君の面影

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 西暦2223年、ここ日本では亡くなった人の持つ全データから人工知能を作成するAIサービスがいくつか販売されていた。  ロボットに搭載したり、パーソナルコンピューターに搭載したり、自分のアシスタントAIに亡くなった大切な人を採用する、というサービスの存在は誰もが知るところになっている。ただ、費用はまだまだ高くて、一部の富裕層にしか普及はしていない。  僕は、2年前に幼馴染を亡くした。  幼馴染は惑星探査チームで仕事をしていて、その業務中で行方不明になった。こういう事故は珍しくないため、宇宙関係の仕事には危険手当や労災保険制度が充実しているのだそうだ。  だから、彼の家族がAIサービスを購入するのは比較的自然な流れだったし、僕も特別驚いたりはしなかった。  「折角だから話しに来てあげて。きっと喜ぶから」と彼の母親に誘われた時は、正直戸惑ったけれど。  彼の家は近い。地球に住む日本人同士で年齢が同じだというだけで幼馴染のようなものだけれど、その中でも本当に近所に住んでいるのは彼だけだった。  30平方メートルに1軒ずつ割り当てられた家の区画で、彼の家は5軒先。つまり、150メートルほどモビールに乗れば到着する。  モビールは、行き先を入力すれば誰もが道に迷わずに目的地に着ける自動運転の乗り物で、アシスタントAIを入れておけば買い物や外出にすごく便利だ。  見た目は3輪で、前の席に1人、後ろに2人乗れるようになっているけれど、大抵の人は後ろの席に荷物を載せて運ぶために1人1台ずつ所有する。  そのモビールに乗り込んで、僕は電源スイッチを押した。  バッテリーは太陽光発電式で、電池側には寿命がある。僕のモビールはそろそろ電池交換の時期になりそうなくらい、1回の稼働時間が短くなっていた。  まあ、最悪電池切れで止まってしまっても、しばらく待てば太陽光発電により電源が復活して少しずつは動くんだろうけど。  モビールの電池寿命があるのは、メーカー側の都合と電池交換の場を作ることでメンテナンスを義務化させ、安全性を一定に保つためらしい。
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