね。で、そこを右に曲がらずにまっすぐ行くとイトーヨーカドーに繋がっとるから」
「イトーヨーカドーとあの世真隣!?」
「ここ、そういうなんでもありな空間よ」
「いや~なんかもう俄然寄りたくなって来た。何支店?」
「うーんと今なら時期的に――装束とか――フェアやってんのかな? ま、売れ線は装束よね」
「あ、ガン無視と。あれかな? 異空間に吸い込まれちゃったのかな?〝反響しなさそうだし〟――装束? 何の?」
「うん。そこね、ハトのマークじゃなくてよーくみると白いチョウチョのマーク掲げてんだよね」
「イトーヨーカドーが? そんなのあんの?」〝ココノカドーみたいな?? 特殊なヤツ?〟
「で、駐車場っつーか駐車スペース? の代わりに駐船スペース、港があってさ。その駐船料金は硬貨六枚なんだけど、白い紙みたいのあると無料になんのよ」
「駐車チケットみたいな事? で、港? なんだそれ。立地どうなってんのよそれ」
「川縁っつーかね☆」
「川縁?」
「そ。その川縁では託児スペースがあってサ~」
「はあ」
「そこで子供が石積んで遊んでんだけどネ~」
「うん?」
「それを鬼が蹴飛ばしてサラにしちゃうんだよね☆」
「ねえ! それイトーヨーカドーじゃなくてサイーノーカワラーじゃないスか!!??」
「…あのさ、こういう時によくふざけられるよね」
「…え?」
「…は〜あ。早く行くよ」
ジテンは思った。
掛けた三途の桟橋外されたよね。
――そんで、なんであんた地球の死生観に詳しいの?
【賽の河原】――仏教に於けるあの世――今生の果て、極楽に向かう際にある通り道。そこでは子供達(元罪人)が常日頃から石を積み、今生の罪を果た遂げようとしている(見事十段積むと無罪放免(笑点みたい)のチャランチャラ)。――が、それを常に監視する鬼がおりて、その石段を蹴飛ばす職務に就いている。その為、罪人達は永劫、そこで石を積む行為に勤しむ事になる。
あの世でも鬼不足罪人過多の保育問題が起こっていそうです。人数不足の所為で石段積み上がっちゃったらどうするおつもりなんでしょう。…いいのかそれは別に。
ジテン「――で、今、地獄でも保育鬼(ほいくき)※1保育鬼員※2のなり手が少なくて困ってるらしいです」
※1保育士の地獄版。
※2保育員の地獄版。読み方は〝ほいくおにいん〟でも〝ほいくきいん〟でもどちらでも。個人的にはほいくおにいん。
キャンディ「なんの話?」〝は?〟
「――え? 何か俺言ってました? 異空間で変な電波キャッチしたンすかね?」
「も、そろそろ着くよ~ん」
依然として腰持ってるジテン「さっき食ったピザ吐いちゃったし、まず腹拵えしません? タッキー行きまひょ、タッキー」
それを上から握るキャンディ「いや、イトーヨーカドー向かうんじゃねえから。立体駐車場停めた時の会話かよ。あのよ、今、日本に核弾頭落っこちる事お忘れ?」
「お。あの世とあのよを掛けてきた」
――眼光。
ぴゅぴゅーと汗を掻き出すジテン「あ、すみません。すっかり忘れてやした。い、行きましょ生きましょ…」
異空間「ふわわわ~ん――」
〜日本・核弾頭お届け予定地〜
まだ分からないのに目を開いちゃうジテン「あ、ふわわわ~んが途絶えた!」〝ツイタ‼︎〟
体操選手よろしくY字を決めるキャンディ「現着っ!」〝ぴしっ!〟
キャンディ「上見てみ?」
「うおおおおッ! でっか!」
〝スポーンッッ〟
そう言ってジテンは目玉を中空へと飛ばしこぼす。
「――おとと、おっとっと――」
眼球に紐付いた筋肉の筋がびぃーん。一度伸び切ったそれが引力のままに引っ張られ帰り、眼窩にすぽり。
「片方逆入った!!」
慌てて今一度片目をくり貫こうとするジテン。指をねじ込もうとするも、上手く入らない。
「い、いででいでで」
「お前、何これくらいで目ン玉飛ばしてくれてんの?」
「いやもう宇宙規範のリアクションがクセになっちゃってて――あ、直った」
「だ〜から☆ 宇宙人の回復力、ナみんなって。これくらいで目ン玉飛ばしてたら、宇宙にはサプライ散見よ? だいじょう゛ぃ?」
