第11章 モブ村娘Aの衝撃

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「…て、ことは。やっぱり技術部の人たちは物資の補給が外部から入ってきてるって事実は。昔からちゃんと知ってたって話になりますね」 わたしがじっと考え込みつつ呟くと、高橋くんも生真面目な顔で頷いてそれを肯定した。 「そうだね。非公開の倉庫の奥を見られる立場の人なら、そうやってたびたび新しい段ボールの箱が運び込まれて増えていくことに全く気づかない方がおかしいし。…でも、技術部の全員が同じように事情を知ってるわけでもなさそうだよ。大半の職員は一般の住民と同じに、奥の特別倉庫には立ち入り禁止らしいから。知ってるのは部長及び数人の技術部幹部、って範囲までじゃないかな」 これは取材でわかったことだけど、と前置きして高橋くんが教えてくれたところによると。 高校までの学校教育で理数系に強い優秀な生徒を選抜して、優先的に技術部に配置するのはここでの不文律の決まりではあるが。 そこからさらに職員の勤めぶりや適性を数年かけて見てから内部で誰を抜擢をするか決める。決め手となるのは頭脳の優秀さはもちろんだが、それよりもっと重視されるのは精神面の適性。 すなわち、集落の真実や外の世界との関係、もしその実態を知ることになったとしても。尚且つその後もここを今のまま維持するために、全ての事実を誰にも知らせず飲み込んで胸の内に収められる性質か否か。 集落の現在の平和を保ち、末長く人々が安寧に暮らせればそれでいいと割り切って、そのためなら諸々のことに目を塞いでこの状況を肯定できる清濁併呑む精神の持ち主か。あるいは真逆に、真実がなんであれそれを知っても特に感情に流されたり動揺することなく。ただ自分の仕事だから、ってだけの理由で淡々と目の前の任務に打ち込める冷徹な人物か。 そういった素質をあらゆる面から鑑みて、どうやらこいつは正しいか間違ってるかに捉われず、ひたすら秘密を厳守して現状維持に勤しめるタイプらしい。と見極められた人材だけが、最終的に抜擢されて技術部のトップ、最上位クラスのポジションに就くことができるのだという。 「こんなことはとても見過ごせない、自分が行動を起こすことでもしかしたらここは結果的に崩壊するかもしれないけど。それでもとにかく何も知らない集落の人たちにまずは事実を伝えなきゃ。当事者たちに本当のことを知らせて判断を個々に委ねないのは公正じゃない、とかその手の義憤にいかにも駆られそうなタイプはお呼びじゃない。…俺とか。純架みたいなやつだな、つまりは」 「そんなこと…、」 高橋くんは知らないけど。わたしは別に…、と抗弁しようと口を開きかけ、思い直して結局閉じた。 実際に今、このことを知って。すぐに深く考えもせずに集落に飛んで舞い戻って手当たり次第に出会う人たちを捕まえて、実はここの仕組みはこんな風になってるんですよ!わたしたちは実は大金持ちに飼育された蟻んこの巣の住人で、外の世界は今、令和5年の7月です!って大声で伝えて回ったりはしないよ。とはそりゃ、思うけど。 その伝でいけば高橋くんだってそんなことはしない。現に外がどんな状況か知ってても、集落に入ってくるなり声も高らかに真実を周知して回ったりはしなかった。 でも。彼もだけど、わたしも心情としてはそっち寄りなんだな、ってことが今話しててじわりと自覚できた。 少なくとも、技術部のトップに相応しいと言われる性質や考え方は自分の中にはほばないみたい。…卒業後、技術部に勧誘されなかったわけだ。そういう素質もちゃんと見ているに違いない。理数系の成績が若干物足りなかった、っていう方がもしかしたら決定打になったのかもしれないが。 高橋くんがじっと考え込むわたしの肩を軽く弾いて注意を促した。 「もちろん、今からすぐにそれをやろうって言ってるんじゃないよ。集落の人たちにゆくゆくこのことを知ってもらうにしてもやり方ってものがあるし。反撥や抵抗がなるべく少なく済むような、素直に飲み込めるような方法で納得してもらわないと、みんなに」 「…うん」 高橋くんが気を配ってくれてるのが伝わってきて、素直にありがたいって思いでしおらしく頭を下げる。 彼はわたしの気持ちを引き立てるように、少し声のトーンを上げて明るい声を出した。 「それに内側だけで解決できるような事態じゃないし、そもそも。どうやって今の集落の状況を変えていくかは小手先で何とかなるような話じゃないから、しっかり考えて時間かけて一緒に作戦を立ててからじゃないとね」 「…わかってる。勝手に独断で行動したりしないよ」 むしろ、策を考えようにも高橋くん頼みかも。わたしには外との伝手もないし、まずわからないことがまだ多過ぎる。 「話を一旦整理するけど。つまり前にも言ってた、集落の中にも外がどんな状態か既に知ってる上層部の人がいるって話。あれって結局、技術部長とその周辺の数人って解釈でいいの?村長とか、役場の人たちとかは。そこに含まれないんだ」 話の矛先を変えると、高橋くんはうーん、と唸って曖昧な声で答えた。
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