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俺は、何処にいるんだ?
揺れる蝋燭。湿気を含んだ古い木の匂い。沢山の衣擦れの音。
薄ぼんやりと、少しづつ意識が戻ってくる。そうだ、俺はユイの故郷の村に来たんだ。
ユイはイイ女だ。
先ず、顔が良くてスタイルもいい。自慢の彼女だ。
俺が天涯孤独の身だと知ると、同情してくれて学費や生活費まで出してくれた。いつもニコニコしていて優しい。何をしても怒らない。その金で浮気をしても怒らない。
「にはしらさい? 」
「そうよ、ショウくんにも一緒に来て欲しいの 」
ベッドの中でユイに言われた時は、正直面倒臭いなと思った。『仁柱祭』とは、ユイの実家のある村で14年に1回、村を囲む六本の柱を建て直す際に行う祭なのだという。
上に乗ったユイがくぷりと俺を包み込む。快感に思わず声が漏れた。
「結婚してくれるんでしょう?」
ゆるゆると揺れる細腰。何も考えられなくなり、俺は頷いた。
夏休みが来て、ユイの運転する車で村にやって来た。今時、スマホも通じないド田舎に俺は驚いた。それから、村の人達の俺への歓迎ぶりにも。
ただ気になったのは、皆が俺のことを『綺麗だ』と言うことだった。ユイにも「綺麗な人を見つけたね」と。俺は男なのだから褒め言葉にはならないのに。
段々と記憶が戻ってくる。夕飯をユイの家で食べた後から思い出せない。フツリと途切れている。
俺はどうやら、神社の社の中で寝かされているようだ。周りで村人達が白い着物を来て座っている。
その中からユイが前に出てきた。しかしホッとしたのは束の間だった。同時に数人の男と、一際体格の良い男が大きな斧を持って立ち上がったからだ。近付いたユイが囁く。
「ショウくんは神様と結婚するのよ」
「ユ……イ?」
「神様の前で六人の僕を通じ純潔を捧げ、身体を六つに分けて仁柱様になるの。とっても名誉なことよ 」
ユイはニコッといつもの様に微笑った。
仁柱は『ひとばしら』とも読めるのだと気付いたが、叫び声をあげることはできなかった。
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