戯れの神芝居

10/12
前へ
/187ページ
次へ
 紫音をお守りがわりとして(そば)に置いておきたい照美。それに加え、なにか紫音と成し遂げなければならない大きな目的があったのだろう。    片や紫音は今まで通り複数の女性と契りを結び続けたかった。特に祇園のクラブパトロナージュのチーママである麗子とは。  去年の年末から照美と紫音が大妖の討伐と、日本各地のどこかにあるオーヴを探しまわり、一段落ついた頃だった。それが、約三ヶ月前の話。  その後、なぜか紫音は照美のペースに呑み込まれていく。いや、前々から尻に敷かれ過ぎた座布団のように照美の前では、かなりへたっているようだった。  そしていつの日か知らぬ間に、照美との婚約話が進んでいた。もちろん婚姻後は婿養子になることが決まっていた。そのことに当惑していた紫音は、できるだけ照美との距離を置こうとする。  だが、ことあるごとに照美から呼び出しを受け簡単には断れないでいた。それもそのはず、相手は太陽の女神の化身。加えて日本の神で云い表すなら天照大神(あまてらすおおみのかみ)だ。さらに、仏の世界での名は大日如来なのだから。これが本当の彼女の正体だった。このことは、誰から聞いた訳でもなく紫音が深い瞑想のなかで悟ったこと。かの昔、六十代目の醍醐天皇も同じように悟ったと文献には記されている。ゆえに、モーセやキリストも、あえて当時の天皇に挨拶しにきたとか。シルクロードを通り、遥か彼方の日本まで来たというのだから驚きだ。  これにより紫音は、余計に照美のことを存外には扱うことができなくなっていた。その上、人類や神々の頂点に君臨する存在。その神様が、人々の犯した罪のせいで贖罪を受ける運命なのだと知った。特に、おざなりにはできない存在だと悟る。  かといって、こよなく女と自由を愛する紫音は、日夜、考え続けた。どうしたら、照美を(ないがし)ろにせずに自分のしたいことができるのだろうかと。  そのような時だった。照美の身内が勢揃いする日が近づいていた。その日は、照美の父親の誕生日。普段から照美の親類縁者が忙しくするなか、一年に数回、皆で集まる日があったようだ。  本家である北条家の京都の家には、親戚などを含め総勢100人近くが集結する。それは毎年恒例のイベントのようなものだった。  その日の照美は心に決めていたことがあった。それは、皆の前で紫音を婚約者として紹介すること。  がしかし、お相手は風俗産業を営む経営者。まともな家なら誰もが反対するだろう。ところが、そのようなことは、さほど気にしない家柄のよう。しきたりや風習にとらわれる者が少なく、とても寛大な家族。それに、今まで照美の言うことに異議を唱えた者は誰もいなかった。そういう一族だったのだ。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加