「だいじょう゛ぃ――だいじょう゛ぃっす。馴らしていきます――徐々に――うわ゙!! また抜け落ちた!!」
ジテンは自らの目玉を地表に落とさぬよう――(汚れるから)――お手玉を企て、それをしかと握りしめた後、それを元の場所に戻そうとする――
しかし。
「おい、ちょ、これ……あれ!?視神経は!? あれ!? 視神経ちぎれてるゥ!!」
ジテンは、その綺麗な球体を触感で確かめ、あまりにもそれが球体球体している事に驚愕する。そうそこに付着しているべき視覚の中枢――括り付いているべき神経がなかったのだ。
「うぎゃあああ!! 視覚逸したああああッ! これから宇宙出るのにいいいいッ! くだらない理由ではしゃぎ過ぎて――はしゃぎが祟って視覚し損じたああああ!!」
「落ち着けって☆。押し戻してみ。眼窩(がんか)に詰め込んでみ?」
「いやもう、これ義眼ですって――あ? あれ? 見える――わたし見えるわ!!」
「ヴァーカ。このヴァカニコフ。ヴァカニコフ14世」
「なんすかそれ、何した人ですか? フランスの天才バカボンみたいなやつですか?」
「ロシアだろ、どーカンガエても☆」
「あー、ニコフってそっか」
「宇宙人に神経なんてもんねーわ。全部〝感覚〟――文字通りの感覚で全てを捉えてんだよ。だから視神経なんてめんどっちーモンはあーしら宇宙人になんか備わっとらんぞよぉ??」
「あー。僕その語尾好きです。里中千枝みたいで、いやでもさっき付いてたんだけどなー」〝そっか――今の今に、宇宙人としてレベルアップしたぞよなのか――ひよっとすると傷付けば傷付くほど強くなる例の――〟
「ドーンッッ☆」
と、キャンディがジテンの腿元を蹴る。サイズ的に親子のじゃれ合いが様相。
「…音だけ聞くと笑うせーるすまん※みたいすね。赤塚不二夫さんの流れで」
※正しくは笑ゥせぇるすまん。
「まあ、お前の記憶を頼りに、そのサトナカチエってのをやったんだけどな」
「服装はちょいその風味ありますね」
「万全に戻ったらそういう服着てやるよ」
「やったあ」
「――で、もう凄まじくあと10秒くらいで核弾頭落っこちるんだけど♡」
「忘れてたぁ!! もうすっかり影で暗いッッ!!」
核弾頭「俺様を前に余裕だな――!!」
ジテン「核弾頭が喋ったああああ!!」
キャンディ「まあ、うっちゅうじんともなるとモノの気持ちも分かるようになるわな」
核弾頭「俺だってこんな大量殺戮兵器として生まれてきたくなかったあああああああああああああああああああああああ!!」
――そんな言葉に、真剣なまなざしになるジテンとキャンディ――
〝カッ――!!〟
そんな目付きで両人はコンタクトし合うのだ。――その目付きたるや、まるでペルソナシリーズに於けるペルソナ発現時のカットイン※――
※ともあれ、それが導入されたのは3から。
二人の間に、もはや音を使った――空気を遣った疎通は不要であった。
――流石の宇宙人。
ジテン「僕が押し上げますッ!!」
その掛け声と共に腰を屈めるジテン!!
キャンディ「んんんん~ッッ!!ンならヴァッ!! あーし☆が衝撃をコロすッっ!!」
〝スポーム〟と跳び上がり、先端着弾すれすれにキャンディは液状化――衣服は既に脱ぎ捨ててある。そのまるでアメーバを扱いた灰銀の包み袋――それがミサイルの先端部をすっぽりと包み込む。
「準備よろし~☆ おもくそやっちゃいなよ!!」
ジテン、精神集中――星座を繰り出す為の。
回想~異空間~
キャンディ〝チミはさ~。きっと追い詰められないと能力発揮できねータイプなんだよ~〟
ジテン〝そーなんすかね~〟
キャンディ〝ま、そーかどうかはさておいてさ、そうかもしれないと気付く事が大事だよね☆ だってそーすっと自分の能力の発揮仕組み――要はスイッチの入れ方が判明するわきゃだからね〟
ジテン〝――あ~そういう考え方もあんのか……〟
キャンディ〝なあに、今から存分にお前は追い詰められる――そこで発揮出来たらもう半分成功よ。だってさ――〟
~再びやミサイル落下地点~
ジテン(――信じますよ――キャンディさん――いや、信じさせてくれ! キャンディさん!!)
