鬼が出るか蛇が出るか

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「チッ」と杏樹が舌打ちをし、紅葉(クレハ)が「逃げられた」と、つぶやいた。  悔しそうな顔をみせる鬼女の姉妹。ところがその時だった。1機のヘリコプターの羽が回りだしたかとおもうと矢継ぎ早に飛び立った。したらば、そのヘリコプターと代わるようにしてもう1機のヘリコプターが着陸しだす。  そのとたん、紫音に扮した紅炎が切迫した低い声をだした。 「紅葉殿、杏樹殿、すぐに隠れよ」  彼女達も、ただならぬ気配を感じとり咄嗟に姿を消し洞義(ボラギ)らの後ろに隠れた。クモノコフとクモコビッチも紫音に云われた通り王 大老(ワン タイロウ )をガードするように前に出た。    洞義(ボラギ)埜僂(ノール)(エイ)も突然、空気がピリピリと張り詰めたのを察し、ヘリコプターから降りてくる何者かに想像を巡らせ固唾を呑んだ。 「出て来るわよ!」  クモコビッチが小声で皆に知らせた。  ヘリから降りてきたのは、身の丈が3メートルもある武骨そうな大男と、はっと目を見張るような美少年だった。 「…!! 奴らは…! なぜここに!?」  この国の政権を握る参公党と人民義勇軍、それに闇の結社であるオロジャッジグループを徹底的に調査した洞義(ボラギ)が驚愕する。 「アニジャ、奴らは一体、誰なんですか?」 「あいつらは、オロジャッジの四天王と云われる、黒鬼(こっき)化蛇(かだ)だ」  黒鬼はこの大地に太古の昔から存在する伝説の鬼。力も黒龍にまったく引けをとらないことから魔物の間では最高色である黒を名に入れられた。  化蛇は古代中国の妖怪。山海経、中次二教には、化蛇は水獣であると記されている。顔が人面で、(さい)《アカオオカミ》のような胴体から翼を生え、蛇のように動き、その声は人が叱責しているようであると伝えられている。また、水害を招くという記載もある。つまり、狼のような胴体に2つの翼が生え、人の顔をしている。そして蛇のようにくねくねと蛇行して這い、とぐろを巻く妖怪。化蛇の声は人の赤ちゃんの泣き声とも、女性の怒鳴り声とも言われているが、声を発すること自体珍しいと。しかし、いったん声を発すると地を押し流すような大洪水を起こしてしまうと云う厄介な妖怪だ。
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