腰を落とすジテン。それから腕をピンと伸ばし――十本の指を天に――ではなく、組む。
指を絡め――組む。
〝ガッシ〟
それはバレーボールに於ける排球が体勢。
レシーブが体勢――!!
「いくわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
かめはめ波に次いで、いつか叫んでみたかたった天津飯の名調子。
「レシー――」
――レシーブ座。そう叫ぼうとした矢先の事だ。
弾頭直下目前目下3秒前。
〝オリジナルじゃなきゃダメなんだよな――〟
いつか言われたそんなキャンディからの言葉。
そんな言葉が、只今のジテンの脳内にリフレイン。
〝ドクッ〟
心臓が脈打つ。
〝ドクッ〟〝ドクッ〟
ジテン――〝レシーブ座でいいのか――?〟
キャンディ「うおい! どうしたぁぁ!!」
(――ええとえと――首!)
自分が目の前で酌み交わした両腕――それが生き物の首――某かの長い生き物の首に見えた。
あわれ弾道は地面に直撃し――爆発!!!!!
――しない!!
根元で、両腕で、その細い力んだ両腕だけで支えるジテン。体中を震わせながら。歯を食いしばりながら――
〝ガチガチガチガチッッ〟
「ようやく思いついたぞ――あぶねええギリギリだった――レシーブ座じゃこんなに光ってねえ――こんなにィ光ってねえぞきっとォォォオオオオオ――!!」
彼がそう言う通り、今のジテンの身体は発光――点在する光に包まれていた。
「きっとそうだぜ――排球拳のイメージでまるままやってたら多分死んでた――あぶねえええ今際の際のキワキワのキワップチでなんとか――ッッ」
それから〝ギチギチギチィィィイ〟震えながらも〝ギチギチギチィィイ――〟地表すれすれに落ちこぼれそうになる核弾頭――ミサイルが少しずつ――少しずつ持ち上がる――
ジテン「きゃ、キャンディさん――あれください――あれがねええとおおおお――俺もうキバれない身体になっちゃったよおおおおおッッ」
応援がないと。僕は輝けない。そうジテンは思う。
キャンディ「んもうッ♡何から何まで仕立てて遣んないと甘えんぼさんなんだからッ!」
「ず、ずびまぜん――」
「これでしょおお♡ 放てひっさあああああああああつ!!」
「ぐぬぬぬぬゥゥウウン!!」思い切り力む――持ち上げる――して。
〝ぬぼっ〟
それから腕の力を緩め――持ち上げたミサイルとの間に隙間を生み出す。そして――
〝すうううううううっっ〟
一瞬だけ弛緩した両腕に力が今一度迸ったかと思うと――
☆きゅんぴいーん☆
発光。
〝キュピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ〟「ブラキオサウルス座ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」〝ンンンンンンンンンンンンンンンン!!!〟
振り上げしなの大絶叫。
もうそこにジテンの姿はない。
そこにいたのは、昔、地球を席巻せしめた小さな小さな恐竜――眩ゆかんばかりの小さな首長恐竜の姿しかなかった。
それからそれを覆う仄かな光が弩弓の光を放ち、両腕に強かに、強烈に叩き上げられたミサイルの先端が――――――――――――――――――
空中にぶっ飛び――――――
飛ぶ鳥を驚かせ――――――
雲を突き抜け――
そこにいるへそ出しルックの雷様を驚かせ――――――――――――
大気圏を抜け――――
そこにくつろぐUFΟ内の宇宙人を驚かせ――
〝ふわっ〟
宇宙空間。
⊿
◁{ICBM}
▽
その速度を緩めたミサイルがふわりふわりと地球の引力から離脱してゆく。
その行く先は――
ジテンにも分からない。
「うおっしゃあああああ!!」叫ぶキャンディ。
〝きゅるにゅるるるルンッ〟
人体――人体状を取り戻しつつ、そうキャンディが嬉し込む。
「やったじゃアん!」
「おお――やっぱ俺、追い込まれると力発揮するタイプなんすね……」
地面に〝へなへなり~〟と、へたり込むジテン。(自覚なかった――)
「そそ。なんだからさ――なんかいっつもムヅカシ~コト考えず、あんたいつも笑ってたホーがイイよ☆☆☆」
――よくできましたの三ツ星!!!
【レシーブ】――日本人にはバレーボールや卓球で聴き馴染んだ用語。一聴、専門用語と思われがちだが、実はそうではない。そこには、受け取る、支える、経験する――そんな意味合いが含まれている。そうそう。またの意を――〝迎え撃つ〟〝迎撃する〟
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